ゼムクリップが余った時
掃除中、あまり見たくないものを発見した。
「あー、ゼムクリップか……」
それを見つめながら、紐づいた記憶が再生中。
このゼムクリップ、小説の投稿するときに使っていた。公募は紙の原稿募集も多い。右端で留めて封筒に詰めて送っていた。
実に百回以上、各種賞に送っていたが、ニ次通過が最高の成績。そのうち学業も忙しくなって新卒で就職。本当は食品関係の開発もしてみたかったが、現場に行くことになり、系列の居酒屋で働いていた。
何も思った通りにならない。特に好きなことはことごとく万年片想いで振られている感じ。このゼムクリップを見ていたら、燃え尽きた夢を思い出し、灰を眺めているような気分。
小説の書き方の本などは全部捨ててしまったが、ゼムクリップは何かに使えると思いとって置いたんだ。
「我ながら私って貧乏性……」
呆れてきたが、このゼムクリップどうしよう。このまま捨てるのも夢見が悪そうで。
ネットで調べるとゼムクリップ、ハンガーにつけて使うと良いらしい。特にセットアップの服が迷子になりにくいとか。
「へぇ。まあ、私もよく靴下が片方迷子になりやすいし、靴下まとめておくのもいいかな?」
他にもティーバックの紙の部分にゼムクリップを挟んでおくと、カップに落ちないとか。
「なるほど。こうしたらボチャっとならないね」
ティーバックの紅茶をこの方法で飲んでみたが、確かにちょっと便利。カップの中のティーバックを落とし、箸でつまむストレスから開放された感じ。
他にもコードをまとめたり、メモスタンド代わりにもなるという。
「なるほど。イヤホンとかカバンの中でグチャグチャだったわ」
こうしてゼムクリップの活用方、試していたら、もう嫌な記憶はない。上書きされた感じだ。
「もう一回、好きなものを想ってもいいのかな?」
ふと、燃え尽きた夢に火がついてしまった。すっかり灰になっていたはずなのに、小説の舞台や主人公のキャラクターが次々と思い浮かんでしまって困る。
「燃え尽きたはずだったけど……」
全部灰になってはいないらしい。まだまだ弱火で燻ってる感じだが。
「もう一度、応募してみる?」
ちょうど小説のコンテストの情報も得た。締切は再来月の末らしい。
ゼムクリップでメモスタンドを作ってみた。メモに締め切りの日付も書いてみる。
「もう一度ぐらいは、夢みてもいいかな?」
さっそくノートパソコンを開き、原稿を書き始めた。まだまだ弱火だが、もうすぐ大きな火がつきそう。そんな予感がしていた。




