ペットボトルの蓋が開かない時
「これ、蓋が開かな〜い。市川先輩、開けてください」
甘ったるい声。今日も経理部の美野花蓮がぶりっ子していた。二十代前半の派遣社員だ。おそらく多くの人が「可愛い」と評価するルックスだろう。
「わーい。市川先輩、ありがとうございます! さすがです!」
さらに花蓮は営業部のエース社員・市川にぶりっ子中。市川は満更でも様子。この人、経費について何か質問しに経理部に来ていたんじゃないの?
そんな様子を観察しながら、私、ため息が出てくる。若い派遣社員を観察しているとか、お局じゃない。実際アラサーだし、入社十年以上も立っているし、部長にそう言われてるし。まあ、さっさと仕事しよう。
それにペットボトルの蓋、輪ゴムを巻き付けると簡単に開けられる。こんなライフハックを知ってる私、花蓮みたいにぶりっ子できない。当然、モテることなんてなく、彼氏ももうずっといない訳だが。
「あれ?」
そういえば備品の輪ゴム、切れているじゃない。発注しないと。自分が備品発注係なの、すっかり忘れていたじゃない。
「まあ、私はあんな風になれないなぁ……」
ちょっと花蓮が羨ましいと思う。もしかしたら、花蓮もこのライフハックを知っているのに、あえてそうしている気もする。あざとい。でも、自分には絶対にない要素。
「美野さん、おつかれ」
「は?」
ついつい花蓮に声をかけてしまい、相手は目が点になっていたけれど、すぐ笑顔になり、私の仕事ぶりも褒めてきた。女にもこの調子だ。さすがだ。ぶりっ子も一本筋が通ってる。




