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出会った君は龍の生贄  作者: 御風呂 嬉々
第一章【龍の生贄】
3/6

第三話:右腕




パチ。何かが弾ける音で目が覚めた、


瞼の裏で青く光った景色は、オレンジ色へと変貌した。焚き火だった。


「おねえちゃんっ…!!」


「ぐっ」



仰向けのお腹に突進してきた妹。一瞬息が止まる。


スパークした思考はリセットされ、ここが、洞窟の中だということ、そして夜なのだということを再認識した。


そして何より、妹と、その横にいるもう一人。



「ああ…気にしないで」


「……気になるわ!」



目を合わせようとしない、同じくらいの年齢の、男子であった。

目を見張る風貌ではない。でも、圧倒的に違和感があるのは、少し隠しているようでも隠しきれないその肥大した紫色の右腕であった。


「……何か?」



ミウ? めちゃくちゃ怖い! この人!


「おねえちゃんがこわがってるよ」


「……そう」



なんか妹と仲良くなってる? いやいや、そこではない。


「貴方は、ええと」


「この人ユイトって言うらしいよ!」


「……」



ほら困ってる。


「なんか妹がスイマセン…」


「仲が良いんだね」



真顔で言われてしまった。全く恥ずかしい。


「そうだそうだおねえちゃん! さっきあっちでこんな面白い石があっいてっ」



妹よ。げんこつで済ませてやろう。

手の平大の石が、その手から転げ落ちる。

そんなわけで、コミカルな出来事が続いたもので、軽い気持ちで聞いてしまった


「ユイト…さん? は、どうしてここに?」


「……俺は、そうだな、旅をしているーー」



だから、こう続けた彼の顔を、忘れはしない。


「ーー龍を殺す、旅だよ」






※ ※ ※






おねえちゃん、おねえちゃん、と。めちゃくちゃに響く声が森に広がっていた。


目標はここら辺のはずであった。あまりに煩いと、『ソレ』に見つかってしまう。


幸い、動いている発声源はずっと叫び続けているので追うのは苦ではなかった。


そして辿り着いた洞窟で見た、二人が喰われるその瞬間。

呪われた右腕の。今となっては日常となったその力を発動。

生きとし生けるもの全てに終わりを齎す理外のエネルギーが龍を殺す。

例えそれが不死でさえ。


最期に放った僅かな咆哮は、助けを求めるようでもあった。だが躊躇はしなかった。


しかし少しだけ動揺した。そのせいか、余波が少女たちを襲ってしまう。

小さい方は掠っただけであったが、龍に近かった大きい方は影響が強く出てしまった。


「おねえちゃん!」繰り返す妹らしきそれの泣き声を聞いているうちに、自分と重ねてしまう。



「ーー退いてろ」



本当は人と関わるべきではなかった。でも、巻き込んでしまった以上、責任は取らねば。

少し、右腕の力を絞る。


毒を以て毒を制す。


彼女の体に飲み込まれた滅びの呪いを、滅ぼす。



ーー俺がそうされるはずだったように。



少しずつ相殺されるその様子を、彼女の妹らしき少女はジッと見ていた。






「ーーということだ」


ざっとした説明であったが、顛末を説明する。


「ありがとう、ございます」


「朝になるまで待って帰れ」


「……」


姉の方の表情が曇る。

もしや。


「生贄なのか」



噂では聞いたことがある。丁度ここら辺の地域であったか。生贄を捧げ龍を宥める儀式だ。確かにそれは論理的だが、奴らに理性など存在しない。きっと寝ぼけ半分に村など簡単に消される。

きっと伝統が続いてきたのは奇跡のようなものなのだろう。


そして、帰れば、逃げたと見なされる、と。

でも心配はない。


「龍は死んだんだ」


「え」



そして顔を上げる少女。妹の方はニコニコとしている。


「ちゃんと話聞いてた? このおにいちゃんが、倒してくれたんだよ!」


「え、あ……ごめんなさい。なんか頭がぼっとして…」


無理もない、不死をも殺す力の余波を浴びたのだから。少しばかり具合が悪くなるのは道理だ。


「相殺には時間がかかる」



胎動する負の力同士、もう暫くで消え去るだろう。

だが彼女は耳を押さえ呟く。


「や、違う……これは、耳鳴り…?」


「耳鳴り…?」



ごう。耳に届いた。微かに鳴る少音。


本能が告げる負の予感。

先程妹の手から転げ落ちた手の平大の石が、目の端に映った。



ーーまさか。



そして次の瞬間。轟音は俺たちを吹き飛ばした。


「…っ!!」



飛ばされ宙を舞う最中。脳の処理が遅れゆっくりと流れる視界に映った光景。


「二体目……(つがい)かっ!」



気が付かなかった。妹が持ってきたあれは、こいつらの卵だったのだ。

一体目同様、崩れた瞳の虹彩が崩れた焚き火の余炎に照らされギラリと瞬く。


死したものから生は生まれず、ただ形としての卵としてこの世に堕とされた。

それを頑なに守っていたから、最初の龍はここを離れなかったのだ。


怒り狂う二体目。死の間際に放った一体目の信号を受け取って来たのだろう。


早めに洞窟を離れるべきであった、と後悔するとともに、ここで二体目に気付かず去り、後で村が壊滅したことを後悔するよりはマシだと思った。


中空。冷静を取り戻す。


「お前もーー」



終われ。そう念じて撃った先であったが龍はいない。

気が付けば背後を取られていた


「速っ…?!」



放たれた一発の斬撃。背中に熱いものを感じるが、歯を食いしばり反撃する。


「っ!!」



だが、揺蕩う蜃気楼のようにその輪郭ははっきりしない。

なんだ。今までの龍と何が違う。


続けざまにもう一発くらい再び舞った身体に既に感覚は無い。

口内から溢れる鮮血が、状況の悪さを物語っていた。



自分を見やる二人の姉妹を避けるようにして着地。

体勢は崩れ、地面と激突した形になったが、なんとかして立ち上がる。

身体中痛い。痛いが、それは感覚が戻ってきた証拠だ。


「だ、大丈夫なの」


「いや、キツい」



そう返し、考えうる最速でその足元に潜り込むが、攻撃の予備動作すら感知出来ないまま壁にめり込んでいた。


洞窟が揺れる。


目の前が暗い。


否。もう目が機能しない。


ヤバい。


本当に、ヤバい。


死ぬ。


死んで、しまう。



「あきらめちゃ、ダメっ!!」



その瞬間、傍に駆け寄る小さい気配。


「ゼッタイ、おねえちゃんを救って!!」



『ーー生きて』



脳裏に煌めく記憶が、背中を押す。

伸ばした右腕は、小さい手で支えられる。

その先に、龍がいるなら。


終われーー


しかし目の前にいたのは倒すべき不死でも、救うべき姉妹でもなかった。



「ライ…姉…?」



映るはずのない目に映るは黒髪黒目の少女。

一緒に生まれ育ったあの村の大半、隣にいたあの少女。



あの日死んだはずの幼馴染みだった。






だから違う。幻覚だ。

俺はこの力を躊躇うことなく、解放した。






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