カイロを再利用する時
二月の風が身に染みる。しかも朝六時は薄暗く、いつも以上に風が冷たい。
「寒ぅ……」
駅から工場までの道のり、カイロが手放せない。この辺りは工場地帯なので殺風景。コンビニもコーヒーチェーンもパン屋も整体院もなく、余計に寒い。
そんな冬木育子だったが、こんな朝早く出勤するのには理由がある。
元々工場を転々としながら生きてきたが、お局のターゲットにされ、うつ病寸前まで行ったことがある。
特に田舎の工場は要注意だ。ヤンキーがそのまま歳をくい、お局になったタイプはまさに凶悪。
しかし、数々の工場を見ながら、お局という存在は朝に弱いことに気づいた。正社員、非正規、独身、既婚、年齢問わずお局がいたが、朝ギリギリに出社してくるのが共通点かもしれないと気づく。
そんな共通点に気づいた育子は早朝シフトを希望しながら転職活動を開始。今は食品関連の容器を製造している工場にいるが、男性率も高くお局が全くいない。長年、お局に悩まされていた育子にとってはようやく見つけたオアシスだ。女子更衣室もトイレもガラガラで本当に使いやすい。お局の愚痴や誰かの悪口、下ネタを聞かないだけで耳が天国だ。
ただ、朝早く起きるのは楽じゃない。寒いし、カイロも冷たくなる。
仕事が終わる頃はカイロはゴリっと固くなり、冷たくなっていた。
「そういえばカイロって消臭効果あったな」
そのことに気づき、会社の下駄箱に冷えたカイロを置いておく。ゴツっとした安全靴、けっこう匂いがついてきたから、ちょうどいい。
明日も寒いだろう。特に朝はカイロが手放せないぐらい寒いだろうが、永遠に続くわけでもない。
「早く春が来ないかなぁ……」
その時を楽しみにしつつ、下駄箱の扉を閉じた。




