紅茶が余った時
受験はなぜ冬にあるのだろう。
「寒い……」
梶井紅子、塾の帰り道に鼻水が垂れそうだった。それぐらい寒い。
いよいよ高校受験の日が近づき、塾の空気は熱い。塾の先生は風邪引かないようにって言っていたが、塾の空気と帰り道の気温、差がありすぎる。
「寒い……」
ついつい声が溢れてしまう。受験はもちろんだが、風邪を引かないか不安だ。本当にどうして受験は冬にあるのだろうか。夏や秋だったらもっと余裕があるはずだが、そういうものだから仕方ないのか。
そんなことを考えつつ帰宅した。ちょっと喉も痛い。嫌な予感。
「紅子、大丈夫?」
玄関で出迎えてくれた大学生の姉、紅子の様子を見て慌てて何か取って戻ってきた。
それはカップに入った紅茶。色も香りも薄い。おそらく二番煎じだろうが、何これ?
「余った紅茶だよ」
「え、それ飲むの?」
「飲まない。これでうがいするの。紅茶は喉にいいんだから!」
紅茶でうがい?
初耳だ。それでもうがい薬の味は好きじゃないし、洗面所に行って試してみる。
味も香りも薄まっていたが、喉に優しい。痛んでいた喉、少し楽になった気がする。
「頑張れ、紅子!」
姉の明るい声も響き、ちょっと涙が出そう。
「うん、頑張るよ」
冬が終わったら温かい春が来る。それを信じながらだったら、受験も乗り越えられそうだ。




