第二話 裏の話と元就との出会い
今日も今日とて一人トライアスロンをしている京です。
最近は慣れたせいか簡単に出来るようになりました。人間って適応力があるんだなと思いましたよ。電車も車も無い世界では馬に乗るか自分の足で移動するしかありません。この時代の人の身体能力は凄いわけですよ。
「京、着替えていらっしゃい。今から出かけますよ」
母にそういわれて屋敷を出ます。人質なのに割と自由なので聞いてみるとこの地の領主のお陰だそうです。この地は横田と言って高橋氏の城があり私たちは麓の屋敷に居るのですが高橋氏の傍流に当たるこの方は母の義理の父親になるそうですが、実の娘の如く非常に可愛がってくださったそうです、私も「我が孫よ」と言う事で大事にしていただいております。
これが嫡流の高橋興光殿であったらどんな扱いを受けていたでしょうか?多分監禁されて外も満足に出れなかったかもしれません。
「今日はどこに行くのですか?」
「私の里に行きます」
母の生まれた里に行く事になるようです、と言ってもほんの数里しかありませんでした。今の私なら簡単に行ける距離です。ですが母上、急に走り出さないで下さいね。修行なのかも知れないですけど。
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里に着きましたが見たところ何の変哲も無い農村のようにしか見えません、ですが私には感じられます。
「何なの? この圧迫感は?」
「気がついたか? 修行は物になっているようだな」
はっ! 何時の間にか傍に偉丈夫が立っています。気配には完全に気がつきませんでした、何者?
「驚いたか? 儂の名は世鬼政久、よう来たな我が孫よ」
世鬼ってあの忍家の? 確かにこの時期は高橋家に随身していたはずだけど。その世鬼が母の実家だったの!と言う事は……
「母上、今までのお勤めは……」
「この里の者が成人までに受ける鍛錬ですよ。義父上京は中々見込みがありますよ」
「そうか、それは頼もしい、よいか京よそなたに今から話す事はお前にとっては衝撃が大きかろう、だがわしらはそなたが今後生きていく技を身に付けこの戦国の世を渡って欲しいと思っておる。よくよく心を強く持ち聞くのだぞ」
そうして話された事は衝撃の連続であった。
元々母は目の前の政久お祖父ちゃんの実の娘では無く同い年の里の者の娘だったと言う、狭い里なので勿論縁戚ではあったそうな、ある時隣国の太守大内家より主家高橋家に動員の要請があった。要請と言っても命令に近いけどね、逆らうと幕府に逆らう謀反人にされてしまうと言う落ちである、そう大内家が軍を起こしたのは幕府の将軍様からのお願いである。
正確に言うと権力争いに敗れた元将軍様だが復権を目指し大内家を頼ったのであった。野心のあった大内義興は周囲の領主たちに参戦を促し高橋家からも兵を出した。その中に母の父も居たのだそうだ。世鬼の者として先んじて京に上り諜報のためにある里に潜り込んだときに母の母、すなわち私の祖母と出会い所帯を持ち母が生まれた。祖父に当たる人からすれば忍び働きの為だったんだろうけど、その祖父が船岡山の合戦で戦死した後自分にもしも何かあれば世鬼の里に行くようにと遺言していたそうだ。
母子は子供が旅に耐えられるようになってから里を目指し巡礼に扮して旅を続けたが安芸国に着いた所で悲運に会う、丁度安芸武田家が大内氏に背こうと居城の拡張工事をしていたが出丸の石垣がどうしても崩れる。私から言わせれば設計ミスだろと言えるのだがその解決策として人柱を埋めて何とかしようとして目を付けられたのが他国人で身寄りの無さそうな母たちだった。捕らえられ祖母は人柱にされ母は売り飛ばされる所であったが丁度商いで来ていた世鬼の里の者が気が付き助けられたのだと言う。
巡礼の親子と人柱の話と言えば毛利に伝わる{百万一心}のエピソードじゃない! こんな所に真実として入っていたなんて、今生の祖母がその当事者だと知って胸が締め付けられた。
里の者に保護された母は知らせを受けて駆けつけた政久お祖父ちゃんによって守り袋に入っていた書状から同い年の親友の子供と知り自分の娘として引き取る事を即座に決め政久お祖父ちゃんの妹も幼かった母を抱きしめ保護する事を誓ったと言う。
「その出会いが無ければ私はこうしている事も、元就様に嫁ぐ事も無かったでしょう、大方様のお陰です」
そうなのか……ん? でもその話に出てくる大方様って誰なんでしょう? 流れからすると政久お祖父ちゃんの妹の呼び名みたいだけど。
「大方様というのは政久様の妹に当たり元就様の義母に当たる方ですよ」
え? それって杉大方様の事ですか?
「大方様はこの瀬木の里の出身なので瀬木大方と呼ばれていますよ」
ああ、時代が経つと人の名前が間違って伝わってよく似た発音の言葉に置き換わると言うあれですね、某国営放送で日本人の名前をネタにした番組で専門家が言ってましたね。こんな事は覚えてるんですね。
観察眼で鑑定したらそれでこんなになったのか。
名前 高橋 楓
父親 高橋久厚(養女)
母親 高橋すず(養女)
年齢 26歳
格 80
生命力 1800/1900
体力 99
知力 90
行動力 3500/5000
技 中世言語(戦国時代) 苦痛耐性 空腹耐性 病気耐性 毒耐性 身体強化(中) 敏捷(大) 頑健(中) 回復(小) 交渉術(中) 隠蔽(大)
称号 孤児 瀬木大方に庇護されし者 高橋氏養女 毛利元就妻 京母 興千代丸母 尤母
マテ! 称号に変なのが付いてる! こないだは気がつかなかったけど興千代丸とか尤って誰よ!
聞く訳にも行かず悶々としているとそっと駆け寄る影が一つ。今度はちゃんと感知できた。政久お祖父ちゃんが別格なんだね、安心したよ。
「多治比の元就様と大方様が御付きになりました」
「判った、すぐ行く」
ほえ?何で元就がここへ?それに大方様まで?
二人に会うまで私の頭は混乱してますよ。
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「京よーーーーー会いたかったぞ!!」
「!!」
「あらあら、松寿殿は年甲斐も無くふふふ」
再会の場は軽くカオスでしたよ。
あの元就がこんなに娘バカだったとは、某テレビドラマで嫡男が亡くなった時{わしのたかもとー!}というシーンを見てそれは無いだろと思ったのが頭の中を過ぎります。謀神というのはやはり後世の作り話のようです。
元就に抱きしめられて遠くを見ながら感じました。
傍に立っておられるのが大方様ですか、とても気品のある方ですが私の危機感知はこの人が凄い使い手であると告げてます。流石{世鬼の鬼姫}と呼ばれた方です。
取り敢えずこれでは話が出来ないんでいい加減離してもらえませんかねえ?
感想等ありましたらよろしくお願いします。
※高橋氏関係は資料が少ないのでオリジナルキャラになりました。