逃げるハーフエルフ
何故か二つあったので消しました。んな訳で真夜中に投稿でござる。意味は特にないです……
正確無慈悲な攻撃で一つも外さずに額を射抜き続けるウェイルも十分に凄いのだがそれでも殲滅力より、正確さが表に出てきてしまうため一対一でも無い限り有効な手段をとれないのだ。だが、それでもサポートとしては十分以上の働きをしているのだが。
一番目を引くのは一人前に立ち(立たされた)ユウジンだった。
最初は拙い動きで一匹殺すのにも覚束無い様子だったのだが時間が経つにつれ精錬されていき、今では一切の無駄がなく他者ーー主にウェイルなのだがーーから見ると踊っているとしか思えないほどの剣舞だった。
一太刀が首を跳ね、返す刃で喉を斬る。おどおどしていた様子が嘘だったかの様な変容ぶりであった。
「(どう考えても数が多すぎるよな……)」
そう、ウェイルが考え始めたのは戦闘が始まって十数分経った頃だった。
幾ら野生の動物の何十倍も強化されていると言う魔獣で、部下を作るといっても数体ほどが普通なのだ。今のように何十体も出てくることは有り得ないのだ。
有り得ない、と言うより聞いた話がないだけで実際は目の前で体験しているし数が多いって事はそれだけ相手が強力なのだ。
そろそろ起こした方がいいよな。と、先程までは一杯あった筈の矢を見ながら手を離す。回り込み、水辺の方から襲い掛かってこようとした狼の額を矢が突き刺さる。身の丈ほどある大きな弓のため本来はバリスタのような感じで使うのだが生憎、そんな御丁寧にエルフが使う矢が売ってる筈がなかった。だが、それでも額を貫通し、体の中にまで入り込んでいるのだが。
残りも数えるほどしかなくなった矢を纏めて掴み、叫ぶ。幸い、暗闇の中でもある程度は見えるのだ。ここから離れるのは得策かどうか怪しいが防衛ならもっと適した場所があるのを記憶している。最初はこんな場所埋めてやろうか、と思っていたウェイルは行動しなかったあの時の自分を褒めた。
「正面の敵は僕が倒して隙を作りますのでその間にリックさん達と一緒に走ってください!」
「ッ! ウェ、ウェイルさんはどうするんですかっ!」
そうやら「俺を置いて先に行けっ!」的な事だと思ったらしい。正面の狼の押し返しながら叫んだユウジンに対し言葉と同時に矢を放つ。纏めて放った矢は想像よりは真っ直ぐと飛んでいった。
「そりゃあ死ぬのは嫌だから一緒に逃げますよっ! ほら、リックさん達も早く出て!」
「え、わ、分かってたのかよ!?」
水辺の方から襲ってきたときに何か、金属が擦れる音がしたのだ。判断する材料はそれしかなく完全に身勝手な行動だったのだがなんとも勘が当たったのかテントから飛び出るようにして服を着て、装備をしている二人が出てきた。これで全裸だったらすぐにはこの町を出発しないで笑ってやるのに、と久々に黒い部分が飛び出るウェイルだったのだが直ぐに思考を戻す。
放った矢とユウジンが斬り殺したタイミングが重なり、ウェイルは乗っていた木から飛び降りる。追っ手を少しでも撒こうと水に触れると煙が出る結構高価なアイテムを投げ付ける。
回り込んできていないことを祈りつつ、水辺を渡りきった瞬間にアイテムが水に反応して煙がモクモクと出てくる。地面は血で潤っていたので血で反応しないかな、と考えていたのだが成功したようだ。
狼は鼻で敵を追う。だが目を潰されたら流石に足元には注意するだろう。心臓の鼓動で音が聞こえ辛くなるほど必死に走りウェイルの後を追い掛ける。リック達ほどではにしろ、同じくバクバクと鳴る心臓を聞きながら記憶を辿る。
「記憶の通りだと……ここから左の坂の下っ! 飛び降ります!」
見える範囲で考えると飛び降りるにしてはどう考えても高過ぎるのだが考えている時間はなかった。時間稼ぎには成功しているみたいだったが一番後ろを走るリックはしっかりと聞いているのだ。自分達以外の足音が聞こえているのが。
其々が走る速度を止めずに坂から飛ぶ。木々に当たり、身体中に擦り傷などが増えていくのだがそれによって衝撃が徐々に緩和されていき、最終的には強く尻餅をついた程度で済んだのだ。
ハァー、と深い息を吐き倒れ込む。走りすぎて苦しいのだろう。備えあれば憂いなしだな。そう、考えながらポーチから取り出した火の属性石で壁に掛かっている松明に灯を灯し始める。埋めようと思ったのは変な場所にあるこの洞窟のことだった。何故かその場所には松明などのものが置いてあるのだがウェイルが置いたわけでもないし、最初にウェイルが来たときには既にあったのだ。この場所の持ち主にはまだお目にかかったことはないのだが今はそれが幸運だった。
場所の関係もあり、火の明かりが外に漏れにくい場所は外敵から身を隠すにはうってつけの場所だった。
「正直、あの相手を倒したいって気持ちはあるけど……それはリックさん達と話し合って決めなきゃいけないんですかね……」
妙な怠さを感じながら呟く。倒れた三人には聞こえてなかったのか返ってきたのは「もっと優しくできないのか」と、洞窟の奥へと引きずるウェイルに対する不満の目だった。
解説、火の属性石
他にも水や風など“魔力”に通すことで発動できる魔法が秘められた石の事である。簡易に火、水を作り出せることで結構な値段で売られている。基本的には魔法が使えない者が使用するものである。鉱山などで採掘できるのだが希少価値は宝石よりも少し、低いというもので簡単に手に入るものではない。
【後に変更があるかもしれません】