少年
「亮ちゃん、いつまでも寝てないでさっさと起きて、そんなんじゃ私より強くなれないよ。」
腹を押さえて悶絶してる俺に、姉さんが言う。
外見は日本人離れした美人なんだけどさ、最近の厳しさは、ドン引きするレベルだ。
場所はいつもの近所の公園。分厚い雲が空を覆ってて、冬の冷たさが骨の芯までしみてくる。
その中で、俺は姉さんと剣道の稽古をしてた…いや、正確には竹刀で腹を突かれて転がってるだけなんだけどさ。
「戦国時代じゃあるまいし、強くなる意味あんのか…」
次の瞬間、俺は蹴られて倒れる。
「バシッ!」
竹刀が地面に叩きつけられて、土煙が舞う。俺は必死に転がりながら避けようとするけど、姉さんの動きが速すぎる。
いや、もう動きが人間じゃないんだけど?
しかも容赦なし。俺、もうこれ以上何をどうしたらいいんだよ…。
(前から思ってたけど…これ…剣道じゃなくね?)
でも、結局姉さんの竹刀がまた俺の腹にヒット。
「うぐっ…」
姉さんは息一つ乱さず、『ニシシ』と笑いながら竹刀を振り続けてる。
「もうやめてくれぇ!」
そんな懐かしい(いや、トラウマだな)夢を見た後、ぼんやりと目を覚ました。
頭はズキズキ痛むし、全身が鉛みたいに重い。さらに寒気がする。
なんだこれ、風邪でも引いたか?
「……ここは……?」
周りを見渡すと、目に飛び込んできたのは…荒れた石壁?鉄の格子?そして、やたらと暗い天井。
ぼんやりとした意識の中で、自分の身体を確認すると…え、ちょっと待て。
スーツはおろか、シャツも靴もない。
上半身は裸、下半身はトランクス一枚という状態。
そしてなにより結婚式にと奮発して、ローンで買ったお気に入りの『腕時計』がない!
「な、なんで…俺はこんなところに…?」
結婚式の記憶はまだ鮮明に残っている。
幸せそうな幼馴染の笑顔、友人たちとの笑い声、そして帰り道に見た不気味な光。
だが、その後の記憶はすっぽりと抜け落ちている。
次に気がついたときには、こんな牢獄に閉じ込められていたなんて…。
「な、なんで…!」
なんとか立ち上がろうとするが、足元がふらついて、壁に手をついてやっと体を支える。
立つのすら、こんなにしんどいなんて。これ、絶対に夢だよな…?
目の前には、鉄格子の向こうに続く暗い通路。
「だ、誰か…た、助けてくれ…!」
あ、むしろヤバい奴が来る可能性の方が高いかも?いや、むしろそんなことになったらどうしよう。
恐怖と不安が心を締めつけ、胸がギュウギュウに苦しい。
——なにこれ?
「か…帰りたい…」
夢なら、早く覚めてくれよ…
「やっと目が覚めたか?おっさん」
「えっ?」
腕を組んだ少年がリョウを見下ろしてる。
薄汚れた服で、どこか生意気そうな顔。
いやいや、俺が言うのもなんだけど、誰だよコイツ?
「お、おっさんって…お、俺のことか?」
「どう見てもおっさんだろ?」
え…おっさんって…?ショックなんだけど。
「えっと…ここは…どこなんだ?」
「ここは『下層牢』だよ。お前、どこから来たんだよ?」
「下層牢…?」
———下層牢って何?
ファンタジー世界にでも迷い込んだんじゃないかって思えてきたけど、どう見てもこれは現実だし、リアルすぎるんですけど。
もう一度少年を見上げて、かすれた声で尋ねた。
「…悪りぃ…ちょっと聞きたいんだけど…」
「チッ、しょうがねえな…その格好じゃ金なんか持ってないか。…で、何を聞きたいんだ?」