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Les yeux du monde du mort  作者: 風吹流霞
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第一話

シズはしがない物語作家だ。少ない稼ぎで細々と生計を立てている一般人。

なのに、何故・・・



「まってくれーー!!」



こうも大勢の人間に追いかけられねばならぬのだ。

言っておくが多少職業は特殊だが、冒険者に追いかけられるほど、まずいことをしたことはない。

お天道様に顔向けできないようなことは絶対にしないし、至極全うに生きてきた人間だ。

シズは荒い息を吐く。

事の起こりは、前の住人が安く売ってくれた家を出た時から始まる。

物語作家とはいえ、そこまで稼ぎがあるとはいえないので、節約のため、昼間は家を留守にし、市立図書館にお世話になり、夜は早めに寝るというサイクルをここ数年続けている。

何より図書館は一日中入り浸っていても、飽きることがないくらいの蔵書があり、本好きの自分にとっては節約と読書という一石二鳥な場所であった。

今日も、いつものサイクルを繰り返すべく、家を出ると、冒険者たちがいっせいに追いかけてきたのである。

もはや驚くよりも恐怖が先立った。

言っておくが、自分は至って普通の人間だ。

そりゃあ、外見がこの国の人とは違うし、故郷にいた頃は、それが原因で苛められたりもした。

街のガキ大将たちがいっせいに追いかけてくる様は、幼いシズにとって苦痛だったし、否応なしに恐怖心を植えつけていった。

以後、あまり友達と遊ぶことをしなくなった。友人も作らず、一人で遊ぶことが多くなった。

年頃になって、この街に来たが、故郷には友人はひとりもいないし、この街にもいない。

仕事の関係とかで知り合いはいても、友人と呼べる人間いない。

むしろ、一人のほうが気が楽と思っていたりする。

そういえばと彼女は思い出す。


こんなに追いかけられたのは、子供のとき以来か・・・


人への恐怖心を植え付けられたあの出来事。

彼女はへろへろになりながらも、目的地の図書館へたどり着く。

後ろからどどっと形容詞がつくような勢いで走ってくる集団を見て、恐怖しつつも中へ滑り込んだ。

滑り込んだ図書館は、外の喧騒とは無関係にひっそりとした空気が漂う。この静謐さが好きなのだ。


「今日はまたずいぶんな登場の仕方だな」


二つの緑の瞳がこちらを見下ろす。背広姿に紺のネクタイを緩めている男性。この図書館の司書だが、名前は忘れた。


「関係ないね、あんたには・・・」


投げ槍に答え、シズは図書館の階段を登る。「そう」と彼の声が後方で聞こえてきた。


ここはレイクハルト大陸の魔法都市レイクハルト。

魔法都市を中心にその周囲を国家が並んでいるという実に規律正しい大陸設計になっている。おそらくそこに、魔法都市の謎も潜んでいるとシズは推測しているが、自分には関係ないことなので沈黙している。というよりどうでもいい。

彼女にとって、必要なのは、日々暮らしていけるお金と本を読めるということだけで、それ以外はどうなろうと知ったことではない。

彼女は、魔導師ではないから、首を突っ込んでもなんら得はないのだし・・・。

この街レイクハルトは、魔導師と呼ばれる魔法使いが統治する変わった都市なのだ。

もちろん、シズのような一般人もたくさん住んでいるが、やはり目立つのは魔導師たちだった。

レイクハルト市立図書館はそんな魔導師たちが収集した魔導の本やら植物の本を預かる名目で発展したらしいが、いまや、そのかけらすらない。

歴史書やら恋愛小説まで何でもござれだ。

そろそろあの冒険者たちが追ってくるはずだが、彼女は本を数冊手に取り、一番高い本棚へと向かった。

最上段へいく手段は何故か、梯子しかない。おそらく一番読まれにくい本と、魔導に関する本がところ狭しと陳列してあるからではないかと思う。

本来の市立図書館は最上段の役目だけに作られた。レイクハルトの重鎮たちはここに入られるのを良しとは思わないだろうが、シズは


魔力がないんだから、見てもしょうがないじゃん・・・


とあっけらかんとしたものである。するすると梯子を登ると、梯子を最上段へ持ち上げ隠す。これなら追ってこれまい。

案の定、数秒後入ってきた冒険者たちは図書館の最上段にいる彼女を見て、見るからにがっくりと肩を落としていた。


ざまあみろ・・・


彼女はそれらを最上段から見下ろし、薄く笑った。シズは調子に乗れば、一日中、この最上段に居座り続けることもできるのだ。




「Sevens Word」という自作小説のサイドストーリー。

「Sevens」の主人公もでますが、こちらでは脇役。

あくまで、シズが主人公なので、少し毛並みが違うかもしれません。

タイトルはフランス語で、「冥府の眼」という意味です。

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