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二人で一人の俺、彼女!  作者: そこなべ のぼり
二章「神は気まぐれ、夢は乱れて」
9/14


「うーん。にわかには信じがたい話だな」


 詳しい話を聞き、そう呟いた相模女史は小さく微笑む。

 阿修羅を倒した一時間後、駆け付けた警察に事情聴取を受けた俺たちは先程ようやく解放された。

 警察には、乱入してきた不審者によって体育館が壊されたと説明した。氷は除去しておいたが、若干水が残ったので怪しまれないかが不安である。まぁ、水くらいは気にも留めないだろうけど。

 そして、俺は約束通り相模女史に事の説明を行い今に至る。

 自分が特別な力で、化け物と戦っているくらいしか説明しなかったが、相模女史は実際に目の当たりにしたこともあって納得してくれた。さすがにリリのこととかは説明できないし、なんなら説明したくない。


「まぁ。そのことはさておきだが、……今回は本当に迷惑をかけた。すまなかった。……そして、ありがとう」


 相模女史は、そう言って頭を下げた。

 いきなり頭を下げられ、俺は慌てて手を振る。


「いやいや! 確かにいろいろありましたけど、そんなっ。やめてください! 大袈裟ですって」


 すると、相模女史は「……そ、そうか?」と呟き、頭を上げる。少し気恥しそうな彼女の様子を見て、とりあえず無事で良かったと俺はホッと息をつく。

 正直、リリの「夢喰い」の話を聞いた時は気が気ではなかったのだが、こうして一件落着してみると、なんとも言えない安心感を覚える。


「あ。……そういえば、部員の皆さんは?」

「問題ないよ。皆無事だ。どこかの道場破りにやられた箇所が痛む奴はいるみたいだがな」


 そう言って相模はいたずらっぽい笑みを浮かべた。その表情は、いつものような固いものではなく、素直な女の子そのもので不覚にもドキッとしてしまう。

 すると、遠くにいた副将の男子が、相模女史を呼ぶ。


「主将―! そろそろ解散しますよー?」

「あぁ! 今行く!」


 彼女はその声に凛と応えた後、クルリと俺の方に向き直ると、トテテと近づいて来て手招きする。


「大和くん。ちょっといいか?」

「はい?」


 俺は言われるまま相模女史に近づくと少しかがむ。

と、突然に相模は背伸びすると――――――――――――――――――――――――



俺の頬に軽くキスをした。



「え? え。ええええええええええええええええええええええええええええええええ⁉」


 いきなりの事で変な声を上げて後ずさる俺を、彼女はしてやったりとニコリと笑い踵を返して駆け出した。


「これは、お礼さ。受け取ってくれ。……では、また学校でな!」


 俺は呆然とその背を見送り、熱を帯びる頬をそっと抑える。


『ぐぬぬ……。あの女、意外にも乙女でしたか。不覚にも一本取られましたよ。くーっ! 悔しいですぅ!』


 リリが何か悔しがっているが、とりあえず無視。いやしかし、それにしても驚いたな……。イケメンって辛いんだな……。

 そんなことを思いつつ、苦笑した俺は、フッと息を吐くとゆっくりと伸びをした。


「よしっ! 俺たちも帰るか?」

『…………やはり、かくなる上は、大胆な姿でアピールすべきなのでしょうか?

……うーむ。悩みどころですぅ』


 何やら一人で恐ろしい計画を立てているリリをスルーして、俺は歩き出す。脳内で「ツッコんで下さいよー!」と寂しそうな声が響くが一切気にしない。気にしたら負けだ。

 

 だが、それにしてもまだ二匹。

 世界にはいったい何体の夢暴思現体(メアー・デッド)が溢れているのだろう。一刻も早く原因を探らなくてはならない。もぅ。あのようなことは繰り返させない。

 そう考えると、少し気持ちが下がるような気もするが、それでも俺が前を向かなくては世界を救うことはできない。それにこうすることが、生き残った俺の使命であり、世界への恩返しであるのだ。

 改めて、そう心に言い聞かせた俺は、未だブツブツと呟いている相棒とともに日の沈んだ住宅街をゆったりと帰路についたのだった。



××××××××××××



 そんな大和明日輝を遥かのビルから見つめる者がいた。

 その者は、首をコキリと鳴らし欠伸を漏らす。

 フード付きのローブを着ているため、ハッキリとした姿は分からない。ただ、その体から流れ出すオーラは、その人物を人外の存在であることハッキリと感じさせるほどに異質なものだった。

 その人物は、「はぁ」と息を漏らし、呟いた。


「なんか……邪魔なのがいるな」


 不気味な声色のその一言は、夜の闇に溶け世界をより深い闇へと染めていく。

 言い終わるなり、その人物は、フワリとビルの屋上から身を投げる。

 そして、一瞬にして姿をかき消した。

 残るのは、かすれたような不気味な笑い声。



 闇は、すぐそこに迫っていた。



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