第53話 曹家と時勢判断
また体調崩してました。申し訳ございません。
土日でリズム戻せるように頑張ります。
青州 北海国・劇県
高密の孫家から孫乾が来た。話の内容は反董卓連合に関するものだ。
「孫家と関りの深い家に、夏侯氏という家がございまして」
「ほう、夏侯氏」
夏侯惇の家だ。いや、同じ家かはわからないか。
「実は今は豫州沛国にいるのですが、反董卓連合に参加するために青州に主君の曹県令とこちらに寄りたいとのことで」
「曹県令?」
「はい。建平県令ですね」
沛国にある建平県で県令をしているらしい。流石に全部の県令とその名前まで覚えている訳じゃない。そして、名前からして曹操の弟あたりだろうか。字を聞くと泰徳というらしい。そして、相手の交渉窓口は夏侯元譲。夏侯惇だ。確定と見ていい。やはり曹操が不在だと曹家もそこまで出世できないのか。県令どまりとは。
「その夏侯氏が北海に来て何の用です?」
「最近の徐州や豫州は治安があまり良くないそうで、連合に参加するにあたって不安が多いらしく。親族を孫家で預かれないかとの依頼でして」
「豫州の東はそこまで危ないので?」
「下邳の闕宣という豪族が、周囲の防備が薄い領主を襲うことが増えているとか」
「あぁ、闕宣ですか。それは危ないですね」
下邳は彭城を挟んで沛国のすぐ西にある。闕宣の動向次第でいつ襲われても可笑しくない距離だ。
「先日、彼らに先立って一族の曹子孝が反董卓連合に加わるべく冀州に向かいました。そのため、下邳で闕宣を止められる者がいなくなったそうで」
「そう言えば、曹子孝殿は下邳の淮陰県令でしたか」
「はい。ですので、今の下邳は無法地帯でして、夏侯氏はそれが不安だと」
徐州の話は麋竺経由で入って来るので、その動向は知っていた。曹操が不在だと本家とは別の動きをするらしい。
「そういうことならわかりました。こちらに来てもらって大丈夫ですと伝えてください」
「大丈夫ですか?お願いしてあれですが、董卓から睨まれませぬか?」
「むしろ、ちょうどいいです。董相国には味方しないが、兵は出さない。反董卓連合としても参加者の親族を丁重に迎えるということは敵に回らない証です」
「そういうことであれば」
それに、夏侯惇などと縁ができるのは悪い事じゃない。彼らを吸収できるなら嬉しいし、できなくても曹操家臣団の現状を知れる。
孫家に了承を伝え、その準備を進めるよう簡雍に伝える。
現状は朱儁将軍が兵力を保有し、黄巾賊に後方を脅かされないのがプラス。皇甫嵩将軍が董卓側にいるのがマイナスだ。白波賊の楊奉は敗れて朱儁将軍に降伏しているらしい。彼らは結構強いので曹操不在の分を埋められるのか、しっかり計算しないといけない。
♢
3カ月後。反董卓連合は15万まで膨れ上がっていた。冀州の食い詰め者が袁紹らの用意した報奨金に目がくらんだのもあり、孔融・鮑信らが万の兵を率いて合流したのもあり。というか、孔融は俺が土地を奪うことがないと判断して本当にほぼ空っぽになるまで兵を連れて行った。焦和は州刺史なのに蕭建殿も動員できないため、反董卓連合では肩身の狭い思いをしているらしい。このあたりは鮑信殿や冀州に近い済南の荀緄殿から情報が来る。
そして、董卓も呂布・李傕・郭汜・徐栄・胡軫らに兵を預け、総勢10万で成皋関の郊外に布陣したらしい。10万しか兵がいないのは、董卓も氐族などに対して備えを残しているのと、漢中方面への警戒もあるらしい。ここに来て少しずつ漢中を掌握した張脩と益州の劉焉の存在感が増してきている。そして、呂布が丁原を殺して董卓の配下に入ったようだ。
こうした情報を整理しつつ、程昱や荀攸とともに曹一族の受け入れ準備の最終確認をしていた。
「雒陽から食糧20万石の購入依頼、おそらくはこの出陣のためかと。仲厳様の忠節見事と馬太常から手紙が届いておりました」
「となれば動員した兵が10万というのはほぼ正確と見ていいですね」
「おそらく。連合軍の領内を通っても食糧を運べるのは仲厳様だけですので」
「これで、潁川の兄上に兵を送る余裕はなくなったでしょう」
そう。俺と程昱・荀攸はこれを待っていた。潁川郡は雒陽に近すぎる。そのため、早期に反董卓連合に参加すれば真っ先に兄が狙われることになるところだった。反董卓連合が酸棗に集まり、そちらに対処しなければならない状況になること。そして、雒陽の民衆が不必要に飢えずに済む食糧事情になること。この2つを目標に、今回の反董卓連合への参加可否の判断は時期を後ろ後ろにずらしていたのだ。
「しかし、酸棗に集まったならすぐに戦に出るかと思っていましたが、仲厳様の申された通りすぐに戦になりませんね」
「旗頭は袁将軍、脇を朱将軍が固めるとは言え、格で言えば州刺史や州牧が多数いますからね。意思統一は難しいでしょう」
実際の反董卓連合も、この酸棗で進まずにグダグダになった。それをなんとかしようとしたのが曹操だ。今回は曹操がいない。南から北上しつつある孫堅が合流するまで動かない可能性さえ出てくる。つまり、まだ間に合うだろうというのが俺の読みだ。荀攸は最適解を出すのが得意だが、相手も最適解を出すと思いすぎるところがある。今回で言えば、袁紹のリーダーシップを高く見積もりすぎなのだ。最悪の事態を防ぐ能力が高いとも言えるので、別に悪いことではない。ただ、今回は程昱が俺と同じ判断だった。
「大工が多すぎると歪んだ家が建つということです。仲厳様の申された通り」
「袁将軍は大司馬の劉虞様か囚われの劉弁様を皇帝に担いで戦いたいらしいので、劉大司馬にひとまず摂政として名乗りを上げるよう頼んでいると聞いています」
「漢室の争いにも持って行くと。しかし、その考えが弘農王様を害することに繋がらねば良いですが」
弘農王劉弁様を万一にも担がれたら困る董卓ならば、彼を殺してしまう可能性だってある。だが、そうなったら袁紹は摂政になった劉虞様を皇帝に担ぎ上げる気だろう。二段構えにするために、袁紹は劉虞様を御輿に担ぎたいのだ。そして、それを劉虞様は理解している。だから応じていない。
「袁将軍の説得が終わるか、董卓の軍勢が戦を仕掛けるか」
「董卓も長引かせたくはない筈。兵は金食い虫ですので、ただでさえ悪化している雒陽の懐を痛めたくないでしょう」
董卓式ハイパーインフレは留まるところを知らない。彼が先程の食糧購入で支払いに使った貨幣は本当にワッシャーみたいだった。あれでは流通なんてとてもさせられない。その状態で董卓は関東地域を敵に回しているのだ。本当ならすぐにでも経済の立て直しを始めないといけない状況だろう。雒陽では1石の食糧に10000銭ではもう買えない状況らしい。半年ちょっとで値段が倍だ。インフレ率驚異の400%。なお、これでもジンバブエには届かない。デノミなんて考え方もないだろうしなぁ。うちの周辺では先日から採掘を始めた金を棒状にして、高額決済用に使っている。俺の金庫も良質な銭を金の棒に替えて保管し、市場の良貨を守ろうと必死である。おかげで青州ではまだ食糧価格が1石900銭くらいに抑えられている。そのため、焦和は州の予算で食糧を買い集め、それを連合軍に提供することでギリギリ面目を保っているらしい。
「とにかく、これから来る曹家はこの状況なら戦場に間に合うでしょう。彼らとともに反董卓連合に加わるか、それともこのまま静観するか」
「潁川の父兄を第一に考えるなら、静観が最善でしょう。民衆の董卓に対する怨嗟の声は大きいものの、青州ではむしろ高く食糧を売れると農家は喜んでおりますし。何より、今回の曹家受け入れで反董卓に心情が近いことは示せますので」
程昱は静観を最初から主張している。これは、反董卓連合に入っても主導権がとれそうだったタイミングがないし、過去にもそういうタイミングはなかったからだ。一方、荀攸は参加してもいいという立場だ。彼はこのハイパーインフレ状態を良しとしていないので、このまま董卓が失政を続けるリスクを排除すべしという考えだ。
「仲厳様は青州だけでなく漢全土を救える星の下に生まれています。ここで董相を放置するのは、天命に適うものではないかと」
「救わねばならない民がまだまだいるのはわかっています。ただ、今かもう少し後かは考えた方がいいですが」
「そう申されると思いまして、御父上の盧大海様と御兄上の盧太守にお願いをして潁川の防備を確認してあります」
荀攸はそう言って潁川郡からの手紙を見せてくる。兄の盧欽を支える軍部には郭嘉と厳象、賈信の名前が記されている。賈信は知らないが、郭嘉はあの郭嘉だ。曹操を支えた軍師の1人で、秀才と呼ぶしかない人物だ。彼がいるなら守りは問題ないだろう。兵数も潁川だけで10000を揃えているようだ。城に籠れば十分負けない兵力だろう。人口密集地帯、恐るべし。
「酸棗の軍勢が総崩れでもしない限り潁川は無事でしょう」
「だから連合軍に参加すべき、と?」
「あの焦刺史が大きい顔をする機会は、既に潰せました。故に、ここで参加すれば盧仲厳という、1人の英雄が参加する形に出来ます」
荀攸が引き延ばしに賛同した理由がこれだ。早期の参加は焦和の名声を高めることにしかならない。だから、彼と彼の巫女が予言した日の先で参加する必要があった。
「曹家の合流をもって反董卓連合軍に参加する。我々が万全な状態に整えていただけと世間は受け取るでしょう」
「何度も聞いていた決起の時に、曹家を巻きこむ、と」
「はい。彼らは一族を守れて嬉しい。我々は区切りがつけられ、焦刺史とは独立した軍勢として動ける。しかも、兄上に害が及ぶこともほぼない」
ちなみに程昱は『反董卓連合と董卓軍が潰し合って疲弊したら全軍で兗州・冀州・幽州・司隷を獲るのが最も労力が少ない』という意見だ。合理的すぎて話を聞いた時は震えたね。
「まぁ、曹家の人々と会ってみてから決めるとしましょう」
彼らが野心を強く持ち、兵の質を高く保っているなら、それこそ反董卓連合軍が大勝利する可能性も出てくるわけだし。
『曹瞞伝』と『世語』によると孫乾の家と夏侯惇は縁戚なので、こんな流れに。
史実では反董卓連合に参加した焦和が戦後に青州を黄巾党に占拠されており、泰山郡などは戦力を全て董卓に向けていないのがほぼ確実です。黄巾賊がほぼ滅びたため、実は兗州の参加者や袁紹などの面々は連合軍に結構大兵力を動員できている状況です。ただ、焦和は州刺史として最初から保有していた軍勢だけです。
曹家は曹操だったら迅速に戦場に参加していたでしょうが、そこらへんがブレイン不在とトップの決断力不足で主要な軍勢が到着したのに間に合わない今の状況に繋がっています。




