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Les yeux du monde du mort  作者: 風吹流霞
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第九話

死とは自然界において普遍的なもので、それを後々まで引きずるのは人間ぐらいだろう。

死者を忘れる、それは自然界において当たり前なのだ。彼らは生きるために必死なのだから。

生き物が死ねば、また新しい命が生まれる。そうやって、生命は繋がれていく。

人間と言えども、生物。死者を忘れいくのもまた自然。死者を忘れ、新しく生まれた命を祝福する。

死者を引きずることで、新しい命を祝福できなくなるのはナンセンスだ。

死者を忘れられない思慕の念と、忘れようとする自然のことわりが相反した結果が、このセリオスと名乗る青年の状態なのかもしれない。

罪悪感にしろ、罪の意識にしろ、永久に抱き続けられるほど、人間は器用ではない。

人間もまた自然の一部だからだ。

「開放して」と泣くのは、彼の本能としての感情。彼の本能は忘れたいのだ。

そして、新しく生まれくる命を祝福して、成長を見届けたいのである。


「・・・」


彼は顔を伏せ、額に手を当て、黙り込んだ。シズも黙り込む。


こういった説得は苦手なんだよね・・・


優れた霊能者は、相談役としても優秀らしく、相談役の話を聞いて、うまい具合に筋道を立て、相手を説得し、問題を解決する。

自分は霊能者ではないし、多少、霊視の力があったとしても、それを自由に使いこなせる自信は無い。

多少、厳しい言葉になったとしても相手に解らせることが初手になる。それはシズにも可能だ。

そこで、相手が理解してくれれば、後は自然と解決に向かうらしい。

昔、ひょんなことから出会った霊能者に教わった手順だった。

もちろん、自分の力があまり好きではない彼女がこの手法を使うのは、今回限りのつもりだ。

久那の見目をした自分を、何の見返りも好まず、治療してくれた医者の青年。

お金はないが、何か出来ないかと考えていたシズの左眼に映った自分によく似た少女。

シズの左眼は死者を視る。つまり、少女は死者であり、彼にとり憑いているということか・・・。

「開放して」と泣く少女から話しを聞いて、彼が過去に囚われていることを知った。

少女の解放=彼が過去と決別を意味する。優秀な医者である彼には、前に進むためには決別してもらわねばならぬ。

だが、自信は無かった。これで、青年が気付かなければ、シズの役割は終了だ。

以後、彼は再び過去にとらわれ続けるであろう。

ややあって、彼が静かに口を開いた。



「忘れるとは、彼女との思い出も忘れてしまうのか・・・」



少年期に感じた甘酸っぱい青春の味も消去されてしまうのか・・・。

「違う!」とシズは声を荒げた。その剣幕に驚いたのか、セリオスは顔をあげ硬直していた。

つい感情的になったことをシズは恥じる。彼の言葉はシズにとって一番大事な人のことを思い起こさせたからだ。

彼がそう感じたのは、自分の言葉が足らなかったせいだ。やはり、自分に説得は向いていない。



「悪いものをいいものへと還元するだけ。自然がそうやって循環しているように・・・」



この世は食物連鎖によって成立している。この世界に住む微生物は、多少の悪いものは分解し、養分に変える。

その養分を吸って、生物は生きていく。



「辛い思いはやがて、懐かしき思い出――」



そうか・・・とセリオスは頷く。

「自分の本能にすら、心配されているのか・・・」

「懐かしき思い出は、生きる糧にもなる・・・」

言っていることは立派だが、シズの表情はまったく変わらないので、どこか滑稽に見えて、セリオスはつい笑みをこぼした。

「何故、笑う?」と彼女は不思議そうに首をかしげる。

その仕草は無表情な彼女が見せた唯一といっていいような年相応な表情であった。


セリオスがどうやって乗り越えたのかは、シズにもわからない。

しかし、日に日に彼の後ろにいた少女は泣き顔から笑顔に変わり、その笑みも薄くなっていき、次第にその影も薄くなっていった。

ついにはその姿を見かけぬようになり、「ああ、思い出に変わったのだな」と彼女は理解した。



「呪縛から逃れられたから、医者をやめる?」



シズの問いに、「それはないな」とセリオスは即座に否定していた。

確かに最初は贖罪からの職業選択ではあったが、今では生きがいすら見出している。

呪縛が解けたからと、医者を辞めるつもりはまったくなかった。

「それに」と彼はきりっと表情を引き締める。


「思い出にしたからといっても、俺が彼女を追い詰めたことは間違いない」


忘れてはいけない。



「だから、多くの患者を救うのは、俺にとっては使命でもあるのさ」



もちろん、無理をするつもりは無いと彼は笑う。


「患者を救うのに、自分が無理して患者になってしまったら元も子もないからね」


そう考えられるようになったのは、呪縛から逃れられたということもある。

きっと、呪縛にとらわれていた自分は自分の身すら構わず、突き進んでいただろう。

それが、周囲に心配をかけていることも知らずに・・・。

これからは、自分も大切にしつつ、患者を救っていこうとセリオスは決意を新たにした。

事件の内容に触れてないような・・・。

次からは事件に触れていく予定・・・?

プロットなしで進めているため、予定通りに進まないことも多いです(だめじゃん)。

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