豆苗を再生する時
思えば転職のためだけの転職活動だったのかもしれない。内定がでて働き始め、早くも燃え尽き中だった。
「はーあ、疲れた」
緑野美冴、三十三歳。新しい職場から家に帰ってくると、疲労でため息が出た。念願の事務職に転職成功したものの、仕事自体は暇。故にお局様も多く、早くも美冴は目をつけられていた。本当に転職のための転職活動だった。その後のこと、よく考えていなかったのかもしれない。
そんな憂鬱な気分にまま冷蔵庫を開けると、昨日スーパーで買ってきた豆苗があった。油で適当に炒め、ツナとあえて終わり。手抜きすぎるが、凝った料理も食べたくない。
「あ、そういえば豆苗って再生できるんだっけ?」
すっかり忘れていた。慌ててまな板の上に放置してある豆苗を拾い、タッパーに救出。確か豆苗、水をやりすぎると再生しにくくなる。水は少なめに入れた。
「本当に再生するかな?」
燃え尽きている今、半信半疑だったが、食卓に適当に放置している豆苗、数日で伸びてきた。水も適量しか与えていないが、どうやらたくましく育っているらしい。ネットで調べるとこのまま土に植え替えても良いらしく、花を咲かせている画像も見た。
「へぇ……」
目の前には豆苗の綺麗な緑色。殺風景な一人暮らしの部屋にちょっとした観葉植物変わりにもなっていた。さすがに土に入れて花を咲かせるまではできないが。
ふと、本棚に目をやる。転職活動中に一生懸命読んでいた面接対策や書類作りの本も見えた。それだけではなく、挫折した英語や簿記、宅建などのテキストや問題集も見える。
「挫折しちゃったけど……」
再生した豆苗を見ていたら、それもやり直しても良いかもしれない。今度は転職活動のためというよりは、単純に自分のためだけに。
「そうだなぁ。もともと勉強は嫌いじゃなかったし……」
豆苗と同じように水を入れすぎず、力を抜いてやり直してもいい気がしてきた。




