ぼっちの少年
時は2113年、全人類が注目していた期待のルーキーの天才少年がMCRIに加入してから数ヶ月が経っていた。
「あなたたち…こんなことも説明がないと理解できないと?ボクよりも先にここにいたのに何をしていたんです か?」
年端もいかぬ少年の放ったこの一言で研究室は静まり返った。
少年の名前は”オリバー”
オリバーは初等部1年の時、幼いながらも解明されている多くの魔術理論を理解したと言われていて、
世間から天才と持て囃されていた。
そのせいか少し尊大な態度をとる傾向にあった。
同室の研究員をこのようになじる光景も日常になりつつある。
当然、この態度のせいで研究員たちからは忌避されている。一緒に昼食を取る相手だっていないのだ。
「なあオリバー、もう少し研究員にわかりやすい説明をしてやれないか?」
恐る恐る研究室の室長が声をかける。
「申し訳ありませんがボクはこれでも十分譲歩して会話しています。むしろ唯一の魔術研究機関にいるというのに簡単な魔素反応ですら理解できていないこの研究員たちがおかしいのです。世界を背負っているという自覚がないんですか?」
オリバーは不満げな表情でこたえる。
「オリバー、彼らは魔素反応が理解できていないのではなく…難解なキミの言い回しに困っているんだよ。
キミの話す言葉は…なんというか、少し話が飛躍しがちだから何度も前の話を聞き直さないと理解しきれないんだ。だからもう少し頭の中の言葉を外にも出してくれないか…?」
そう。オリバーは”魔術”についての天才という自覚があるが故に”魔術”だけやればいいと思い込み、
ろくにわかりやすい文章構成の仕方を学んでこなかったのである。
「…」
オリバーは絶句した。自分の欠陥を指摘されるのなんて初めてだったからだ。
「オリバー、申し訳ないが改善できないとなるとこの研究室には残れない。その代わり、新しくまた研究室が作られるようだから、そっちに行けるようにキミのことを推薦したいんだが…どうかね。」
「わかりました。異動します…。」
いじけた声でオリバーは応える。自分の欠点を指摘されたことに腹は立っているが、それ以上に研究ができなくなるのが嫌で室長からのこの申し出がありがたかったからだ。
「じゃあ早速推薦状を書くからノクスという人間に渡してきてくれ。たぶん中庭にいるから。」
「ありがとうございます…。」
これは、のちにオリバーに大きな変化を与えるきっかけとなる。