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日常を彩るライフハック短編小説集  作者: 地野千塩


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コーヒーに砂糖を入れる時

 騙された。普通の男だと思っていたのに、年収三千万円の会社経営者だったなんて。


 現在、前田萌花はカフェにいた。駅前近くにある昭和レトロっぽいカフェ。マスターも渋い雰囲気でコーヒーの匂いがこれ以上ないぐらいマッチしているカフェだった。


 そんなカフェでマッチングアプリで知り合った相手と会っていた。確かマッチングアプリでは公務員で年収も日本の平均値だった。身長も学歴も全部普通だと思ってマッチしたのに、相手はここに着いてすぐに真相を告白。


「だって金目当ての女がいっぱい寄ってくるからさ。年収他全部嘘ついてたってわけ」


 相手は全く悪びれない。名前は佐藤崇。名前も普通なのに、彼が語る仕事内容が全く普通じゃない。飲食店も経営しているらしいが、うまくいかない時は年収マイナスになる時もあるらしい。借金苦も何度も経験したと笑う。


 萌花は絶句。なぜ普通の男とマッチングしたはずなのに、こんな話を聞かされているのだろうか。


「あれ? なんか、君、怒ってる?」


 怒ってるというか、呆れてるというか、ため息が出てくる。


 思えば婚活、全然うまくいっていない。結婚相談所でもなんとなくカウンセラーの意見が厳しかった。だから低望みして普通を目指したはずなのに。まさか相手にこんな嘘をつかれてしまうとは。


 思わず下を向いてしまったが、その時、マスターが注文したコーヒーを持ってきた。ソーサーにはスティックシュガーも添えられていたが、甘い気分じゃない。ブラックコーヒー一択だ。


 一方、佐藤崇の方は変な砂糖の入れ方をしていた。スティックシュガーの両端をもち、ぱきっと真ん中で折るように砂糖を入れてる。こうすると、砂糖が散らばりにくく入れやすいらしい。


「ネットでみたライフハックだがな。こういう型破りのやり方っていいよな」

「そうですかね?」


 佐藤崇は無邪気に笑っていた。笑うと目尻に皺ができ、案外親しみやすい。アラサーぐらいの男だが、ちょっと子供じみてる笑顔。マッチングアプリで嘘をついていたのも、イタズラ心だったのだろうか。確かにわざわざ年収などを低く申告するのは、逆のケースと比べれば可愛いものか。


 ふと、飲みかけのコーヒーに視線を落とす。このコーヒーも少し甘くしても良いかもしれない。彼と同じ方法で砂糖を入れてみた。確かにサラサラと綺麗に入れられた。


「型破りの方法、ちょっといいかも?」


 少し笑ってしまう。佐藤崇の笑顔につられてしまったのかもしれない。むう少し彼の「普通じゃない話」を聞いてみたい。興味が出てきた。


「そうだよ。普通だけが正しいわけじゃないから。実は今、リラクゼーションサロンの進出も考えていて……」


 今は普通を目指すのもお休みしてみるか。飲んでいるコーヒーもほんのり甘いし、気が抜けてきた。


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