バナナを保存する時
毎日が忙しい。昼も適当。冷凍うどんにオリーブオイルと醤油をかけただけ。
大野温乃は専業主婦だったが、小学生の息子賀二人、中学生の娘が一人、高校生の息子が一人いたので、家事も大変だ。正直、夫も家事に協力的ではないし、毎日が忙しい。
そんな時だ。適当な昼食を終え、買い物に出ようとしたら、実家から電話がかかってきた。
「は? お母さん、どうしたの?」
母の声、なんか沈んでいると思ったら、予想外のことが起きていた。
父が鬱病になったらしい。元々、小学生の教頭をしていたが、定年退職後は不登校児のためのフリースクールを作り、子供たちからも感謝されていると聞いていたが、そういった子供の対応、想像以上に大変だったらしい。過労で倒れたのち、鬱病とも診断されたという。
「信じられない……」
とても元気な父だった。真面目で完璧主義でもあったが、まさか……。
実家までは自転車で行ける。温乃も心配になり、実家に向かったが、父の状態、かなり悪そうだった。目は虚だし、テレビを見ながらぼーっとしてる。髭も髪の毛も汚らしい感じで、風呂に入っていない様子だった。こんな父を見るのは初めて。
ショックだった。人間、こうも変わってしまうものだろうか。
その後、温乃はメンタル関連の書籍を読んだが、誰でもなりうる病気らしい。真面目で完璧主義の人もそうなりなすい。また食生活の乱れや運動不足なども影響するという。温乃自身も忙しい中、食事が適当になっていた。ちょっと反省するぐらいだったが、鬱状態になった時はバナナが良いという。精神を安定させるトリプトファンが含まれているとか。
バナナを食べたからって劇的に良くなるとは考えにくいが、いてもたってもいられない。温乃はスーパーでバナナを買い込み、父に持っていった。
「おいおい、こんバナナは食べられんよ」
父がバナナを見つめながら呆れていたが、温乃は専業主婦だ。バナナの保存法は知ってる。
「バナナは皮ごとラップで包んで、ポリ袋に入れて冷凍できる。解凍する時は水に晒して切って食べて」
「面倒だな」
父は本当に面倒そうな目を見せてきた。
「まあ、さらに面倒な保存方法があるわ。バナナを五ミリに切って、レモン汁に軽くつけて、干す方法。二、三日ぐらいで干しバナナできるわ。虫が寄ってくるから干す場合はネットつけてね」
「おぉ、さらに面倒だな」
とはいえ、干しバナナに興味を持ったらしい。わざわざホームセンターに行き、ネットや籠などを買いに行ってしまった。
数日後、また父に会いに行ったが、最近は干しバナナ作りにハマっているという。縁側で干されているバナナを眺めるのが、楽しいんだとか。
「まあ、今の俺の時間は干されているって感じかもな。今まで頑張りすぎた」
そう語る父、少し前よりは元気そうな目をしていた。
ちなみに干しバナナはヨーグルトやホットケーキのトッピングにして楽しんでいるらしい。
温乃も干しバナナを食べてみた。カリカリに乾燥し、お日様の匂いも感じて美味しかった。




