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名のない僕ら③

安倍晴明。

その名前はよく知られている。

しかし、

その子孫は___?

体育の授業が終わり、生徒達が体育館を後にする。

和気は生徒達との距離を空けて歩いて行く。


「何で急にあんなおっきい声出したの。普通に言ってくれればいいのに。」


和気は口を膨らませながらそう言う。

だが一方、宵は悪戯っ子のような笑みをしていた。


「まぁ見とけって。」


「はぁ?何が……」


和気は足を止め、ソレに目をやった。

花壇から伸びている無数の手。

和気が進みたい廊下にもその手は伸びていて何かを掴もうとする。

生徒達はソレに気付くことなく歩み、掴もうとするその手を透けて行く。


「きっっも〜。」


宵は和気の腕を軽く抱きしめた。

女子みたいに言っているが心が篭ってない。


「ねぇ。宵はアイツらを祓えるの?」


「んなこと俺にはできねぇよ。

ただ、狭間者の俺をアイツらは避けたがるだけ、

だと思う。」


宵はニヤニヤとしてソレを見る。


「狭間者ってな」


「祓うって言うなら、



俺よりお前がだろ。」






「________え?」


和気は隣に立つ宵に恐る恐る顔を向けた。

彼は何もないかのような表情でアレへと視線を向けている。


(やっぱり、知ってるんだ…。)


「僕の家系は祓を専門にしてるわけじゃないよ。

あくまで食を捧げるだけ。見返りなんてないのに…。」


「_________そ。」


和気は歩き出そうと足を一歩出す、が。


「待て。」


宵が和気の裾を掴んだ。


「なに?え?」


和気の目元を宵の手が覆い、和気の視界を塞いだ。


「どうしたの?急に。


_______宵?」


宵は黒いソレの様子をじっと見つめる。

何かを掴むその様子。

すると、一本の腕が伸び、欲しがっただろう何か黒く光るモノを掴んだ。

そしてその手は握りしめたまま花壇へと帰って行き、

消えた。


(ははっ。)



宵は和気の視界を塞ぐその片手にもう片方の手を被せた。


(残念。片思い。)



「はっ」と鼻笑いを漏らすと、和気が宵の手を掴もうとする。

しかし、それは透け通ってしまう。


「あれ、なんで?僕は触れる筈なのに。」


宵が和気の目元から手を退き、視界を開かさせた。


「俺をアイツらと一緒にすんなよ。

俺の意思で変えれんだよ。

お前に触れるか、触れないか。」


和気は気を取られたのか、花壇からの存在を忘れて歩き出した。

そして宵を見上げつつ口を膨らます。


「なんか、それ。よいだけずるくない?」


外からの風が和気の髪を動かす。

毛量の多く髪の長いことで隠された和気の素顔がチラつく。


あまりにも顔が綺麗だったからか、

それともホカの理由か、


宵の心臓がドクッと拍動したのが感じられた。


耳は赤い。

だけどそれを隠すようにそっぽを向いた。


和気の頭に手を置き、大型犬を撫でるかのようにわしゃわしゃと乱暴に撫でる。


「わっちょっ宵!」


側から見れば風のせいで和気の髪だけが荒らされているよう。

だけど名の奪われた影の薄い和気に気付く者などいない。


1人の王子様を除いて。




***




そして授業が終わりSHRに。

担任からの連絡事項を伝えられてから掃除の時間となる。


和気の当たっている掃除場所は教室。

勿論仲の良い人なんていないから和気は箒を手に取って端で掃除をしていた。

他のメンバーは何やら楽しそうに談笑していて掃除なぞしていない。

1年生の時と同様だから何とも思わない、けれども。


(_______いいな…。)


捨てたつもりでも

その感情は高校生の和気には捨てきれなかった。


掃除中、宵はというと

教室の一番後ろ、ロッカーの上に座っている。


気分が落ち込んでいく和気の近くに黒いアイツらが生まれていくのを観察していた。


「んー…

名前が奪われてあの外見じゃ、そりゃぁ影薄いだろ。

せめて外見だけでも直したら…」


和気をじっと見つめる。

よく見ていればその髪の隙間から、あの時顔を出した和気の瞳が顕在する。


「外見、だけでも……」


宵は軽く舌打ちをしてからロッカーの上で横になった。




***




掃除を終えた様子を見た宵は教室全体に響くよう声を出す。


「和気ー!おくじょー!」


宵は和気の側にやって来る。

ロッカーを降りた時、宵は鳥の花のように重力に従わずに地上に降り立った。


「幽霊ってやっぱ浮くんだ。」


大声を出されたことをいちいちもう気に留めることもなく宵に小声で話しかけた。


「はぁ?だから何で俺、、が、、、」


教室の扉を跨ごうとする和気の肩を宵が掴み止めた。


「かかったな………。そうそう上手くはいかねぇか。」


「宵?」


和気は己を止めた宵に顔を向けるため振り返ろうとするが、宵が和気の耳元に顔を近付けたことにより阻んだ。


「和気。何も言わずに屋上まで行け。

俺は窓から上がってく。」


「え?どういうこ」


宵は和気の体を強く押し、何処か楽しんでいるかのような声色で無邪気に言う。


「走れ!」


和気は言われるがまま頭の中を『?』にして屋上へと走り出す。

教室から出たときに右手に金髪の人がいたように見えたが気に留めず駆け出した。


生徒達が和気と通り過ぎて行く。

空気を切り裂いて和気は己の服や髪を激しく揺らした。


扉へと辿り着き、勢い良く開けると正面には息を切らした宵がそこにいた。


和気も同じく息を切らしつつ、声を絞った。


「よいっ、きゅうにっ、どうしたのっ。」


曲げた膝に両手をついていた宵は「ふっ」と漏らしたかと思うと、


「ふはっ、はははっ!まじかよ!」


体を起こし、宵は和気を手招きする。

それに何も返さず和気は宵の元へ来る。



「俺のこと、



殺したいみてぇじゃん。」



「ころ、、え?!」


宵は和気の肩を持ち、自分へと引き寄せる。体制の崩した和気は倒れる形で宵に密着した。




「離れろ。腐った霊ごときが。」






声のする方を見るとそれは屋上へと続く扉。

扉は開いており、壁には体を預けている男子生徒がいる。

あの金髪にあの顔立ち。

忘れるはずもない。


「B組の!_______だれ?」


金髪の男の体が少しずり落ちた。


「ま、まぁ。

僕らに直接の関わりはなかったから、知らなくて当然だよ。うん…」


彼はこちらへと歩いて来た。

靴音が屋上に響く。

宵に引っ張られて和気の体はつられて後ろへ動かされて行く。



「僕は知ってるけどね。」



彼が指を空中で回し、僕を指差す。


「えっ…」


体が硬直、いや、

何かに縛られたかのように動かなくなった。


「おい和気!」


宵が和気の体を必死に引っ張るが動かない。


「動かないんだって!」


彼はゆっくりと和気に近づいて来る。

宵は和気から数歩後ろに下がった。



「名を奪われてるんだよね。和気____くん。」



己の名前を呼んだはずなのにそれは聞こえなかった。


「僕の名のこと……なんで…」


和気がビクッと肩を上げた。


「お前、苗字は?」


金髪の彼は宵の体に対しても軽やかに笑む。



「土御門。」



土御門と名乗る男は和気目の前に来て立ち止まる。

和気は自分よりも背の高い彼を見上げる。

彼は和気の目をじっと見つめていた。


「大陰陽師、安倍晴明の子孫か。」


土御門は宵には目もくれず和気と視線を合わせているとニコッと笑み、やっと宵へと視線を移した。


「で、僕を誘き寄せたのは何で?」


和気の頭は真っ白。

だが今日のことを振り返ってからやっと、宵が大声で話していたことと土御門を宵が不思議がっていたことを思い出した。


「初めは俺たちに協力してくんねぇかなーと思って。

だが無理そうだな。」


宵が和気の背中に指を当てて、下へとなぞる。

すると和気の拘束は外れて自由の身となった。


「どうしてそう思うの。」


和気は反動で後ろへと下がり再び宵の側に寄った。


「さっき和気が教室から出ようとした時、

俺のこと狙ってたろ。

もしかしたらっつーわんちゃんにかけてたけど、あの時に無理だと分かった。」


宵は和気の体に抱きつき、頬を和気の胸元に擦り付ける。


「ひどいヨー。

俺は悪いヤツじゃないヨー。うぇーん。」


「ちょっと、よ」


「和気くんに近付くな。」


土御門が宵に対して先ほどと同じように指を回し、振り下ろした。

宵を囲うように星形の光が生まれるが1秒もしないうちに跡形もなく消える。


「俺をほんじゃそこらの霊と一緒にすんじゃねぇよ。」


宵が煽るかのような表情で土御門を見やる。

土御門の顔を曇り始めた時、



「ちょっと待って!

僕には何のことか、さっぱり分かんない!」


和気が宵と土御門の前で腕を広げ制した。

両者は驚いた表情を見せ固まる。


「えっと、土御門くんは何で僕のことを知ってるの?それに何で宵のことが見えるの?」


土御門は上げた肩を下げ、朗らかに笑む。


「さっきソレが言ったように僕は土御門、

簡単に言えば安倍晴明の子孫なんだ。

だから家系上、僕も見える側の人間。君と同じだよ。」


「安倍晴明…」


和気は記憶を遡る。

祖父から教えられたことの内一つ、

安倍晴明について。


(陰陽師を束ねた安倍晴明の末裔…。)


和気は心のうちで手のひらに拳を置き、『合点』と納得する。


「僕のことは?どうして?みんな覚えてないのに…」


和気は己を指差し首を傾げる。






「________。」






土御門は何故か沈黙に至る。





すると、上っ面だけの笑顔を張り付けて、


「きっと、

名を奪う力が僕の力に負けたんだろうね。

だから君の名も存在もはっきり覚えてるのかな。」


「______っ、」


(違う。僕が聞きたいのは…



何で君のような人気者が、

僕のことなんか知っていたのか_____)



宵は和気の手を掴んで後ろへと引っ張り、土御門と距離を取る。

土御門は手を腰に当て、体を楽にする。


「僕からも質問。

どうして和気くんはソレと一緒にいるの?」


「______僕は名が、宵は姓が七不思議に奪われたから」


「七不思議から返してもらうっつー協力関係なんだよ。

お前も協力してくれんならって思ったけど…

俺のこと殺してぇならやっぱどーでもいいわ。

帰った帰った。」


土御門は溜息を吐いてから、


「僕は和気くんに聞いたんだけど?勝手に割り込まないでくれない?」


和気と土御門を視線を交わらせた。

正面から顔を見ると、

やはり王子様のような顔立ちに輝く金髪。

助けが必要なお姫様に手を差し伸べてくれる王子様。

土御門はそんな空気を纏っていた。





「和気くん、君さえ良ければ僕が協力するよ。


ソレとの関係を切ってくれたら。」





和気へと手を差し出す土御門。

本当に王子様のよう。

なのに和気と宵には冷たい空気が感じられた。


和気と宵は互いに表情が見えなかったし、見ようとしなかった。


狭間と言われる世にいる宵との協力

現世に存在する大陰陽師の子孫との協力


どちらと組むべきかなんて明確だ。


「僕は______」




「僕は、







______________宵とがいい。」



和気は宵へと振り返る。

振り返った瞬間、重たい髪が跳ねて和気の大きな瞳と額の傷跡が顕になる。

宵の目は大きく開かれた。


和気の返事にか、

その瞳にか、

その隠された傷跡にか、


何に驚いたのかはわからない。


ただ、和気は『お姫様にはならない』という選択を取ったことだけは明らかだった。



宵の瞳は光で滲んでいた。


和気の返事が嬉しかったから?

否。



「_______どうして?

君にとってもいい提案じゃないかな。和気くん。」



土御門は差し伸べた手を握りしめ、その場で下ろした。

その顔は暗い。


「僕はソレよりも力もある。

それに、君とソレは深い仲でもないだろう?」


和気は土御門に背を向けたまま俯いた。


「分かってる。


けど______________。」



理由は分からない。

けれども宵と離れることに怖がっている自分がいた。

初めて会った、筈なのに。



それまで黙っていた宵が口を震わしつつ開く。



「おまえっ、、、、それっ、、、、、」



「え?」



和気は顔を上げて宵と顔を向き合わせた。

宵の顔には困惑が漂っており、和気の顔を凝視していた。


「_______よ」


「分かった。」


和気の言葉を土御門が制し、和気は再び彼に顔を向ける。


「僕は君の意見を否定しない。

だけど______」


土御門はこちらを向きながら後ろへと歩いて行き、扉を跨いで屋内に入った。


「和気くんが望んでも

その霊が君の期待に応えられるのかな?」


土御門は何か含んだ笑みを見せる。


「……何がいいてぇんだ」


「七不思議が一つ。『屋上の黒』。」


土御門は和気を、和気の足元を指差す。

和気は訳も分からず土御門へと足を踏み出した。

そして、それを持たないカレは気付く。


「和気!影が!」


そう言われて和気は自分の足元を見る。

その影は和気の動きと1秒程遅れてから動いていた。


「え?わっ、わっ、わわわわわ!!!」


和気はあたふたし始め、その場で跳び始める。

宵も驚いてしまい、何故か同じく跳び始める。


「七不思議が一つ、『屋上の黒』。

噂によれば、

16時44分に屋上にいた者に怪奇現象が起こる。何でも影が現世の人間と入れ替わろうとしている、、とか。」


土御門はスマホを取り出して画面を見やる。


「今は16時46分。そして、、、


さん



にぃ



いち。」





「47分。」

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