第三話 色々に驚かされての今後の話
真面目に今後の事を話したい京(8歳)です。
カオス状態から落ち着きを見せ皆で茶を喫しております。
「では、度々ここで逢っておられたのですか……」
並んで座っている両親には私は絶対零度の視線でねめつけます。
「京に話せなくてごめんな、横田の高橋さんに迷惑が掛かるんだよ、高橋本家にバレたらな」
元就が這いつくばって謝ります。
「早くにこの子たちの事を教えたかったのよね、可愛い弟妹がいるってね、でもバレたら困るからね」
まあ、普通の子供であれば嬉しさにペラペラと喋って噂が広まるとまずいですからね。仕方のないことなのかもしれません。
母のそばには私より一回り以上小さな弟妹がいます。でもどうやってバレずにいたんでしょうか?私と屋敷にずっといたはずなんですけどね?
聞いてみると代役を立てていたそうです。影武者を立てるみたいで本当にここは忍者の里なのだなと思いましたよ。
大方様はいつもニコニコされているのですが私の危機感知は胡麻化されません。政久おじいちゃんと同じかそれより上の力を感じます。若い頃の活躍振りに{世鬼の鬼姫}と二つ名が付くほどなのですから。
ちなみに鬼というのは悪い意味では無くて人より優れた力を持つものを称える称号なのです。一族もここの地名である瀬木を名乗っていたのですが里の人の力を知った者たちは世鬼と呼ぶようになったそうです。
忍びといっても色々あり、諜報活動に強い者、火付けや奇襲が得意な者、色事が得意な者とありますが、世鬼は諜報に強く、又流言を流したりするのに長けている者が多いそうです。又所領を持つ武士としての側面もあり政久おじいちゃんは武将としても優秀なのだとか。
私はほへーとして聞いていましたよ。
「そういえば言ってなかったけど、お母さん、貴方にとってはおばあさんの敵はきっちり取って置いたからね」
「え?」
確か安芸武田の城の普請の人柱にされたんだよね、とすると……
「武田刑部少輔元繁を矢で射たのよ」
有田中井手の戦いの事ですか?確か誰が射たのか判らない矢で川に落ちて首を取られたんだっけ?
「直接人柱にした普請奉行は大方様が直ぐに始末されたの、流石にその主君は勝手には討てなくて、攻めてきてくれたので良かったわ」
もうね、なんて言っていいか判らないよ!
「今の京なら多治比まで気づかれることなく来ることが出来るだろう、遊びに来なさい、横田殿も承知しておられる」
元就の話に驚きます、惣領家の命に背くという事は横田の高橋家はもしも毛利と高橋が戦うことになったら毛利に味方しそうです。
「いいけど、知りたいことがあるの、何故私は高橋家に行かされたの?それも母と一緒に」
「いいだろう、その辺の事も全て話そう」
元就が居住まいを正して話し始めた。
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「有田・中井手の戦いの後、高橋本家から使者が来てな、両家の更なる友好の為、縁組を結びたいと来たのだ。だが高橋から妻を貰った私に何をと思った時使者はお前を嫁に出してくれと言ったのだ」
「でも、その頃はまだ2歳だったはずですよね? それに相手は?」
「相手については早々に決めるがまず高橋の作法に慣れてもらうため、母親毎来るようにと言われたのだ。あの時の毛利は武田を跳ねのけはしたが、まだ報復で攻めてくる可能性があった。当主が討たれたのだからな。それに対抗するには一緒に戦った吉川だけでなく高橋が後ろにいる事が必要だったのだ、断ることはできなかった」
「そして親子を送ってすぐに吉川から私に縁談が来た。そこで判ったのだ、これは謀られたのだと」
「謀られたって誰にです?」
「尼子経久、出雲の大名だ」
その名を聞いた時に直感が走る、間違いなく彼ならやるだろう、戦国大名としていくつかの謀で伸し上がって来た家だ。
「恐らくは吉川の事情に手を貸したんだろう、あそこの末の息女は嫁いで直ぐに夫が死んで未亡人になっていた、それが不憫で吉川から尼子に協力を求めた、その相手が自分だったのだという事はやはり有田・中井手での采配を評価されたのだろうが、当時の私は己力の無さを嘆いたものさ」
確かに尼子経久の正室は吉川家から出ているから頼まれればそのくらいの策は打つだろう。彼にとっても可愛い姪なのだから。それに高橋は隠居で毛利の当主の祖父に当たり、後見人を務めていた久光が戦死して、家中が不安定に成っていたから尼子に貸しが作れると言う事で賛同したと言う事か。
「では何れは高橋家の誰かと結婚と言う事になるんですか?」
「そんなことはさせるわけなかろう! 高橋興光! 打ち滅ぼしてくれるわ!」
なんか元就滅茶苦茶怒ってるんですけど。こりゃあ、史実の高橋攻めがえげつないのはこういう恨みがあったのね。
又一つ知りたくない歴史が一ページ追加されました。しかし、何時になったら私は天下取りに出られるんでしょうか?
感想等ありましたらよろしくお願いします。
次回は10日午後5時に投稿予定です。