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豪華な料理がズラリと並び、ワイングラスがキラキラと揺れている。


まるで映画のワンシーンみたいな宴が繰り広げられている中で、ふと視線を向けると


——いた、町田さくら。


彼女が幸せそうな笑顔を浮かべているのが目に入った。


その瞬間、胸の奥にギュッと押し込めていたはずの記憶が、あれよあれよという間に甦ってきた。


心の奥底で、何かが「チクリ」と痛み、嫌でも思い出がフラッシュバックする。


(さくらちゃん、めっちゃ幸せそうだな…。ああ、痛い、痛いぞ、この胸の痛み!)


俺の心の中では、押し込めていたはずの感情たちがゾロゾロと起き出して、勝手に宴会を始めたかのようだった。


頼むから、もうちょっと静かにしてくれよ…!


佐々木亮、今から8年前、高校1年生だった俺は、なんとも勇気を出して彼女に告白することを決意したんだ。


彼女との関係は、まあ、いわゆる隣の家の幼馴染ってやつだ。


しかも、2歳違いの姉さんの同級生でもある。


ついでに言えば、俺の初恋の相手でもあった。


子供の頃から、姉さんによく叩きのめされて、傷だらけで帰宅するのが日常。


そんなを可哀想に思ったのか、彼女は甲斐甲斐しく世話を焼いてくれて、時には姉さんに「手加減してあげて」なんて言ってくれたりもした。


まあ、男としては、そりゃ勘違いするのも無理はないってもんだ。


そんなある日、彼女が地方の大学に行くことが決まった。これで彼女がこの地を離れることになると聞いて、俺は焦った。


このままじゃ、ただの幼馴染で終わってしまうんじゃないかってね。


「これは神が与えてくれたタイミングに違いない!」


自分を必死に納得させて、告白することにしたわけだ。


うん、当時の俺は妙に自信があった。彼女も俺のことが好きなんじゃないかって、勝手に思い込んでたんだ。


だって、引っ越して会えなくなるのは寂しいって言ってくれたしさ。


これ、脈アリだろ?ってな感じでね。


「ごめん…亮くんのこと、ずっと弟だと思ってたから…」


……え?


その瞬間、俺の心に鋭い何かが突き刺さった。


期待していた分、その痛みは何倍にもなって俺に返ってきた。俺はその瞬間、悟ったんだ。


自分はただの子供で、彼女にとっては永遠に弟のままでしかないってことを。


「強くて頼り甲斐があれば、もう弟扱いされなくなるんじゃないか?」


妙な思い込みに取り憑かれて、姉さんと剣道にのめり込んだ。


で、どうせなら、先生みたいに威厳のある大人になってやろうって決めたわけさ。


まあ、恋愛に対してはトラウマを抱えつつ、それでも何とか大学には合格して、無事に教師にもなれたけど、あの頃の自信満々の俺は、どこへ行ったんだか…。


リョウは、中学教師2年目になっていた。


教室に漂うチョークの粉の匂いと、窓から差し込む午後の日差し。その中で俺は、生徒たちのざわめきを聞きながら、黒板に英文を書いていた。


「佐々木先生、これ合ってますか?」


振り返ると、リョウのクラスで一番成績が良く、アイドル的存在の山田が手を挙げていた。


彼女は、もうすぐテストが近いということもあって、質問が多い生徒だ。


「えっ?ああ、どうした?」


「———の違いって、どう説明すればいいんですか?」


「えっと…突然の決定を表すんだよね…で、———これは、事前に決めたことに使うんだ。」


「例文だとどうなりますか?」


「えっと、———は今すぐ行くって決めた感じで、———は前もって決めてたって感じかな…」


「えー、先生、それ違うんじゃないですか?」


「えっ?ああ…そうか…?」


教室のあちこちからクスクスと笑い声が聞こえてくる。どうやらまた、教室中にバカにされてしまったらしい。


「まあ、どっちも使えるってことで…」


「これで終わりにしようか。」


ようやく時間が過ぎて、チャイムが鳴った時、リョウは生徒たちの反応に心の中でため息をついた。


今日もまた、全然頼りにならない教師として、なんとか1日をやり過ごしただけだった。


「つ、疲れ…た…」


フラフラで自宅に戻り、そのままの格好でベッドに倒れ込んだ。


ポケットに入れていたスマホが短く震える。


画面を見ると「姉」の名前が表示されている。姉さんからの連絡なんて、何年ぶりだろう。


リョウは少し戸惑いながら、恐る恐るスマホを手に取った。


「さくらちゃん結婚するから4月に結婚式。招待状送ったからよろしく」


短いメッセージを見た瞬間、俺の心臓が「ギュッ」と縮んだ。


視界の端で電球の光がチカチカと揺れているのが見えたが、これはたぶん俺の気のせいだろう。


冷や汗がじっとりと背中をつたう。目を逸らしたくても、その短い文面がやけに視界に刺さる。


「——結婚する。」


その言葉が俺の脳内でエコーを繰り返し、何年も閉じ込めていた感情が、突然に胸の奥から湧き上がってくる。


あの日、あの青臭い青春の日々の中で、さくらちゃんに告白した時の記憶が、無理やりリプレイされる。


彼女の優しい「お断り」が、まるで昨日のことのように鮮明に蘇る。


「ごめん…亮くんのこと、ずっと弟だと思ってたから…」


無意識のうちにスマホを握りしめ、画面に残る姉からのメッセージをじっと見つめていた。


「結婚式…か…」


呟くように言葉が漏れた。部屋の静かな空気の中で、その声はまるで消え入りそうだった。


リョウは深く息を吐き、スマホをそっと机の上に置いた。


(もうあの日の俺とは違うんだ。彼女にとって俺はただの幼馴染、弟みたいな存在でしかない。それ以上でも、それ以下でもないんだ。)


そして、現在、シャンパンタワーにお酒を注ぐ彼女の幸せそうな顔を見ていた。


なんだか、その笑顔を見ていたら、今まで抱えていた葛藤が急にバカバカしくなってきた。


二次会が終わって、ほろ酔い気分で橋の上を歩いていると、ふと水面に浮かぶ、気味の悪い火の玉が目に入った。


「え、火の玉? そんなバカな…酔いが回ったのか?」


だが、火の玉は消えるどころか、不気味に揺れ動いて近づいてくる。


え?マジで火の玉?その瞬間、背筋がゾクッと寒気に襲われた。


そして次の瞬間、足元が崩れるような感覚がして、リョウは慌てて手すりを掴もうとしたが、なぜか宙を掴んでしまった。


「うわっ!」と思った瞬間、周りが真っ暗に…。


そして、目が覚めたら――まさか、異世界の牢屋の中だなんて…。

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