第十三幕 マッチポンプ同盟
6/17修正
皆さん、お元気ですか? 今絶賛ずっこけ中の京です。
父の身を案じて寺の天井裏で様子を伺っていたら尼子経久とんでもない事を言い出しました。元就が絶叫した後の惨劇ですが逆上した元就に経久が頭をどつかれて今小坊主に濡れた手ぬぐいで冷やしてもらっています。
「あイタタた。すまん言葉が足らんかった。嫁に呉れとは言ったが儂の嫁ではない」
経久の嫁だと六十歳近い年の差婚となりますからね、しかも私はまだこの時代での成人すら迎えていませんから幾らこの時代と言えどアウトでしょう、侍所さんこっちです案件ですよ!
「では誰に? そもそも私の娘は高橋に害されたのですが」
「それについては先ず謝る。元々そなたの家督相続に口を挟んで高橋を使ったことをな。其の上でそなたの娘が高橋ごときに害される者ではないことも承知しておる。どうせこの会話も聞いておるのだろうしな」
流石に謀聖と呼ばれる人だけあってよく分かっていますね、最後の台詞を聞いて隠れていてもしょうがないので姿を現します。
「ほらな」
「京、出てきても良いのか?」
「この部屋の周りには尼子方は誰も居ないからね、本当に身一つで来るなんて驚いたわ」
「どんなに警護をつけても止める術が無い以上無意味だからな。それに誠意を見せたかったのじゃよ」
「謀略の鬼が言う台詞?」
「勘違いしては困るが謀略と言う物は嘘ばかりでは成り立たんのだ。誠意を見せ信義を貫く、相手によっては其れを守れぬ様では小手先で騙せてもいつかはしっぺ返しが来る。{律儀である}と言われる位で無ければ真の謀略家には成れぬよ」
なるほどね、あの狸親父徳川家康も{律儀な内府(内大臣)}と呼ばれる程だったからね。其の位で無ければならないという事か。流石謀聖とまで呼ばれた男だね。
「それにそなたに礼を言わねばならん、儂は尼子の力を付けるために急ぎすぎた。長男の政久が亡くなったのもあるのかも知れんが国久や興久のことを考えておらなんだ。このまま行けば尼子は身内で凄惨な殺し合いをしたであろう」
あれだけの注意喚起で此処まで読むとは凄いですね。元就が見習っただけの事はあります。おや?元就がやさぐれて居ます。
「いいんだいいんだ……どうせ儂は我が子を人質に出すような親なんだし……」
まるで何処かの大河なドラマの主人公みたいです。ああはなって欲しくは無いんですけどね。まあ娘バカなのはドラマ以上だしね。
「父上、落ち着いてください! 経久殿、それで縁談の相手は誰ですか?」
まあ、半分は分かってしまうのだが。
「儂の亡き嫡男政久の長男の三郎四郎じゃ、年も近いのでお似合いじゃし儂に似ず容姿端正、将来イケメンになるぞ」
まあ、この間会ってるんですけどね。あのお漏らし君か、確かに将来が楽しみなショタ……おっと不味い地が出そうになったよ、でも経久何処からイケメンを持ってきた?
「いや、京はもう離さな……」 「いい話ね! 受けましょう」
否定に走る元就に割り込んで話を受ける。
「おお! 本当か?有り難い!」
「但し! 尼子家は私の言うとおりにしてもらうからね」
「構わんぞ、尼子家が存続できるなら何なりと手伝うぞ」
「言ったわね! 二言は言わせないわよ」
「この尼子経久、年寄りとは言え約束を違える事は無い」
「あのう、儂の出番は?」
こうして尼子家と毛利家は縁戚となる事となり、強固な同盟を結ぶ事になった。
☆
尼子経久
ふう、どうにか縁組が成ったか。尼子の興廃の掛かった交渉はひとまずは成功だな。幾日も考え抜いて我家が生き残る術を考えたがどうやってもこの手しか思いつかなかった。
だがあの娘、思っていた以上に傑物であったわい。まさか天下を狙って居ったと知った時には驚いた物じゃ、儂も漠然と天下と言う物に興味はあったがそれがどのような物を取ればよいのかは判らなかった。まあ、隣国の大内義興殿が嘗て都に攻め上り公方を立てて管領代になられた時にこれぞ天下人よと思ったがあの娘はそれでは温いと言い切った。
天下取りの基準が根本的に違うのじゃな。それに大内や我が尼子の領国支配もこのままでは駄目だと言い切った。其処から変えぬと天下を取れぬというのじゃ、凡そは教えてもらったがまだよく判らん事が多すぎる。若い奴等を集めてあの娘の下に送り教育してもらわねばの。三郎四郎には悪いがこれも尼子存続の為、縁組の話をしたら酷くおびえて居ったが御家の為に我慢してもらわねば。
じゃが秘密に同盟を結び尼子と毛利で表向きは争そっている振りをして意のままにならない領主たちを巻き込んで一つづつ潰していくという策には驚かされるばかりよ、この儂も考えつかなかった。火付けと火消し策という策というから海外から入ってきた策であろうがよく出来ておる。これならあの大内ですら欺けよう。そうして両者が大きくなっていく……ふふふ、この儂が年甲斐も無く興奮しておる。本当にもう五拾ほど若ければ儂が嫁に貰いたいくらいじゃな。
☆
尼子経久がほくほくとして帰った後、「娘が……嫁に行ってしまう、いやだああぁぁぁぁぁ」とさめざめと泣く元就を宥めるのに苦労する京がいた。
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