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Les yeux du monde du mort  作者: 風吹流霞
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第三話

レイクハルト市立図書館には、変な住人がいる。

それに気付いているのは、今のところ、自分だけかもしれないとシズは思う。

レイクハルトの魔導師たちの間には気が付いている者もいるかもしれないが、司書が気付いている気配はまったくなかった。


「ほう?属性魔法に関する論文か・・・」


一心不乱に本のページをめくる彼女の耳に突如聞こえた男性の言葉に眉をひそめる。



さっそく、でやがった・・・



ちっとシズは舌打ちした。



「年頃のお嬢さんが、舌打ちなんかするものじゃないよ」



彼女は不機嫌そうに顔を上げた。



「舌打ちの原因は、あなただって考えたことがある?レジー」



「いやまったく」とあくびれもせず声が返す。はあと彼女はため息をひとつついた。


「お願いだから、平凡な生活を送らせてほしい・・・」

久那くなの血を引く時点で、平凡ではないと思うがね・・・」


ゆらりと空気が動き、誰かが肩をすくめたような気がした。



「だまらっしゃいっ!!」



静かだが、彼女の声音は迫力がある。久那の血を引くのは確かに平凡じゃない。それは認める。

一歩譲ってそれを平凡と考えるとして、間違っても



「幽霊と会話できるなんて、絶対普通じゃない・・・」



シズは声のした方向をきっとにらみつける。そこには、20代後半ぐらいから30代前半ぐらいの男性の姿。

しかし、異常なのは、彼の姿が透明であること。

「普通、なかなかできないことだけどね・・・」

腕を組んで呵呵と笑った。

「好んでやりたくありません、レジー魔導師」

彼女はがっくりとこうべをたれた。

「魔導師なら好みそうだけど、残念」

「魔導師じゃありませんからね、私は・・・」

シズはしがない物語作家だ。それ以上でもなければ、それ以下でもない。魔導師になりたくもなければ、興味も無かった。



「もったいないなぁ、君はちょっと特殊だけど、いいモノ秘めているし・・・」



にっと笑ったレジーの言葉に、シズの頬がひくりとひきつった。


こいつ、絶対、わかってやっているな・・・


どういう言葉を選べば、自分が有利に立つか、それを計算しつくして、言葉を発している。

彼、レジスト・マージナリティはそういう人間だ、否、だったと言うべきか・・・。何しろ、彼は既にこの世を去った人間。

彼はこのレイクハルト魔法学校の創立者であり、稀代の大魔導師だった。

シズの前にいる彼は、所謂幽霊という奴である。

彼との出会いは、人目を避け、この場所で本を読んでいた時だった。いきなり姿が見えないのに声をかけられたのはさすがに驚いたが、シズは即座に状況を判断し、すぐに正常に戻した。なれていたのだ。

白状すると、シズはこの手の能力ちからが強い。幼い頃から、側には幽霊がうじゃうじゃ存在していて、会話もしていた。

幼い頃、いじめられたのは外見もだが、この奇妙な能力も作用していたと思う。

声をかけられ返事をしてしまったがため、以後、この魔導師はシズがこの場所に上ってくるたびに声をかけてくるようになった。

本人としてはいい迷惑なのだが・・・。

時々なら相手をしてやってもかまわないかなと思ったのが運の尽きだった。


「魔法書に興味を持ったということか?関心関心」


至極満足げなレジーだが、シズが魔法書を読むのは惰性のようなものだ。

文字であれば、彼女は何でも読む。面白かろうが面白くなかろうが関係が無い。

魔法書を読んでいるのはたまたま手に取ったのが魔法書だということだけ。


「魔法に興味は無いさね・・・」


彼女ははき捨てた。第一、魔法書を見ただけで、魔法が使えるわけでもあるまいし・・・。


「相変わらず、冷めた子だねぇ」


腰に手をあて、彼は肩をすくめた。

「外見20代の若作り爺にいわれたかないね」

レジーは80代でなくなっている。あの時代では長生きの部類だろう。

「減らず口を叩くのはこの口か?え?」

彼は、シズの口を引っ張る動きをしたが、霊なので、彼女の体に触れることはできない。

よって、シズにとっては痛くもかゆくも無かった。


「体乗っ取って、あちこちで叫んでやるぞ?」


冷めた表情を崩さない彼女に、痺れを切らしたのか、レジーはにやりと笑った。

「やめてくれ」と彼女は切実に思った。

シズの力は、久那の国の能力者と似ている。かの国の能力者は死者を視覚し、会話する。そして、その死者を自分の体に降ろす。

その能力の源が、シズの左眼だ。久那出身の父いわく、



青眼せいがん



というものらしい。

父の一族は久那の能力者の家系らしく、シズの叔母は海神わだつみに仕える巫女らしい。

青眼は能力者の証だ。そして、シズの場合、死者は左眼を通して視ることが多い。

左眼はあの世と繋がっているらしく、この世の事柄はまったく見えない。明暗がわかる程度の視力しか有さない。

視力が無いのならばと彼女は、鬱陶しい前髪に隠した。

試したことは無いが、レジーを降ろすことはおそらく可能だろう。

だからといって、おいそれと降ろすようなことはしない。というか、したくない。


何事も普通が一番だ・・・


シズは実感するのだった。

シズは霊媒師、シャーマンです。冷めた性格は、霊に振り回されないように、無意識のうちに形成していったようです。魔導師とシャーマンの力は微妙な差があります。本当に些細ですが・・・。

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