第八幕 無念の反乱鎮圧
元就が無事郡山城に入って安心している京です。
と言っても反対派が居るのは承知してますしこのまま行けば反乱必至ですね。でも元綱殿はあれから見ても忠誠の数値に変更はないんですよね。
もう一人気になる人が居ます。それは渡辺勝殿です。
ステータスを見れば歴然です。
名前 渡辺勝
年齢 45歳
格 58
生命力 3800/3800
体力 85
知力 60
技 中世言語(戦国時代) 苦痛耐性 身体強化(中) 敏捷(小) 頑健(中) 武勇
称号 毛利譜代家臣 忠義者
忠誠心 75
うーん、この人も元就に反抗しそうに無いですね。歴女時代の記憶では確か坂広秀に連座して元就自らが粛清した事になってます。でも一度決まったことに対しては逆らいそうに無いし何ででしょうか?
☆
其の頃毛利の執権を勤める志道の館を訪ねる者が居た。
「それは本当ですかな? 井上殿」
「我が手の者が集めた情報じゃ、間違いない。坂広秀と渡辺勝は此度の跡目相続に不満で尼子に接触し、尼子経久の重臣亀井が密かに合力して殿を亡き者にせんと企んでおるは必定じゃ。そして元綱殿を後見人にして尼子から養子を迎えんとしておる。これは正しく毛利に対しての反乱じゃ」
「故に討つというのですか?」
「左様、奴らが尼子の合力を受けてからでは手に負えなくなる、今ならば奴らも油断しておろう、尼子との関係が悪くなっても問題は無い、既に大内と繋ぎを付けておる」
「なんと、大内は我等をお許しになると」
「無論条件があるのじゃ、其の一つが尼子に組する者たちを排除する事なのだ」
「成る程、そうでなければ示しが付きませんからな」
「大内への帰参は周りの状況を睨んで行わねばなるまい、下手を打てば袋叩きになるからな、地道に説得して纏めて帰参すれば毛利の面目も立つと言うものだ」
「其処まで読まれて居られるとは、感服いたしましたぞ」
「我が井上家は新参ではあるが毛利への忠誠は誰にも負けぬ、譜代に胡坐をかく渡辺とは違うのですよ」
「然り然り、事が成れば井上殿の功は一番でしょうな」
二人は今後の打ち合わせを行い、井上元兼は支度をする為に帰路に着いた。帰るなり一族を集め行動を起こすのだろう。
「兄上、宜しいのですか?」
隣の間で見張りをしていた広良の年の離れた弟の善九郎が尋ねる。
「止めた所で止まらぬよ、井上殿はこれを機に己の地位を上げんと企んでおる。大内に通じて居るのも本当だろうて、大内の重臣陶興房殿と入魂の間柄と聞くからな。下手に動くと大内と尼子に挟まれて毛利は潰されよう。悔しいが今は尼子の介入を防がねばならぬからな」
「ですが、坂殿は兎も角渡辺殿や元綱殿は尼子と通じては居らぬのでは?」
「井上殿にとっては両者とも邪魔な存在、坂と通じて居る事にして葬りたいのよ、連座していたと言い立てれば後でどうにでもなるからな」
「それで宜しいので?」
「やむを得まい、今出来る事はこれ以上の被害を出さぬ事じゃ…… これ! 誰かある! 」
こうして京の知らぬところで陰謀は進んでいた、超常な力を持っていても神ならぬ彼女には死角を突かれれば出し抜かれる事があるのであった。
☆
相合船山城 元綱の屋敷
元綱の屋敷では祝いの酒宴が開かれていた。勿論当主を継いだ元就を祝っての事であった。
「これで毛利も安泰じゃ、めでたいのう」
家臣たちと笑いながら杯を空けていると緊張した面持ちの家臣が駆け込んできた。
「城の表門前に軍勢です! 皆戦装束をしております」
「何! 馬鹿を申すな、このような所に敵が攻め込むわけがあるまい、本城のすぐ傍なのだぞ」
飲んでいた家臣が咎めた通りこの船山城は郡山城の建つ山に連なる小高い場所に建っており此処に攻め入るには郡山城を無視する事は出来ない、其の為に其の不審は当然の事であった。
「間違いございません、{尼子に組し毛利家当主を討たんとする謀反人を討ち取れ}と気勢を上げております」
駆け込んできた家臣が答えると元綱はしかめっ面をしながら質問をする。
「旗印は何だったか?」
「上字に三ツ星、それに井の字があります」
「井上か、読めたぞ! 奴は俺のことを嫌っていたからな、この際とばかりに討ちにきたのであろう」
「まさか、御当主も……」
「信じたくは無いがこれだけの近くで騒ぎになっているのだからな……弓を持て! 迎え撃つ」
こうして船山城での戦いが始まった。
☆
これより前に渡辺勝の居城である長見山城にも井上の手勢は押し寄せていた。井上家は一族が多く動員できる兵力は家臣の中では一番であった。其の為同時に二箇所に兵が送れたのであった。
「うぬ、井上め図ったな、防戦に勤めよ! 渡辺綱の末裔の武門の誉れ見せてやるわ!」
其処に物見の者が駆け込んでくる、勝は念のため郡山城に送り込んでいた者が帰ってきたのに不審の目を向けたが、物見の語った事を聞いて顔面蒼白になった。
「元綱様が危ない、直ちに向うぞ」
家臣たちに下知を下し、隠居している父親にこの場を委ねる。
「虎市は逃がす、山内家ならば匿ってくれよう」
隣国備後の有力領主である山内家に渡辺家は伝が合った。乳母に連れられて勝の一子虎市はその場を離れた。
「元綱様、勝が行くまで無事でいてくだされ」
包囲網を突破して渡辺勝は元綱の元へ向う。
☆
郡山城 元就の屋敷 同時刻
元就も外が騒がしいのに気がついた。船山城も長見山城も距離が離れて居らず叫び声などが聞こえたのであった。
「何事だ?」
其処に元就付きの世鬼衆が到着して変事を伝える。
「なんと! 直ちに皆を集めよ!」
直ちに家臣たちに召集をかけるが井上家は船山城・長見山城攻めに出ており志道家などが坂氏の城である日下津城を攻めていたのであった。
其処に志道広良が具足を身に纏って到着する。
「広良、此度の事はいかがしたことじゃ?」
「坂広秀・渡辺勝が共謀し御舎弟元綱殿を担いで反乱を企みました。背後に尼子経久が居り高橋興光を通じて武器や兵を集め殿を亡き者にせんとしておりましたので機先を制して討ったのでございます」
「元綱が裏切るはずが無い!」
「確かに元綱殿が加担した証拠はありませぬ、ですが家中の反尼子の井上達が不満を募らせており、このままでは家中が割れ毛利は崩壊します。苦衷は察しいたしますがこれも戦国の習いでございます」
「せめて元綱の命は救いたい、向うぞ!」
元就は広間を飛び出した。それを見送る広良はこう呟いた。
「まだお若い、ですが其のお気持ち忘れないで居てくだされ、このような事が繰り返されぬ様に強き毛利を作る為に」
喧騒の中元就は出陣した。間に合う事を念じながら。
感想等ありましたらよろしくお願いします。