クリスマスケーキが余った時
十二月二十四日がやってきた。クリスマスイブだ。街はイルミネーション、ツリー、サンタのコスプレをした若者が騒がしいが、美沙子はスーパーへ行き、予約したクリスマスケーキを引き取りに行く。
クリスマスケーキは二人分だ。夫婦二人で食べるのにちょうど良いサイズ。去年結婚し、まだ子供がいない我が家にとってはちょうど良いサイズのはずだったが。
「申し訳ありません、お客様!」
店員に謝られた。何でも手違いがあり、四人分の大きなケーキしか用意できなかったという。
「いいのよ、大丈夫」
美沙子は大学生時代にスーパーや工事でバイトしていた。そういった職場の大変さはよくわかる。それにクリスマスイヴに店員に文句を言うのも。
美沙子は笑顔で大きなケーキを受け取り、自宅へ戻った。その後は、サラダやスープも作り、最後にはチキンも焼いた。
テーブルもクリスマス用の可愛いクロスをかけ、飾りのキャンドルやドライフラワーなどを飾ると準備完了。あとは夫が帰ってくるのを待つのみだったが、携帯に着信が。
夫は急な仕事が入り、しかも遠方に主張になってしまった。帰って来るのは二十六日の午後だという。
「すまん、クリスマスなんだが」
「いのよ。こっちは。お仕事頑張ってね」
そうは言っても、このご馳走がどうしよう。ただでさえ、ケーキのサイズも大きくなってしまった。
ダメ元だったが、友達の遊花に連絡した。独身だったが、フリーライターの仕事も忙しそう。美沙子と同じアラサー女性ではあったが、何かの賞もとり、バリバリと活躍していたが。
「えー、旦那さん急な仕事!? だったら、美沙子のところ遊びに行くよ。どうせ彼氏もいないしなぁ」
美沙子の予想と反して遊花がすぐ家に来てくれた。ワインボトルやチーズフォンデュのお土産も持ってきてくれた。おかげで酒を飲みながら女二人のクリスマスも盛り上がってしまい、日常の愚痴や仲間内の噂をしつつも、あっという間に料理が減っていうく。
「遊花、ケーキもあるよ」
「わー、食べよ!」
ほろ酔い状態の遊花と共に、ケーキを切り分けて食べる。
「ケーキのサイズ変更になったん?」
「そうなのよー。店員さんのミスだったんだけど、料金はそのままだった。かえって悪いというか」
そんな事を言いつつケーキを切り分ける。純白なクリームは甘い匂いを発し、フルーツもみずみずしい。サンタやツリーの飾りも可愛らしく、捨てるのがもったいないぐらいだが。
さんざん飲み食いした後では、ケーキもなかなかお腹に入らない。遊花もあんまりフォークが動いていない。
「ケーキ、美味しいけど、余ったわ。どうしよう」
まだ半分以上残るケーキに美沙子はため息が出る。ここに来てサイズが変更になった影響を感じ始めていた。
「だったら保存しておけばいいよ。美沙子、タッパーある?」
「あるけど」
遊花にタッパーを渡すと、彼女はまずフタの内側にケーキを置く。
「え、何してるの?」
「いいから、いいから」
遊花は苦笑しつつ、タッパー本体をケーキに被せるように置いた。
「えー? これで保存できる? タッパーをこんな逆に使うなんて初めて知った」
ちょうどフタの部分が底になっているが、デコレーションも崩れず、綺麗に収納できていた。あとはこのまま冷蔵庫に入れておけば問題ないという。
「ネットで見たんだけど、この方法が一番綺麗の保存できるよ」
「遊花、ありがとう。でも、夫が帰ってくるのは二十六日なのよね。もうクリスマス過ぎちゃう」
二十五日でさえも、もうクリスマス過ぎ去り、正月ムードだ。イブを過ぎたクリスマスケーキは何となく時期を外しているというか。
しかし遊花は全く気にせず、クスリと笑う。
「海外では年始すぎてもクリスマスだから。仕事の取材でイギリスとか行ったらけど、年始もクリスマスツリーあった」
「そうなの?」
「なんでもイエス・キリストが生まれてから確認されるまでがクリスマスぽい。よく知らんけど」
「だったらちょっと日がすぎてもクリスマスケーキ食べてオッケー?」
「オッケー!」
遊花は笑顔で頷く。
そして二十六日の夜、帰ってきた夫とクリスマスケーキを食べた。味も全く大丈夫だ。
「でも、この日にクリスマスケーキというのもな?」
夫は微妙な表情だったが、美沙子はクスクスと笑い、甘いケーキを楽しんでいた。