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二人で一人の俺、彼女!  作者: そこなべ のぼり
一章「俺とアイツが、同じで一つで」
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 驚いたね。生きてるぜ!


 俺は、今起きたことに目をむいた。化け物からの攻撃が放たれた瞬間、俺を青白い光が包み込み、二つの攻撃を相殺する。

 光が消えると共に、俺の姿は意外な姿に変化していた。

 まず、髪が白い。そして、少し伸びている。体には何やら金属と布であしらわれた何かのコスプレのような装備が纏われている。手には、大型の爪のような武器が装備されていて、極めつけは、尻尾だった。本物である。触れば感覚がある。ふと気になって、頭に手をやると、……やっぱりありました耳。そうケモミミですね。


《これで君は、獣の力を司る戦士。つまり超人となったわけだ。……さぁ見せておくれ! 君の力、君が持つ「助けたい」と思う気持ちから生まれた力を!》


 なんだか中二くさいセリフだな……とか思いつつ拳を握ってみる。


「すげぇな、とんでもなく力が溢れてきやがる」

『……zzz……っは!? ……ってあっれ!? なんですかこれは! なんか姿変わってませんか! どうなってるんですか? というかすっごい魔力……』

「お前寝てたのかよ……」


 半ば呆れに近いため息をつきつつ、俺は化け物を見上げた。

 化け物は、いったい何が起こったのか分からないといった様子で、少し後退する。不確定要素を目の前におびえているようだ。

 俺は、ニヤリと笑うと拳を打ち合わせた。バチリと火花が散り、空気が焦げる。

 化け物が武器を構えた。しかし、その構えはぎこちなく逃げ腰に見える。


「人の命で遊びやがって、……俺はそうとう怒ってる。覚悟しやがれ化け物!」


 そう言った俺は、一息つくと強く息を吸い込んだ。


「天高く吼えるぜ!!」


 大きく叫んだ俺は、大爪を突き出すようにして構えた。

 咆哮により空間が震え、化け物がその圧力で後方に押される。

 俺は、拳を強く握ると血を蹴った。一瞬にして化け物との距離を詰めた俺は、その肩を全力で殴りつける。

 轟音が響き、衝撃波と共に化け物の右肩が粉砕する。化け物は吹き飛び堤防に激突した。堤防が崩れ、海水が足元を濡らす。

 ギギギと音を立てながら、ゆっくりとこちらを見る化け物は完全におびえていた。しかし、それでも砲台をひねり、横たわった状態から砲撃を行う。

 目の前に砲弾がある。俺は迷いなくそれに拳を振り下ろし、地に叩き落とした。地が凹み、クレーターができる。衝撃波が振動し、突風が吹く。


「おい……こんなもんか?」


 ギロリと睨みつける俺に、化け物はめちゃくちゃに装備を振り回しながら向かってきた。チェーンソーにソード、アックスとめちゃくちゃに振るが故に隙だらけとなる。

 俺は、飛び上がると刃物の間を縫い、その顔面に回し蹴りをあたえる。

 激しい金属音とともに、相手の顔側面が凹む。ふらつく化け物に間髪入れず、俺は踵落としをお見舞いした。

 地鳴りがして、化け物が地に叩きつけられる。今の一撃で三本のアームが機動不良を起こし、煙を吹く。

 俺が距離をとって様子を伺っていると、化け物は胸部の装甲を開く。すると、そこから何本もの銃口……。


「っ!」


 飛び退くと同時に無数の弾丸が発砲された。弾丸は、高速回転をはじめたガトリング式の銃口から絶え間なく射出される。

 飛び跳ね、くぐり、後退しながら弾丸をよける俺は、毒づく。


「いったい何個武装持ってんだ!!」


 大爪で数発を弾き大幅に間合いをとる。


《あぁーあれは、次々内部で武装を生成しているねぇー。ヒーロー君、必殺技で決めちゃいなよ》


 思い出したように話し始める間延びしたような、他人ごとのような口調の声に若干腹が立つ。


「必殺技だぁ?」


 と聞いてはみるも、どうせ変身の時みたく、いい感じにごまかされそうな気がする……。


《えっとねぇ、本当は君が好きに決めていいんだろうけどぉ……古典法はぁ、紋章に力をためて、技を放つ部位に力を移して、一気にドカーンだね》


 いやいや、好きに決めていいとか言いつつ、どう考えてもそれしか方法ないじゃん。

 内心で苦笑いしつつも、案外あっさり答えてくれた声に感謝する。


「いくぞっ!」


 俺は叫ぶと、左手甲の紋章に魔力を集め始めた。

 すると、紋章がまるで心臓のように脈打ち熱を帯びる。ものすごく高温なのだろうが熱くない。力がみなぎってくる。

 十分に力が溜まったと同時に俺はその力を右手の大爪へと移す。

 大爪が光を帯びて、強力な魔力を放ち始めた。

 俺は、あらん限りの全力で地を蹴り、遠方で自己修復を始めた化け物に迫る。

 力を帯びた大爪が白銀の軌跡を描き、俺の姿はさながら流星の如く宙を一直線に駆ける。

 俺はこちらの異変に気が付いた化け物の腹部に、力の溢れる大爪を突き出した。


「おぉおおらぁああああああああああああああああああああああ!!」

 

 たしかな感触と、何かが砕けたような音が響く。

 化け物を突き抜けた俺は、急ブレーキをかけるようにして着地すると、爪に残留する魔力を払う。


「じゃあな。メカ野郎」


 直後、盛大な爆発音と共に化け物が粉砕し爆散した。


「おい、リリ。見たか今の? 俺凄くね? かっこよくね?」


 若干の興奮と、敵撃破の喜びを滲ませる俺。

 その時。


『いえ! まだですっ! 後ろ!!』

 

 慌てるようなりりの声。慌てて振り返ろうとした俺は、何かに足を絡め取られ、持ち上げられた。

 視界が反転し、宙吊りにされているのがわかる。自らを吊り上げたものの正体を見た俺は「ははっ」とつい笑ってしまう。


「なるほど。今のは外装にすぎねぇってか?」


 そう言って目を細める俺に液体の姿に戻った化け物は、口であろう部分をニンマリとつりあげた。


夢暴思現体(メアー・テッド)は、コアである夢を破壊しない限り倒せません。倒す時はそこを狙わないと、たとえ一瞬倒したように見えても、何度でも復活します』

「今になって言うな!」

『ひぃぃ。ごめんなさい!』


 悲鳴を上げるリリを無視して、俺は相手を見る。

 よく見ると確かにあった。コアである。光る球体状の物体が、液状で構成された体の中心に見えている。

 俺はもがき拘束から逃れようとするが、バシャバシャと水を叩くだけでまるで効果がない。

 化け物は、目を細めると、俺を持ち上げ地に叩きつけた。


「ぐぉっ!」


 全く問題なく耐えられたが、それに終わらず、化け物は何度も何度も俺を地に叩きつける。


「のぉ!」

『ひぃぃぃ! 痛いいいい!』


 俺は攻撃ラッシュを破るべく、紋章に力を集める。圧縮された力を拘束された脚部に移動させ、そこで力を暴発させた。

 小さな爆発が起こり、拘束が解ける。振り上げられていた俺は、宙を舞い、一度体を反転させ着地した。


「流体ってのが面倒だな……」

 

 身構えた俺は、そう漏らす。

 すると、


《はいはーい。ここで朗報》


 なんともこの場に不釣り合いな声が脳内に響く。


「またあんたか……」

《まぁ、そう邪険にするなってぇ。いい話だぜ? 丑神のあんちゃんが力貸してくれるってさ》

『丑神様が!?』


 声の言葉にリリがひどく驚いた様子で反応した。


「誰?」

『十二支の「丑」にあたるお方で私よりもずっと高位の神様です!』


 まじかよ! また神様か! ……でもどうやって力貸すの? まさか天からの一撃的な? ヤベッ猫より絶対強えーじゃん。てか、猫いらんくね?


『ムキーッ! なんてこと言うんですかー!?』

「冗談だよ」

 

 聞こえてたか……残念。まぁいい。そんなことよりマジで力貸すってどういうことだろうか。

液状の化け物の水のムチを躱しつつ、俺が考えていると、突然左手甲の紋章が光り、別の形状に変化した。


「うおっ!? なんコレ!?」

 

 オレンジ色に輝く新たな紋章を見つめると不意にその全てが理解できた。

 先程の言葉「おのずとわかる」という意味がようやく繋がった。


「なるほどぉ……丑神さんの力か!」

 

 俺は言うなり、紋章に手をかざし、力をこめた。

 途端に紋章が強く輝き出す。

 すぐさま左手を振り天にかざし、叫んだ。


「真理に定めし、大地の力! 来い! タウロス!」

 

 詠唱を唱えるや否や、俺の頭上にオレンジ色の魔法陣が出現し、ゆっくりと降下を始める。

 魔法陣が全身を通過すると共に、俺の姿も変化した。

 オレンジ色の髪に額からは丑の如く猛る大角が二本。闘牛を思わせるパワー重視の装甲と装備、そしてやっぱり丑の尻尾。

 俺は笑った。


「さぁ! さっさと決めるぜ!」


 言うなり俺が手をかざす。

 すると、化け物の周囲の大地が次々に陥没する。


『なんですかこの力!?』

「重力操作だってさ!」


 そう言って手を上げると、宙に瓦礫が浮き上がる。俺はその瓦礫を払うような仕草で化け物に向かって武器の如く投擲する。

 バシャバシャと流体が爆ぜ、敵の形状が揺らぐ。俺は、間髪入れず次々に瓦礫を飛ばし、足りなくなれば飛ばしたものを回収し再び投擲を繰り返す。

 何度それを繰り返しただろうか。ついに相手が音を上げた。

 不意に声にならない上げた化け物は、全身を痙攣させ膨張する。


《今がチャンスだね》

「わかってる!」


 怒鳴るようにして答えた俺は、両手で空を包み込むような仕草をする。

 すると、膨張していた相手が急に動きを止め、今度はゆっくりと収縮を始めた。

 俺が手をかざすとコアを中心に化け物が圧縮されていく。コアに重心を置き強度の重力を内側に向けてかけることで、敵は一点に集まる。


「決めるぜ!」


 俺は丑神の紋章に力を集めると、自らの大角に力を移す。

 膝を踏ん張る俺は叫ぶ。


猛頭砕牛剣(もうずさいぎゅうけん)!!」


 強力な魔力を帯びる角を突き出し、ロケットの如く飛び出した俺は、真っ直ぐに化け物に突っ込むとそのコアをぶち抜いた。

 絶叫のようなおぞましい音が鳴り響き、砕かれたコアが散り散りになる。

 俺は宙で回転し、着地。

 次の瞬間、虹色の光が壊れたコアの中心に放射され、そこから一本の強い光が天に上り消えていった。


「……今のは?」

『元の世界に帰ったんです。……お疲れ様でした。大勝利です』

「お……おう」


 マジで? これで終わった? 若干のみ込めないことだらけで今さら混乱する俺は、とりあえず深く息を吐いた。


「いやぁー、お疲れだったね。輝羅くん、リリくん」

 

 またお前か……と思いかけた俺は、違和感に気付く。先程まで脳へと響いていた声が耳に聞こえているのだ。

 慌てて振り返ると、崩れた堤防のすぐそばに一人の男が立っている。スラリとしたスレンダーな体躯に甘いフェイス、鋭い瞳は真っ直ぐにこちらを見ていた。


「あんたは?」

 

 変身を解除した俺は、恐る恐る男に話しかける。

 すると男はニコリと笑いサラリとその素性を明かした。


「どうも初めまして。十二支を選んだことで有名な「神様」でぇーすっ☆」


 きゅぴんとウィンクしてみせる男の言葉に、俺とリリはしばし沈黙。

 そして、


「ええええええええええええええええええええええ!!?」

『ええええええええええええええええええええええ!!?』


 二人の絶叫が正午の青空に響いた。





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