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日常を彩るライフハック短編小説集  作者: 地野千塩


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ゆで卵の殻を剥く時

 自炊ってなんでこんなに難しいんだろう。


「は? なんでレンジでお米炊いたらこんな吹きこぼれてるの!?」


 最近、自炊をやってみようと思いたち、レンチンの簡単レシピ本を買って試してる黒崎心優。大学時代から一人暮らし中は自炊せず、コンビニで済ませていたが、二十五歳を過ぎ、健康診断の結果が悪く自炊をやってみようと思ったが、自分の要領の悪さにイライラしてくる。


 レシピ本通りにちゃんと守ってやっているのに、煮物もサラダもスープも上手くできない。焦げついたり、味が思ったより濃かったり、薄かったり、どうもイマイチ。


 極めつけはゆで卵だ。茹でるだけの簡単すぎる料理なののに殻が上手く剥けず、ボロボロ。全然、つるんとしたゆで卵にならない。


「何これ。どういうこと?」


 何か努力が全部から回っている気がする。料理なんて再現性が高いものだと思っていたが、作り手の要領の良さやキッチンの状況、人それぞれの味覚も影響しているのだろう。


「もうレシピ本の『少々』とか『お好みで』とか辞めて欲しい」


 思わず髪をかきむしりたくなってきたが、ゆで卵ぐらいはまともに作りたい。


「ゆで卵 殻 むき方」で検索すると大量の情報がヒット。


「いや、なんかかえってどれ試せばいいかわからない……」


 それでも鍋にレモン汁を入れて煮る方法だったら、どうにかできそうだ。鍋にスプーンを入れる方法も簡単だが、ちょうど紅茶用のレモン汁が余ってる。このまま冷蔵庫で眠らせておくのはもったいない。


 そして試してみると、するっと剥けた。


「うそ、ぼろぼろにならない」


 むきたてのゆで卵、つるんとしてる。半分に割ると、ちょうどいい硬さだ。ずっと失敗続きだったから、ゆで卵が作れただけでも目頭が熱くなってきた。ゆで卵、いつもよりおいしい。塩をふっただけなのに。


「そうか、失敗って必要だったのか……」


 成功した時、余計に嬉しくなるから。


 それに、何が失敗の原因だったか自分でも考えるようになったし、スマホでなんでも調べられる時代なのに、脳のいい運動になっている。情報の取捨選択でさえ、料理の失敗原因になることも学んだ。


「ネットで有名なレシピ本だったけど、自分にはあってなかったかもな」


 そのことにも気づいた。


 今度は曖昧な表現が少なく、本当に基礎中の基礎から書いてあるレシピ本を買ってみた。たぶん子供が使うようなレシピ本だが、これが一番自分には合ってたみたい。おかげで今のところ大きな失敗はなく、自炊が続いている。


 今は失敗して良かった気もするから不思議なものだ。いつも間にか自炊も苦じゃなく、少し楽しみになってきた。


「よし、今日はドライカレーを作ろうかな」


 ゆで卵もちゃんトッピングする予定だ。


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