バーチャル学級会
1
あれから何日すぎたかな。
仲良しの町に、ゆみみは現れない。
騒ぎになったのは始めだけで、いつの間にか静かになった。
今日は金曜日。
学校は終わり、お家でタブレットをさわっている。
もちろん「仲良しの町」にいる。
金曜日の宿題は必ず多かった。
土曜日、日曜日の分が付いてくるからね。
しかたないけど、少ないのがいいなあ。
いま午後九時、本来なら門限だけど、金曜日は午後十時まではできるから。
本当は午後九時までなんだけど、金曜日だからと許してくれるみたい。
そして、なんと今日は! 夜中十一時までいいんだよ。
理由はね、会議室を使うから。
会議室はねクラスメートみんなが参加できる場所で、みんなといろいろな決めごとをするんだよ。
「バーチャル学級会」て、いうんだよ。
私はタブレットにマイク付きヘッドホンを取りつける。
会議室のチャットは音声と言葉によるもので、実名が入るの。
つまりハンドルネームはつかない。
ついでに、文字のチャットもない。
文字チャットしたら、文章をみんながいっせいに打つからわからないからなんだって。
私は「お話マンション」にいる。
でも会議室にはまだ行かない。
理由はまだ少しだけ早いから。
だからお友だちとチャットして、時間をつぶすつもりなんだ。
その相手を目指して、マンションのエレベーターを上がった。
まずは二人部屋の階だ。
そこに待っているお友だちがいるの。
エレベーターから出ると、そこには亜由美がいた。
祐樹と会っていた時とは、服が違う。
いつもの白い服に、ポニーテールだ。
「遅いよ!」
いきなり怒られちゃった。
宿題が多いから、しかたかったのに。
「あんな程度で?」
亜由美がいう。
自分は頭良いからってもう!
「あははは、ごめんね」
亜由美が笑う。
もう!
とにかく部屋に入ろう。
私が誘う。
「そうね、ワッコちゃん」
亜由美がうなづく。
さてと……お話お話!
2
部屋に入って、数十分。
私と亜由美はいろいろチャットをしていた。
何げない話題だけど、笑顔がたえない。
やっぱりチャットはおもしろい。
「そういえば今日は、誕生日よね」
いきなり亜由美に、いわれた。
そのとおりだ。
私はようやく、みんなに追いついた。
「プレゼントの予定は?」
ないよ……トホホ。
「あははは、でも、ひょっとしたらずっこいプレゼントあるかもよ」
亜由美がいった。
え? すごいプレゼント?
……これは何か企んでいる!
私は考える。
「あははは」
亜由美の笑いが、本当に悪魔みたい。
「ワッコちゃん、そろそろ会議室だよ」
もうそんな時間なんだ。
うん、出よう。
私と亜由美は、部屋を出る。
会議室に行こう。
3
タブレットにヘッドホン付きマイクを付けて、頭からそれをかぶって私は待っていた。
会議室にはクラスメート全員が、はじまるのを待っている。
タブレットには「会議中」と書いてあり、画面はその文字と教室の画像だけ。声だけのやりとりをする。
「皆さんこんばんは、ごめんね。本当は寝る時間なのに」
竹内先生の声がする。
ごめんねが、ごめんと思っているように聞こえないのは、私だけだろうか?
「さて、今日の議題は、来年に向けての準備です。卒業式はもう少しだけど、はやく決めておきましょう。だって、みんな、六年生になるんだから」
竹内先生がいった。
そう、私は六年生になる。
だけどまだピンとこない。
「さてと……議題を始めよう」
そんな中で、会議は進み出した。
4
会議はすごく順調であった。
六年生になるにあたっての心構えからはじまり、学級委員長を決め、係りを決めていく。
これでほとんどの時間は使った。
そしてバーチャル学級会も終わりに近づいている。
「さて、皆さん、来年に向けての決めごとは、終わりました」
いつしか亜由美ちゃんが、クラスの司会をしている。
理由は学級委員長を六年生もするから。
なんだか大変だなと、私は思う。
「さて、皆さん、何か質問はありますか?」
ないない、さて終わろうヘッドホンを外そうとした……。
「えーっと……」
ん? 祐樹の声がする。
なんだか、声がへんだ。
緊張してる?
こいつ、何緊張してんだか。
好きとか言い出すみたいに……
「委員長、俺、六年生は……バカ子と、違う河合さんのと同じ席を……卒業するまで望みます」
…………はい?
「あら、すっ、ごい! プロポーズ? 河合さんのお誕生日プレゼントね!」
「ち、ちがう、委員長、プロ……ではなく、バカ子を守らないと」
…………な、ななな、な・に・そ・れ!
私は固まってしまった。
と、いうか、訳がわからない。
なんなの!
みんなから、冷やかされる。
すごい声が、ヘッドホンから飛びかう。
「先生、どうします?」
「いいわあよう。男はそうでなくっちゃ!」
……なんだか、決まりそう。
「後は河合さん次第ですね。いいお誕生日ね」
「本当うらやましかあ! 河合さんお返事はぁ?」
うそ。なんでこうなるの。
祐樹が私の横になるのは……なるのは。
私は考えてさせてと、泣いてしまった。
だって、そうでょ!
いきなり、なんなのよ。
これが誕生日プレゼント?
亜由美ちゃん、あんたぁ!
……まさか!
「しかたないな、月曜日までに答えをくださいね」
先生がいった。
月曜日ですかあ?
「お隣なんでしょ。話し合いをしてね。とにかく今回のバーチャル会議のチットは終了でーす」
竹内先生がいった。
5
会議が終わり夜中になった。
私はスマホで、祐樹に電話する。
「バカ子……俺はお前を守る!」
いきなり、いわれる。
それ以外は口を閉ざしている。
なんなの、私そんなんじゃあ、嫌よ!
「だって、悪いことがおこるから! 俺……ゆみみ、幽霊からいわれたんだ」
祐樹がいった。
え? ゆみみ? ゆみみに会った?
「ああ、俺も今日の夕方に会った。いきなり、二人部屋に押し込まれた!」
え? 押し込まれた?
「知らないよ。でも本当なんだ。ツインテール? だっけ横に結ぶやつ、それをしてた。それになにより、赤い服を着ていたんだよ。赤い服はあれ一着だけだろ。だって、ここのアバターの服は全部違う形だから。貸さない限り……それに誰が幽霊に服を貸すんだ!」
確かに、仲良しの町の服は、全て形や色のゴーディネートが違う。
赤、白、といってもそれぞれ、百あれば百とおりのゴーディネートがある。
服は何着でも持てる。一人何着でもね。
…………ん?
私の頭の中で、「何か」がつながり出した。
無言で押し込まれた……これは察しがつく。
それは名前だ。
ふだんの会話になると、会話文の上に名前が入る。
つまり誰かが、わかってしまう。
それが、チャットルーム、つまり部屋に入ると……なぜか名前が出なくなる。
なぜ、無言で連れこまれたのか?
……なるほど!
それと、三週間前の記録を調べてみよう。
そこにも、何かがある。
私は祐樹にお願いをする。
「本当! ゆみみが出るのか?」
私は力強く答えると、明日の仲良しの町で会えると約束をした。
「よし、決着だあ!」
祐樹、決着って……決着よね!
私は力強くうなづく。
さて、明日!
明日、すべてがわかる!
もう……みてなさいよ!