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Les yeux du monde du mort  作者: 風吹流霞
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十一話

シズには基本怒るという行為をしない。

なぜなら、怒るという行為は他人に興味を持たなければ発生しない感情であり、他人に興味を持たぬシズは持たぬ感情だからだ。

それなのに、心の奥底から湧き上がってくるこの感情は紛れもなく怒りである。


表情が乏しいシズは、滅多に声を荒げないし、怒ることもしない。

怒るという行為は、世界に目を向け始めた証であり、シズにとっては結構なことかもしれないが、彼女が怒る姿を唯一目撃しているセリオスは焦った。

普段無表情なシズだが、怒ると、


尋常なく怖い――


普段動かさない表情筋を動かし、口の端をくいっと持ち上げ、微笑む。

其の様子が本当に怖いのだ。今回もそれは健在で、シズは口の端をくいっと持ち上げ、微笑んだ。


「セリオス、お前、余計なことをしてくれたね・・・」


目が笑っていない・・・。その怜悧な表情にセリオスは硬直した。


「生兵法は怪我の元って言う言葉を知らないと?」


「いやいやいや!!」と彼は必死に否定する。

いくら知識があろうと、専門外の事に手を出せば、後でしっぺ返しを喰らうと言う事は重々承知だ。

「・・・って・・・あれ・・・?」

彼は気付いたように、

「それじゃあ、今回も・・・?」

シズは笑みを引っ込め、「はあ」とため息をついた。

「医者が呪術に手を出すな・・・」

「あれは呪術なのか?」

呆れたとばかりにシズは肩をすくめる。


「よきも悪きもな」


彼女はすっぱりと切って捨てた。

「第一、呪術なんて、一般人にとっては呪いか、まじないか、一見しただけじゃわからないよ」

それが良きも悪きもという意味か・・・。

「それが久那なら余計だろ?この街の人間で久那について詳しい人間なんて少数なんだから」

シズはその稀有な存在だが、彼女とて全てが解っているわけではない。彼女は生粋の久那人ではないのだ。

「おかげでえらい目にあった・・・」

朝の騒動を思い出し、彼女はがっくりと項垂れた。

「ん?何かあったのか?」と呑気にたずねるセリオスを殴り飛ばしたくなった。


「お前のせいで、朝から冒険者に追いかけられたんだよ!」


死んだ魔導師に家にあった久那の人形のせいだ。そして、その元凶はこいつだ。

「そいつぁ、悪いことをしたな・・・」と彼は頭を掻く。

良かれと思って行動したが、勇み足だったか・・・。


「それにしても、素人の俺に、呪いなんてかけられるはずがないんだが・・・」


久那の人形が呪いになった可能性があるという話を聞いて、彼は首をひねる。

多少、知識はあるものの、自分は呪術に関しては素人だ。

「シズは言っただろう?素人に呪いはかけられないって・・・」

「ああ、そうだね」

彼女はあっさりと肯定した。「恐らく」と彼女は人差し指を唇に当て、真摯な表情を浮かべる。

これは彼女が考え込む時の癖だ。


「魔導師だからだよ」


「え?」とセリオスは目を見張る。

「なまじ力があるから、思い込む事で呪いが発動しちゃったのかな・・・」

「呪いが発動って・・・、魔法じゃないんだからさ」

眉をひそめるセリオスに、

「呪いも呪術だから、魔法に違いないはずだが・・・」

けろりとシズは答えた。そういわれればそういえなくもないので否定はできない。

「まあな」とセリオスは言葉を濁した。

「よく”病は気から”って言葉があるけど、あれって実際、馬鹿に出来ないんだよなぁ・・・」

これはセリオスの専門だから理解できる。

「プラシーボ効果だな」

ただのビタミン剤を、薬と偽っても効果が出ることがある。これがプラシーボ効果だ。

今回はそれの反対の効果が出たようだ。

「呪術の抑止力は本当に微弱なもので、普通の人間はまずひっかからない」

ひっかかるにはどうしたらいいか、その辺りを考えるのが呪術の醍醐味であり、それには、多大な手間と頭脳が必要なのだ。

普通の魔導師ならこんな割に合わない呪術を好んで使わない。しかし、魔力の低い魔導師はといえば、答えは否。

少ない魔力で魔法を使える呪術は、彼らにとっては喉から手が出るほどほしいだろう。

だが、呪術は抑止力が弱いため、常に相手の弱点を探らねばならず、それはすなわち卑怯者と罵られることとなる。

呪術を主体として使う場合は、常に侮蔑に晒される。そこでもふるいにかけられるわけだ。

「呪術は呪文と媒体さえ手に入れば、一般人でも使えるからなぁ・・・、面倒くさいけど」

シズは頭を掻く。「そうか」とセリオスは納得した。

「一般人でも使えるから、呪いがかけられたと勘違いしたのか・・・」

「何か疚しい事でも抱えているんだろう。でなきゃ、呪いで死ぬなんて有り得ない」

どうせ、自分から出たさび。自業自得といえば自業自得である。

「呪いをかけられていても、自分の行いを改めれば自然と呪いは消えるものなんだけどなぁ・・・」

「まさに、逆プラシーボだなぁ・・・」

セリオスが感心している。

「言うことを聞かない患者や、子供に試すのもありか?」

「いや、それさ、母親がよく言う奴だって・・・。~~しないと~~が来るとか・・・」

シズの場合、父親の影響で鬼であったが・・・。

「そういえば、俺もいわれた事があるな・・・」

俺の場合は、魔物だったなと彼は屈託なく笑った。

久しぶりの投稿。次話は近いうちに投稿の予定。

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