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日常を彩るライフハック短編小説集  作者: 地野千塩


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しめじを干す時

 正直、調子に乗っていた。


「身長低い底辺職の男とかありえない。こういう男、人権なんてないから」


 インフルエンサーの坪井花音、配信中にうっかり口を滑らせた。婚活中だというリスナーの相談だったけど、そのスペックに本音が溢れてしまったというか。


 最初は内輪だけのプチ炎上ですむかと思ったが、他のインフルエンサーに取り上げられ、ネットニュースにもなってしまい、花音の仕事も全部干された。市の成人式のイベントに出演するのも楽しみだったけれど、その仕事もなくなった。


「あーあ……」


 結局、実家に帰ってニート生活中。動画を作っても批判コメントしか来ないし、インフルエンサーや芸能関連の事務所に営業しても全部断られてしまった。かといって普通に就職しようにも顔と名前が割れている為、転職エージェントにすら断られている状態。


 毎日、実家の近所に行ってベンチに座って時間を潰す日々。お日様は心地いいが、まさに干されている気分。


 インフルエンサーとして可愛い、可愛いとチヤホヤされ調子に乗っていた。その報いはちゃんとあったらしい。


「あーあ、成人式のイベント、出たかったな……」


 泣き言すら溢れた時、実家の近所のお爺さんに声をかけられた。確か元教頭先生で、少し怖そうな雰囲気もあったが、話してみると気さく。それにこの年代の人はインフルエンサーなんて知らないから、花音も気楽。


「最近、干しバナナにハマっているんですよ」

「へえ、お爺さん、干しバナナって何?」

「その通りの食べ物ですよ。バナナ切ってレモン汁に軽く浸して天日干しするだけ」

「それって美味しいの?」

「美味しいよ。干して甘みが増す気がする。他にも蓮根やしめじも干した方が美味しくなる」

「へえ……」


 干した方が美味しくなる?


 そんなことは信じられないが、気になる。その後、花音はホームセンターの行き、適当な竹籠やネットを購入し、冷蔵庫の中にあるしめじを干してみた。


「本当に美味しくなる?」


 縁側で干されているしめじを見つめる。見た目は特に変わった様子はないが、こうして日向ぼっこをしていると、気が抜けてきた。


 そういえば今はフォロワー数や再生回数など気にしなくても良い。他のインフルエンサーの動向とか、全く気にしていないのにも気づく。インフルエンサーをやっていた時は夜も眠れない程プレッシャーを感じる時もあったが。


「まあ、干されている時も悪くないか?」


 今は干したしめじの味だけが気になっている。こんな時間も人生には必要かもしれない。

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