雨宿りしながら
突然の豪雨。
僕はランドセルを傘代わり、雨を凌げる場所を探していた。
「くそ、田舎はこれだからイヤなんだ」
走る。前すらロクに見えない中、バス停があった。滑り込むように、屋根の下に隠れる。
「ふー」
ベンチに座ろうと後ろを向く。すると、そこには女性がいた。白いワンピース。不思議なものを見るように、僕を見つめている。
沈黙。雨だけが屋根に打ちつけ、鳴る。耐えきれず、口を開く。
「お姉さん、タオル持ってます?」
僕の手元にタオルはない。彼女は慌てて、ポッケから白いハンカチを差し出す。
「これしかないけど、よかったら」
ツヤツヤのハンカチ。頭を下げながら受け取る。触れた指先が冷たい、彼女も濡らされたのだろう。
顔を拭きながら、
「ありがとうございます」
彼女は少しの間をあけ、質問。
「キミ、見ない顔だね。引っ越してきたの?」
頷く。
「そう、この町はどう?」
俯く。顔からハンカチを離し、冷ややかな風を顔に受ける。彼女はフッと笑いながら、続けた。
「いい町だよ。キミもきっと好きになる」
しゃがむ彼女は、僕と目を合わせる。黒く深い瞳、僕の顔が反射していた。その瞳に促されるように、僕は零し始めた。
「好きになれる自信は、ないです。むしろ嫌いです」
孤立し、馴染めない教室。友達は出来ず、話もうまく出来ない。言葉が詰まってしまう、どうしても人の輪に馴染めない。
言いながら、目を逸してしまった。恐る恐る、視線を戻す。彼女は顎に手を当て、悩んでいた。しかし、すぐに整理出来たのか、僕の方を向き直した。そして、口を開いた。
「やっぱり、好きになる必要はないよ」
「え?」
さっきと正反対だ。口を開けたままの僕に、彼女は軽く、しかしブレない声で続ける。
「無理することはない、やりたいようにやればいい。結局、それだけだなって」
聞いた瞬間、胸が温まった。奥の方からじんわりと。
気が付いたら、雨も止んでいた。一転して、眩しい。
「お、止んだね。よかったよかった」
彼女は立ち上がり、バス停を去っていく。
「待って、このハンカチは?」
「んー、またあったときに返してね〜」
彼女は止まらなかった。通った道は、太陽が反射してキラキラと輝く。追いかけたかったけれど、辞めておいた。
――ガヤガヤ
扉越しに話し声を聞く。最近は挨拶すら出来なかった。扉を開け、大きく息を吸い込んだ。
「おはよう、ございます!」
ちょっと詰まったが、今はこれでいい。これからも、雨宿りしながら、進んでいく。




