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Les yeux du monde du mort  作者: 風吹流霞
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十六話


目を開けると、見慣れた図書館だった。


吐き気がする・・・。


「レジ―、勝手に人の体使うんじゃない――」


導きだした解答を目の前にいる男性に投げかける。

「だけど、あのままだと死んでいたよ?」

ぐっと言葉に詰まる。その通りなので言い返すことはできない。

シズの能力である冥府の眼の能力は死者を視るだけではない。

時にその死者を自身の体に降ろし、死者の代弁者となる。

これを久那では「神降ろし」と称していた。

修行した者であるならともかく、体内に二つの魂を内包するその状態。

体内に自分ではない異物を受け入れている状態なので、自然と体は排除しようと動く。

その結果が、吐き気といった状態を引き起こしていた。


「一種の賭けだったが、どうやらうまくいったみたいだな」


ふふんと笑うレジ―。実体はないが、こいつはまがりなりにも初期の魔法都市創立メンバーだ。

優秀な魔導師であることは間違いない。

「けど、あそこは図書館とは距離がある。どうやって把握したんだ?」

シズは不思議だった。レジ―はこの場所からついぞ移動したことはない。

そんなレジ―があの場所に現れたこと自体が不思議でならなかった。

「この話は最初から話すと長くなるが・・・」と彼は腕を組む。

シズはげんなりする。嫌な予感がする。

「それはあれだろう、初期の魔法都市に関する話だろう・・・?」

「その通り」と彼はにやりと笑った。

「聞きたくない・・・」

面倒事には関わりたくない。そんなシズにレジ―は爆弾を落とす。

「・・・お前がきこうがきかまいと、都市議会が動いている。あの時点で渦中に巻き込まれているぞ」

シズは目を見開き、「・・・ああ」と頭を抱えた。


「それに、この事件自体、最初からお前は渦中だ」


レジ―は、無情な宣告を突き付ける。

沈黙を守るシズに、彼は言葉を続ける。

「初期の魔法都市は今のような鉄壁の防御を誇っていたわけではなくてね。今の守りは初期の魔法都市の魔導師たちの研究の結晶なのだ」

初期の魔法都市は何度も外からの攻撃を受けた。

そのたびに魔導師たちが撃退したが、このままでは駄目だと初期メンバーは思案した。


「ゆえに、最初は外からの攻撃から魔法都市を守る結界を施した」


しかし、外からの攻撃を防げば魔法都市を守れるかというと否。

逆にいえば中から破壊されてしまえば、丸裸だ。


「次に、魔導師たちは中の守りに着手した。簡単にいうと監視だ」


監視と簡単にいえばいいが、すべての場所に監視の人を置くのはどだい無理だ。

そこで魔導師たちは得意の魔法に頼ることにした。

彼らは媒体を用いて監視を行うというシステムを構築したのである。

「余談ではあるが、魔法都市の初期メンバーのうちのひとりが面白い研究をしていてね、私もそれに協力をしていた」

それは媒体を通して、人工的に組み上げた人格を投影させるというもの。

「まさか・・・」とシズははっと気づいた。

幽霊と最初から決めつけていたが、このレジ―は幽霊ではないのかもしれない。

「彼はそれを"幻体"と呼んでいた」

そして、


「私は彼が作り上げた"幻体"なのだよ――」


と彼は断定する。

自分にしか見えないので、幽霊だとシズは勝手に思っていたが実はそうでもないらしく、魔術の素養があれば、誰にでも視覚が可能だという。

単に、この場所自体好むのがシズぐらいだったというのが顛末のようである。

「魔法というのは何でもありだな・・・」シズは頭を抱えた。

媒体を使った人工知能。今の技術で再現できるかというと無理は言わないが、困難ではないのか。

「あの時代はそういったものがごろごろしていた黎明期だったよ」

レジ―は遠い目をする。

何故なら、あの時代、今でいうところの魔法の体形が整っていなかったからだ。

いにしえの強大な魔法、一部の人間にしか扱えず、それすらも代償の大きかった魔法を何とか全部とは言わないが、代償の少ない魔法へと。

当時の魔導師たちの血と涙と汗の結晶、それこそが現在、連綿と受け継がれている魔法体形だ。

このレジ―もまた当時の魔導師たちの努力の証なのだろう。

「幻体である私は、実体がないからね。媒体を使えば都市のあちこちに移動できるのだ」

シズは絶句する。これが図書館から離れたあの場所に彼が現れた理由。

「とんでもないなぁ・・・」

そして、このレジ―を使った監視システムは間違いなく当時の最高峰技術であったのだ。

レジ―の幻体が移動かつ、当時のレジ―が使えた魔法を搭載しているのは仕様だ。

何故その仕様なのかは、作成者のみぞ知るである。


「人が増えた現在、形骸化しているがね」


さもありなんと彼女は頷く。

このシステムは魔導師の少なかった当時のシステムであり、魔導師が増え、その魔導師を守る騎士団がある現在では、無用の長物にしかならないだろう。


「このシステムを知りえる魔導師は今現在ほとんどいないだろうね」


形骸化した失われた技術を知る人間はこの魔法都市の上層部でもそうそういないと彼は言った。

「私自身、何を媒体しているのかは知らないのだ」

製作者は幻体本人にも媒体の存在を隠匿したようだ。

彼に与えられた任務はこの魔法都市の内からの守護、監視である。

媒体の捜索や修理などはその任務に含まれていない。

ゆえに、媒体が何かは知らなくてもおかしくはなかった。

媒体自体、そこまで目立つ存在でもないらしく、よほど勘のいい魔導師が集中的に捜索してようやく探し出せるといったものらしい。

「やっぱり厄介事だ・・・」シズは頭を抱える。

形骸化しているとはいえ、これは魔法都市のかなめの一つであろう。

それを知った自分に今後降りかかる厄介事が目に見える。

できるのであれば、その厄介事が自分を綺麗にスルーしてくれればいいが、そうは問屋が卸さない。

シズの異能である「冥府の眼」もまたいにしえの魔法だから。

その異能が、厄介事をスルーする器用なことをするとは思えない。

恐らく、これからもシズは魔法都市に関わる謎に向き合うことになりそうだ。


なんとなくそんな予感がした――


レジ―を幽霊といっていたのはシズだけなんですよね・・・。

一応これで完結とさせていただきます。

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