素麺を作る時
盆休み中、うっかり「素麺でもいいよ」と言ってしまった。
長谷部有太、三十歳。失言だと悟った。妻の京香は大変不機嫌になり、子供を連れてファミレスに涼みに行ってしまった。
確かに素麺の調理は大変らしい。ネットでも素麺の調理問題が話題になってはいたが。
「そんな、素麺って大変か?」
見た目はツルッと喉越しがいい感じだし。
「簡単そうだけどなぁ」
ぶつぶつ文句を言いながら、素麺を茹でることにした。
「茹でるだけじゃん、楽勝じゃん」
確かに沸騰させるまでは楽勝だったが、ブクブクとふきこぼれた。
「は?」
鍋からお湯がこぼれ、湯気も広がり、コンロ周辺はひどい状態だ。
冷房をつけているとはいえ、汗だくになって片付けた。正直、疲れた。仕事のプレゼン資料作りより大変だった気がするぐらい。
「素麺って難しい。簡単じゃなかった」
「でしょー」
帰ってきた京香が笑う。食卓でアイスを食べながら、ようやく有太の汗も引いてきた。
「ふきこぼれる前に、鍋にスプーンを入れとけば良かったのに」
今更ながら京香から素麺づくりの裏技を聞いたが、ぐったりだ。今日は食パン一枚でいい。
「ちなみにネギとかはめんつゆと一緒に凍らせておくと楽」
「そんな裏技があったのか!」
「ええ。少しでも家事の手間を省きたいもの」
そう語る京香は胸を張る。
料理は普段からの積み重ねらしい。自分で作ってみてよくわかった。
「尊敬します、京香サマ」
「何言ってるのよ、褒めても何も出ないよ」
夫婦で苦笑しつつ、冷たいアイスクリームを味わっていた。




