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Les yeux du monde du mort  作者: 風吹流霞
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十三話

数日後、エミリアが媒体の解析を終えたという報告を受け、ジェレミーは都市議会を招集した。

都市議会は魔法都市の自治組織である。

魔法都市はこの都市議会の議員数十人の話し合いで方針を決定している。

その議会の議長を務め、議員を招集する任務を負っているのが、ジェレミー・マクダウェルその人であった。

若干28歳。この若き天才が筆頭に選出されたとき、さすがに場が紛糾した。

彼がいくら天才であろうとも、若すぎる人選であった。

もちろん、妬みや嫉みは数々。

されど、若き天才はそれらを実力をもって沈黙させた。

彼はそれができるほどの実力者だったからだ。

魔術師も魔導師も実力主義者である。

その魔術師たちが集う魔法都市の都市議会もまた実力主義であり、若き天才が実力で黙らせた以降、彼に対して表だって揶揄する者は現れなくなった。

そんな若き天才はその評価をものともせず、今日もまた淡々とそして確実に仕事を全うしていた。

鉄面皮とも証される白皙のかんばせに影が落ちる。

眉をひそめる、僅かに現れた表情の差分。

それに気付かない妹シェリルではなかった。


「兄さん、何かあった?」


それは兄が不機嫌な時に見られる微細な動きであった。

この微細な表情の差分を見分けられる人物はそうそう多くない。

妹であるシェリルは、その長い年月一緒にいたおかげもあって、その多くない人物の一人である。

兄の手には先日エミリアから上がってきた報告書がある。

ああ、あの案件かと早々に推測ができたシェリルもまた都市議会のメンバーであった。

「エミリアからの報告書、あの事件の進展が・・・って」

思いつつも兄のその表情から、事態はそう好転というわけでもなさそうである。

「あまりいい情報というわけでもなさそうね・・・」

彼女は肩をすくめる。

「いい情報ではあるんだ」とジェレミーは渋い顔をする。

「いい情報ねぇ」

何故だか兄の返答が煮え切らない。

「この情報については、議会で話す」

兄の返答はこの一点ばり。それを言われてしまえば、彼女とてそれ以上追求はできなかった。

かくして、筆頭魔導師ジェレミー・マクダウェルの名において緊急招集された都市議会は、自身が口火を切ることとなった。

「はじめに、このたびの緊急招集に応じて頂きありがとうございます」

「挨拶は良い、このたびの緊急招集の旨、用件を聞こう」

礼を述べるジェレミーを制したのは妙齢の男性。都市議会の古参であり重鎮でもある。

また魔導師としても実力者として名高い。

「話が早くて助かります。実は先だって起きた魔導師呪詛事件について、新たな展開がありましたので、都市議会に相談をと思いまして」

その言葉に、議会がざわつく。

「ほう」と興味深そうに目を細める妙齢の男性。

その表情はジェレミーを試すようなそんな表情にも思えた。

試すような視線を彼は真っ向から受け止める。

常に中立を保ちつつ、ジェレミーの動向を試している気がする。

ジェレミーが何か失態を侵せば、彼は自分の喉元に容赦なくかみつくだろう。

喰えない男である。

だが、裏を返せば、ジェレミーにそれができると踏んでいるからこそ、厳しい目を向けている証ともいえよう。

(お手並み拝見といこうか)

自然と口の端があがる。それもまた他人には読み取れぬ微細な動きであった。


「単刀直入にいいますと、あれは見ず知らずの呪法ではありません。こちらの呪術で間違いありません」


再びざわつく都市議会。

畳かけるように、ジェレミーは話を続ける。

「呪術師であるエミリアの解析は終わっています。皆様の手元にある資料がそれです。そして皆様、この呪術、どこかで見たことがありませんか?」

彼は問う。


「こ、これは、この間から頻発している呪詛事件に使われていたものと同じではないか・・・!」


誰かが絞り出すように低い声で発言した。

最近、魔法都市で頻発している呪詛事件。

その呪詛事件と全く同じ術式が今回の事件にも使用されていたのだ。

前回までは総じて死者が出なかったため、これほどの騒動にはならなかったのだが、都市議会では危険視していた。

ジェレミーがエミリアを探し出したのは、数年前から頻発しているこの呪詛事件のためでもある。

水の賢人はこの解析を得意とするが、たびたび賢人を呼び出すのは忍びない。

故に彼はエミリアを都市議会へと誘ったのである。


「恐らく、"名もなき暗殺集団"」


ジェレミーは断言する。

その暗殺集団に名前はない。これは都市議会が呼んでいる便宜上の名前だ。

彼らは久那という国の失われた技術や文化を愛する集団である。

そんな人々が集まり、失われた技術や文化を再現しようと心血を注いでいる。

それまではいい、魔導師としてそれは同じ。

問題はその資金源のひとつに暗殺があるのだ。

その暗殺もまた、久那の呪法を再現しようとしている節もある。

「エリック」と彼はある騎士の名を呼ぶ。

すぐさま「はっ、ここに」とひとりの騎士が現れた。

レイクハルトの警備を担当している騎士団のひとりである。


「死んだ魔導師の交友関係を洗ってほしい。特に商会関連を。背後に"名もなき暗殺集団"が関係する商会が出てくる可能性がある」


ジェレミーが指示を飛ばすと「かしこまりました」と一礼して騎士は出ていく。


「皆様方もおめおめお気を付けなされ」


場の魔導師たちの息をのむ声がきこえた。

「これが緊急招集の理由です。是非はありますでしょうか?」

「異論はない」

魔導師たちは皆一様にうなずく。

「では、また進展がありましたら召集いたします。異論がないようですので、議会はこれで閉会とさせていただきます」

ジェレミーの鶴の一声が議会場に響き渡った。

黒幕が判明しました。

Sevens本編ではどうしても都市議会の構造についての詳細が蛇足になるので書けなかったのですが、

今回都市議会の構造について、書いてみました。

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