お餅を焼く時
お正月が嫌い。これって少数派だろうか?
「はぁ……」
内井小雪はため息をこぼしながらキッチンに立っていた。
今日は元旦。餅を焼いていたが、アルミホイルにくっつき、べちゃっとしていた。
案の定、夫や息子たちから不満。
「お母さん、老けた?」
高校生の長男には関係ないことも笑われ、全く楽しくない。近所の義実家に行ったり、初詣したり、初売りも行ってみたが、忙しいだけで一切楽しくない。
お餅も飽きた。
正月は終わったが、余ったお餅を見るだけでため息しか出ない。
思えば料理、そんなに好きじゃない。でも「女だから」という理由でやっていた。ほぼ義務。正月も義務をこなしていたと思うと、どっと疲れてきた。
たまには自分のためだけに料理したい。美味しいもの食べたい。義務感から離れたい。
そう思った小雪、お餅の美味しい焼き方を調べてみた。焼く前に醤油を垂らしておくと、ベチョベチョにならないらしい。
「そんな簡単でいいの?」
拍子抜けするぐらいだが、その通りにやったら、綺麗に焼けた。
表面はカリっとし、中はもちもち。匂いもいい。特に焼けた醤油の匂いが。
「あれ、お餅ってこんなに美味しかった?」
自分の為だけに焼いたお餅、いつもよりずっと美味しい。
相変わらず夫や息子たちにも料理の文句を言われてる。
「なんか、味が濃いな」
今日は夫に味噌汁の味にケチつけられたが、怒る気にもなれない。
「だったら自分で作って食べてください」
そっけなく言うだけ。しかも一切、表情も変えずに言ったおかげか、夫も息子も黙ってしまった。明日のの夕飯は、ファミレスかどっかで食べてくるという。
その方がいいかもしれない。義務感で料理していても、伝わってしまうもの、大いにありそうだかから。
そして、次の日も自分の為だけにお餅を焼いてみた。醤油を垂らして、綺麗に焼く。義務じゃない。自分の為だけに作る。そんな時間が、たぶん一番必要だ。




