第十一幕 コマンド発動とその結果
「毛利元就の娘だと? 確か高橋の人質の筈? 何故此処に居るのか?」
経久は問う、ありえないと思いつつも其の言葉が偽りとは思えない、其の雰囲気が彼女にはあった。
「誰がなどは問題ではない! この場で討ち取れば!」
国久が引き寄せた刀を抜こうとしたとき。
強烈な圧力が彼らに押し寄せた。それはこれまでに体験した事のない威圧・恐怖そして怒りの感情だ。
(くっ・これは、このような威圧は受けた事がない……)
経久は冷や汗を流しながら周りを伺った。国久と興久は自分と同じように汗を流しながら相対しているが完全に動きを封じられている。三郎四郎は、白目を剥いて倒れていた。まだ幼い彼には荷が重すぎたようである。
(これでは万事休す、覚悟を決めねば成るまい)
経久は死を覚悟するのであった。
☆
(すげー{威圧}コマンド半端ないね)
怒りに任せて月山富田城に殴りこみして見たけど意外と簡単に入り込めてしまった。
そして神器(ゲーム機)の外交コマンドの一つ{威圧}を使ったけど大の大人が身動きできないほどに硬直してしまっている。ステータスの名前欄を見ると当主の尼子経久と息子の国久、興久、そして経久の孫の三郎四郎は後の晴久だろうね。
大人の三人は身動きできないくらいで済んでいるけど、三郎四郎は白目を剥いて気絶している。ご丁寧にお漏らしもしているようだ、きっと生涯の黒歴史になるだろう。
「毛利の娘よ、儂の仕掛けに怒って居るのはよく判った……だが今は戦国の世、{謀多きは勝ち、少なければ負ける}それが犬畜生に劣る所業であってもだ。武士の業と言っても良い。儂の命は呉れてやる故この者たちは許して欲しい。儂が居らずとも其れならば尼子家は滅びることはあるまい」
「「父上!」」
経久は自分を犠牲にしても子や孫を助けようとしているね。でもその子や孫たちが争って尼子家が伸び悩み最後には滅亡に繋がったなんて皮肉だね。
「親の心子知らずとはよく言った物ね。私が手を下さずとも貴方の子や孫は相争い尼子の力を削ぐ事になるわよ」
「何と!」 「そんな事は無い!」 「いい加減な事を!」
「だけど塩冶興久、あんたは尼子の人間?それとも養家の塩冶の人間なの? 塩冶の家は出雲守護代を出した家、京極を主筋とするなら尼子も塩冶も同格の家、それなのに尼子の下で我慢できるの?」
「……」
「国久も三郎四郎の配下でやっていく事が出来る? 一番手に負えないのが力を持った親族よ、家の為に働いても力を持つと警戒される、そして最後は邪魔者として消されるのよ」
「そんな……」
お節介かも知れないけど言わずには居れないのよね。
☆
尼子経久は京の言葉に衝撃を受けていた。
(儂の策が裏目に出たと言うのか、塩冶家を押さえる為に興久を養子に出したが、取り込まれてしまうと言うのか。そして三郎四郎を補佐する為に国久を残したがそれも相互不信の種を蒔く事になるとはな)
乾いた笑いが零れる、自分が今斃れれば、幼い三郎四郎を支えるものは居なくなる。そうなればどちらにせよ尼子家は終わり、滅びの道を辿る事になる。
そこに京が言葉を繋いだ。
「だから今、貴方達は討たないわ。今尼子が滅んでも毛利にとって益は無い。今日は警告よ、何時でも何処でも私は貴方たちを討つ事は出来る。これ以上ちょっかいを出すなら次は無いわ、そして今回高橋は毛利に牙を剥いた。だから滅ぼす、手出しは無用よ」
そう言ってそのまま悠々と部屋を出て行く京を経久たちは見過ごすしか無かった。
部屋の中の威圧が無くなり、伸された家臣たちを起こした経久たちは評定の間に移動していた。
「何故奴は我々の命を奪わなかったのでしょうか?」
問うた国久の顔色はまだ悪い。
「この月山富田城の奥深くまで入り込めるのじゃ、何時でも討てると言う自信の表れであろう」
「城の守りは何をして居ったのだ!」
興久が吼えるが、家臣たちは首をすくめるばかりであった。
「もう良い、弥ノ三郎、おぬしたちは気が付かなかったのか?」
「申し訳ございません。不寝番の者も気を付けていたのですが」
経久の問いに鉢屋衆を率いる鉢屋弥ノ三郎は申し訳無さそうに答える。
「ですが本当にその者は毛利の娘と名乗ったのですか?」
たまたま所要で城を離れていた経久の弟の久幸が尋ねる。
「そう名乗っておったからな、尤も証明する術がないのでな」
「どういたします? 毛利を攻めますか? 高橋を潰すと申したのなら高橋と手を組み戦う事も出来ましょう」
「それについては考えがある。高橋には手出しは無用にせよ」
経久は腕組みを崩すことなく考え込んだ。己の決断が尼子の興亡に関わるのだ。頭の中で目まぐるしく取るべき道を考えるのであった。
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