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日常を彩るライフハック短編小説集  作者: 地野千塩


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油がこぼれた時

 人の記憶って不思議なものだ。子供の頃の記憶も意外と忘れない。日本史の授業で聞いたことなんてすぐ忘れるのに。


「あぁ、全然勉強捗らないや」


 小松崎ヒナタ、現在受験勉強中。今日は土曜日だが、SNSもアニメも我慢して机に向かっていたが、ダメだ。特に苦手な日本史を取り組んでいたら脳の糖分、全部蒸発してしまった感じ。


「何か甘いものないかな?」


 つい冷蔵庫の中を見てみるが、見事に甘いものがない。母も出かけている。祖母の介護中だったし、土日も不在の日が多い。


「あ、でもホットケーキミックスはある。牛乳もバターもあるし、これで何か作るかぁ」


 甘いものを食べたくて仕方なくなり、ドーナツでも作ることに。確か子供の頃、祖母に作り方を教わった。ホットケーキミックスを使うと簡単にできた記憶がある。


「本当、不思議。日本史とか全然覚えられないのに……」


 ドーナツ、揚げる前までの形、なんとか作れた。最後にフライパンにサラダ油を入れて揚げるだけだ。思ったより簡単だ。


 しかし、ここで油をこぼしてしまった。床がベタベタ。これは後で母に怒られる。


「あぁ、どうしよう?」


 たぶん、ティッシュとかで拭いてもベタベタ感は取れない。


「あ、でも。そういえば……」


 確か祖母はこんな時、小麦粉で掃除していた。油をこぼした時は小麦粉。そう笑って言ってた記憶。


 すぐに試してみると、小麦粉が油を吸い込み綺麗になってしまった。ドーナツも油であげ、甘い匂いがキッチンに広がる。


「揚げたては絶品だなぁ……」


 ようやく甘いものにありつけ、肩の力が抜けてくる。確かに美味しいが、なぜかちょっとだけ苦い。


 祖母のことを思い出しているからかもしれない。子供の頃は一緒にドーナツを作って二人で笑いながら食べた。今は一人。何かちょっと物足りない感じ。


 今の祖母は認知症もすすみ、もうドーナツを作れる状況ではない。前に一度近所を徘徊し、警察の世話になったこともある。


 もうヒナタの顔や名前も忘れてる。前に祖母に会った時も「ユイちゃん?」と呼ばれた。果たしてユイちゃんとは誰だろうか。心当たりは全くないが、否定すると癇癪を起こすと母に言われていたので、ニコニコ笑って話を合わせるしかない。


「もうおばあちゃん、このドーナツも忘れたかなぁ……」


 油をこぼした時の対処法もたぶん忘れている。


「でも私が覚えていたら、良いのかな?」


 ドーナツを食べながら、 そんな気がする。日本史は全然記憶できないが、大切なことを忘れなければ良い。


 気づくと目の前のドーナツ、綺麗に完食してしまった。


「よし、勉強も頑張るかぁ」


 今はそれも大事だ。受験勉強を乗り越えたら、祖母に良い報告をしたい。

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