肉まんを温める時
三月中旬、だんだんと風も温かくなってきたと思ったら、今日はやけに寒い。小雨も降ってる。
松中華恵は鼻をかみながら歩いていた。これは花粉のせいか、寒さのせいかよくわからないところ。
「寒い……」
思わず呟くが、近所のスーパーに入る。といっても最近増えている小型スーパー。品揃えはコンビニ風、値段はスーパー価格という一人暮らしにはありがたいお店。
会社帰りの夜のせいか、割引き商品も多い。ついついヨーグルトやシュークリームもカゴに入れてしまったが、ふと、チルドコーナーを見ると、肉まんがあった。値引きはされていないが、こう寒いと惹かれる。アラフォーの華恵はちょっと背徳感もある。胃もたれするかもしれないが。
「まあ、こんな寒い日はいいか……」
家に帰り、暖房をつけたら肉まんを温めた。確かネットの情報だとマグカップに水を入れ、蓋をするように肉まんを置きレンチンするとおいしいんだった。
本当は蒸し器を使うのが一番おいしいらしいが、一人暮らしの独身女性の華恵には、蒸し器はなかなかハードルが高い。
「本当は丁寧な暮らしとか憧れるけどね……」
そんなことを考えていたら、レンジの音が響く。飛び跳ねるような音だ。ちょっと華恵の気分も上がってくる。
それに目の前にはほかほかの肉まんがある。表面もツヤツヤとし、ふわっと湯気も出ている。見ているだけでも心もほかほかだ。
一口かぶりつく。ちょっと雑か。一人暮らしだしいいか。そんなことより、肉汁が口いっぱい広がり、思わず目尻が下がっていく。
「わぁ。やっぱり寒い日の肉まん最高だわ」
会社の帰り道の寒さでさえ、今は肉まんのスパイスになっているから不思議なものだ。
春が来たら、もうこのスパイスは味わえないということか。気温が温かくなるのは良いはずなのに、ちょっと寂しいのも事実。
「他にもおでん、煮物、鍋焼きうどんとかも、しばらくお別れか……」
冬のおいしいものを思い出すと、名残り惜しい。
「ま、春には春のおいしいものがあるはず」
笑顔で肉まんを食べ終えた。
翌日、窓の外は晴れていた。風も温かく、会社に行く途中、卒業生らしき学生も見た。会社の近くの桜の木も少し花びらがほころんでいる。
季節は移り変わっているらしい。花粉症の華恵、鼻がむずむずとし、桜を見ている暇も無くなったが。
「えーと、花粉症の時は生のトマトを食べない方がいいのか。あと甜茶もいいのか。帰ってきたら服はすぐ洗濯し、マスクもすぐ捨てるといいわけだね」
花粉対策もネットで調べ、冬の名残り惜しさは消えてしまっていた。




