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日常を彩るライフハック短編小説集  作者: 地野千塩


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ハサミがベトベトになった時

 世の中にはいろんな価値観がある。一見、ゴミみたいなものであっても値段がつくことだってある。


 水戸睦美は副業をしたいと思い、まずはフリマアプリで不用品を売っていたが、意外なものが売れる。使いかけのマニュキュアやアイシャドウ、アイスのフタ、コンビニで貰ったノベルティなど睦美の目にはゴミにしか見えないものも売れた。


 本も古書店に持っていくより高値がつくものがある。マニアの需要があっても絶版になってしまったものやメディア化し本も想像以上にいい値段がついた。初めて体験する副業としては順調な滑りだし。


「でも梱包めんどーい! 入れ間違いとかミスしないか不安で仕方ない!」


 一方、どちらかといえば不器用な睦美。梱包作業は超がつくほど苦手。元々デスクワークも苦手で、ずっとアパレルで接客業をしていた。今はアラサーだが、若い頃からファッションが好きだったというのもあるが。


「しかもハサミがベトベトになってきたよ。あー、イライラする」


 ガムテープをハサミで切っていたせいで、ベトベト。ハサミ自体の切れ味は問題がないが、これのせいでさらにストレス。気づくと自宅のデスクの周り、紙ゴミやカッター、段ボール箱、ガムテープなどでめちゃくちゃじゃないか。


「なんかハサミが復活する方法ないかな? SNSのフォロワーに聞いたらわかるかね?」


 もう面倒になったのでフォロワーに聞いてみると、要らなくなった日焼け止めをハサミに塗ると復活するらしい。


「本当?」


 とりあえず試してみた。ちょうど日焼け止め余っていた。簡単だった。日焼け止めを塗り、ティッシュで拭うとベトベトが簡単に取れてしまった。


「いや、簡単……」


 一方、この副業、どうも自分に向いていない気がしたが、また適当にSNSをながめる。フォロワーの一人が暗号通貨にハマり、何千万と利益を出し、いわゆるFIRE中なのだという。


「へ、へえ……」


 羨ましくないと言えば嘘になるが……。


 自分は向いていない副業に苦戦中だが、本当にFIREって良いかわからない。一日中、家にいるからファッションセンスやメイクスキルも落ちそう。それに確実に太る。健康にも悪そう。その上、コミュニケーションスキルも落ちるだろう。最近FIRE中のおじさんが炎上していたことを思い出し、口元が引き攣る。


「まあ、私は本業頑張りつつコツコツと副業するのが向いてるみたい……」


 苦手な梱包作業もどうにか終えた。ハサミも元通りになり、ガムテープやビニール紐もサクサク切れる。


「フリマアプリだけが副業じゃないしな。あ、ポイ活っていうのもあるのか。スキマバイトもアリかな?」


 ということでさっそくアンケートアプリに登録して回答したら、ギフト券が五百円分もらえた。


「本当?」


 五百円というとコンビニ弁当代にもならないぐらいだが、自力で稼いだ報酬だ。ちょっと嬉しいじゃないか。思わず、口元が綻んでしまう。


「やっぱり私はFIREは向いてないだろうなー」


 鼻歌混じりにつぶやいていた。


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