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Les yeux du monde du mort  作者: 風吹流霞
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十四話


エリック・オードレイは、魔法都市レイクハルトの警護を担当する騎士である。

ひいては都市議会の警護を担当する騎士ともいえる。

彼の者の妹は手堅く商売を展開しているやり手の商売人であり、商人たちの情報網を網羅する情報通であった。

その妹からの情報こそが、ジェレミーが求めた情報であろうと彼の者は悟っていた。

妹からの情報を携え、エリックはジェレミーの元を訪れた。


「ハイランか――」


彼が手にしたものに記されていたもの、それは久那の交易品を扱う商会の名。

「災害によって滅びた都市の名とは――」

ハイラン、災害により海に沈んだ久那の地方都市である。

海の美しい都市であったが、海ともに生きた都市は海と一緒に沈んだ。

自然とは美しくもあり、残酷でもあるという一例である。

「ご存知でしたか?」というエリックの問いに、ジェレミーは視線をある一冊の本に移した。

久那の伝承や歴史を記した一冊の書。

「件の情報屋殿が記した書だ。彼女は名を出すのを嫌がったみたいだが・・・」

その書に件の情報屋殿の名はない。

"名もなき暗殺団"の犯行が明らかになって以来、急遽ジェレミーが取り寄せたものだった。

ジェレミーたちは久那の情報が圧倒的に足りていない。

この書の存在は、少なくとも"名もなき暗殺団"に関する情報の足掛かりにはなる。

ハイランの存在はレイクハルトでは認知されていない。

レイクハルトと交易をする際、標的に悟られず、しかも彼らにとっては久那を名乗れる。

絶好の名前であろう。

「港町カラボラより伝達がありまして、そのハイラン商会から商人たちが数人レイクハルトへ向かうとのことです」

「なるほど、商人になりすまして標的と接触するつもりか――」

例の魔導師の家の中に呪いの媒体があった理由は、恐らくこれであろう。

「そうとなれば、レイクハルトの警備体制を厳重に――」

「了解しました――」




都市議会でそんな会話が交わされていたとは露知らず。

シズは普段通りの生活を送っていた。

ただ、なんとなく警備がいつもより厳重だなとは感じ取っていた。

普段通り、いつもの時間に家を出て、いつも通り図書館へ向かう。


予定だった――


しかし、何か違和感を感じたのだ。

いつも通りの風景にぽつんと僅かなしみが落ちたようなそんな感覚。

無視すればよかったのだ。無視していれば、いつも通り普段通りの生活が送れていたのかもしれない。


―好奇心は人を殺す


けれど、彼女はそうしなかった。好奇心が勝った。

あろうことか、その"しみ"に対して声をかけてしまったのである。


「お前は"誰だ"―-」


見かけは商人風の男性。けれど彼女は違和感を感じたのは


「お前、"何もない"んだな――」


シズは人の記憶を視る。

彼女が死者を視るのは、人々の記憶が強く結びついたものであると彼女は推測している。

人は少なからず良かれ悪かれそういった記憶を持つ。

その強い感情によって結びついた記憶を彼女は左目を通じて視ているのだ。

しかし、そういった記憶を目の前の人物からは一切感じ取ることができなかったのだ。


「もう一回聞く、お前は一体"何者"なんだ?」


その言葉は最後まで言い切ることはできなかった。

シズの言葉に、男性の顔から笑みが消え、にゅるりと腕が伸びる。

「・・・かはっ!」

「・・・それはこちらの台詞だ、お前こそ何者だ・・・」

にゅるりと伸びた腕はシズの首を的確にとらえていた。

徐々に込められる力に、彼女の意識は白濁していく。


ざまぁないなぁ・・・


混濁する意識の中で彼女は自虐的に笑った。

"しみ"に声をかけなければ、今まで通りの生活をおくれたというのに・・・

そこであれ?と彼女ははたと気付く。


今まで通り・・・?死んでもいいと思っていたのに・・・?


案外、自分はこの生活を気に入っていたのかもしれない。

しかし、それに気付いたとしてももう遅い。彼女の命の灯火は今にも消えかけていた。


せ、せめて遺体は発見してもらいたいものだなぁ・・・


もう一度彼女は笑う。

意識が暗転する前に彼女は"声"を聴いた気がした。



くたりと崩れ落ちた女性を見て、"彼"はほっと胸をなでおろした。


まさか・・・、正体を見破られるとは・・・


慎重に慎重に情報を集め、我を押し殺し、変装に身を費やしたというのに・・・。

現にかの女性以外は、"彼"の正体に気付いている気配はまったくなかった。


「想定外だが、何とかなる、ターゲットの元に向かおう」


くるりと踵を返す"彼"の目に信じられない光景が映った。

崩れ落ちたはずのかの女性がむくりと起き上ったのだ。


「なっ・・・!?」


驚愕で固まる"彼"に対し、かの女性はにやりと笑った。その瞳は黄金に輝いていた。


「ふむ、なかなかに悪くない」


ぐーぱーぐーぱーと手を握ったり開いたりしている。


「では、我が理論の"試し撃ち"に付き合ってもらおうか――」


にたりと笑った女性の足元に魔法陣が浮かび上がる。


「ま、魔導師か!?」


焦る"彼"に追い打ちをかけるように、

「ほう、悪くない魔力だ。これで修行していないとな――」

背後で膨れ上がる魔力。


いや、まて、魔導師には詠唱が必要だ。その間に逃げれば・・・!


勝機を見出し、走り出した"彼"の横を魔法が着弾する。

ひやりと背中に冷や汗が流れた。


え、詠唱を省いた・・・?


詠唱は言霊に魔力を込める作業であり、この作業は魔力を安定させ、暴発を防ぐ効果がある。

詠唱を省く行為は暴発を誘発させる暴挙だ。

そんなことができるのは、豊富な魔力を自由にコントロールできる高位の魔導師しかいない。

「ひいっ!?」

「ほらほら、ちゃんと逃げないと当たるぞ?」

後方からさも楽し気な声が聞こえてくる。

"彼"は商人の仮面をかなぐり捨て、必死に逃げた。

それは、都市議会が敷いた包囲網に引っかかるほどに――。

最初のシズの能力の伏線を回収します。

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