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リーガル

「お父さん、ずいぶんと奮発したね。お父さんが初対面の人にあんなに世話を焼くなんて、ラバンさん以来じゃない?」アリサは肩まで流れた赤髪を指でくるくると巻きながら、父リーガルに話しかけた。


その声には、少しの驚きと疑念が混じっている。


リーガルは「クックック」と、喉の奥から独特な笑い声を漏らしながら、軽く肩をすくめる。


「そうか?」と、まるで気にも留めていない様子で返答した。


その言葉に、アリサは不満げに頬を膨らませる。彼女は何かもっと明確な理由を聞きたかったのだろう。


しかし、父から返ってきたのは曖昧な返事だけだった。


リーガルはその様子には一瞥もくれず、鋭い目つきで隣に立つラバンに視線を送る。


「元帝国騎士としてどう見る、ラバン?」


その問いに、ラバンは瞑っていた目を静かに開いた。


彼の視線は深く、どこか冷徹な鋭さが漂っている。「正直、わかりません。途中からずっと剣気を当て続けていましたが、まったく反応がない。普通なら、そんな状況では萎縮して何も喋れなくなるはずです。」


リーガルはニヤリと微笑み、その笑みでラバンに話の続きを促す。


彼の表情には、どこか興味深そうな色が浮かんでいた。


ラバンは無言で窓辺に立ち、外を見下ろす。彼の視線の先には、リョウたちが帰っていく姿が小さく見えていた。


窓ガラスに映るラバンの顔は無表情だが、微かに眉が寄っているのがわかる。「単純に鈍いだけなのか、それともよほどの強者と戦ってきたのか…。ただ、あの細腕では剣を撃ち合ったら耐えられないでしょう。」


リーガルの表情には楽しげな色が浮かんでいる。


彼はゆっくりと椅子にもたれかかりながら、目を細めた。「噂では、20年以上前に行方不明になったこの王国の剣聖様は、すべての剣を見切り、その生涯で一度も剣を合わせたことがなかったと聞くぞ。」


ラバンは、その言葉に少し皮肉な笑みを浮かべる。「そんなもの、所詮は噂です。そんなことができる者がいるのなら、ぜひ見てみたいものですがね。まぁ、それは今では叶わぬことですが…。」


リーガルはゆっくりと立ち上がり、無言で窓辺まで歩いていく。  


彼の鋭い視線は、外の景色に鋭く注がれている。まるで何かを見定めるように、静かに風景を見渡しながら、「楽しくなりそうだ…」と、低く呟いた。


その言葉に、アリサが静かに話に加わる。「またお父さんの勘なの?


明日の朝、ザックとあの人が稽古を始めるらしいから、私も見に行ってみるわ。」


彼女の声には、冷静さの中にもわずかな興味がにじんでいる。アリサは言葉を終えると、迷うことなく部屋を後にした。


その背中には、これから起こるであろう何かに対する期待が、確かに感じられた。


部屋に残されたリーガルは、再び窓の外をじっと見つめた後、この話は終わりだと言わんばかりにゆっくりと椅子に腰を下ろした。


「それで?」リーガルは静かにラバンに問いかけた。「第四区の連中はどうなっている?」


ラバンは無言で壁に掛けられたスラム街の大きな地図に歩み寄り、いくつかの箇所に印を刺しながら報告を始める。「まずは劇場です。かなりの人数が集まっているようです。


主にカイロウ流の使い手が十人ほど混ざっている模様です。そして…」


ラバンは地図を凝視しながら、少し言葉を濁した。


「なんだ、はっきり言え。」リーガルは鋭い視線を送り、ラバンの続きを促す。


「顔役のヤビンの酒場に、シャロン流の使い手が1人いるかもしれないとの報告があります。」


その言葉を聞いて、リーガルは低く唸るような声を漏らした。「ラバン、勝てるか?」


ラバンは一瞬の間を置いてから、冷静な声で応じた。「相手が1人なら…」


部屋に重苦しい沈黙が漂う。リーガルは目を細め、深く考え込むようにその場に佇んでいた。


外の風が窓を揺らし、かすかな音が響く中、二人の間には緊張感が満ちていた。

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