エピローグ「二人で一人の俺、彼女」
後書きにも書いておりますが、一応完結はさせますが続編の構想は出来上がってます。リクエストいただければいつでも書きます。(きっと)
「うおらあああああああ!!」
土曜の昼下がり。
ビルの屋上にて――俺の突きだした拳がコウモリ型の夢暴思現体のコアを砕く。天に消えていく夢暴思現体の光を確認し、俺はふぅと息をついた。
アルテューンの決戦から一週間。アルテューンがいなくなったことで新しくこの世界に来る個体はいなくなったが、これまでにすでにこちらに来ていた夢暴思現体が次々と表に姿を現すようになっていた。
神曰く、仲間がこれ以上増えないことに気づいたから色々と本能的に焦っているらしい。まぁ、どうにせよあちらに送り返してやるだけの話なのだが……。
結局あの後、俺は三日ほど眠りっぱなしだったらしく、後処理はリリに任せっきりとなってしまった。
リリのお兄さんは神の力を取り戻し、回復したようですぐにあちらの世界へと帰っていったらしい。俺にすごくお礼を言っていたらしく、なんだか照れくさい。あと、伝言の最後に「リリを頼む」と、どうも引っかかるセリフがあったのだが、気にしない。絶対に気にしない。
向こうの世界に帰ったアルテューンは、おとなしく拘束され、当分は自由になれないそうだ。伝言で「ありがとう」と言っていたところを見るに何か思うところがあったのかもしれない。
獣装を解いた俺はビルの上でうーんと背伸びをする。とりあえず色々とあったが、一段落してよかったと思う。
そう考え天を仰いだ時、ポケットのスマホが震えた。
☓☓☓
「いや、なんだ。……その、急に悪かったな」
凛とした声でそう言った相模は朗らかに笑う。
「別に大丈夫ですよ~。暇でしたし」
そう言って俺も軽く笑う。まあとは言ってもさっきまで戦っていたんだがな……。
ここは俺達の住む街にある大型ショッピングモール。映画館や喫茶店も入っていて専ら
この街の学生がよく集るところでもある。
俺は相模女史に誘われ、映画を見に来たわけだが、なんかこういうの緊張しますねハイ。いや、なんていうか。先輩とデートしてるみたいじゃないですか~。
あまりこの手のことに耐性のない俺はどこかドキドキしてしまう。
『むぅ~。私のときと明らかに態度が違う……』
リリが何か言っているがMU☆SHI!
そうしている間にも、相模女史はポシェットから二枚のチケットを取り出す。
「そっ……それにしても運が良かった。偶然にも知人からチケットを貰えるなんてな。……しかし来てくれて助かったよ。一人で行っては一枚無駄にしてしまうところだったからな」
なにやら緊張した様子の相模は早口でそう言い、俺にチケットを手渡すとそっぽを向く。耳が真っ赤になっているのは気のせいだろうか?風邪気味だったりするのか?
俺ははてと首を傾げつつチケット視線をおとす。どうやら映画はハリウッドのミステリーもののようだ。まあ相模女史の性格的に恋愛物よりこっちのほうが似合っている気がしてかえって納得してしまう。
「じゃあ行きましょう」
そう行って俺が促すと、相模女史は「……うん」と小さく応え、俺の服の裾を僅かにつまんだ。
映画を見終えた俺と相模女史は、隣の喫茶店でコーヒーを啜っていた。
映画自体はいい話で見ていてワクワクしたのだが、ことあるごとにリリが脳内で派手なリアクションをとり、相模も終始俺の袖をつまんでいた。時たま驚いたりすると「きゅぅ」と声を上げ、俺の手を握るものだからドギマギして全然集中できなかった。もうザックリとした内容しか覚えてねえよ。
俺はふっと笑みをこぼすと正面でポーッとした様子の相模女史を見た。すると俺に見つめられたのに気づいたのか、ハッとした相模女子は咳払いをする。
「いっ、いや今日はその……わざわざありがとう。おかげで楽しかった」
「いえいえ、いいんですよ。僕も楽しかったですから」
なんだか硬い調子の相模に俺は手を振って応えた。なんだかこっちまで緊張してくる。もっと軽い感じで接してほしいんだが……。
そう思ってた時だった。
ゾワッとした感覚が全身を駆け巡る。夢暴思現体だ。
慌てて席を立とうとしたが、相模になんと説明しようか迷ってしまう。まあ、正直に話しても前の件があるし理解してもらえるだろうが、なんだか今抜けたら悪い気がする。
と、不意にさがみが俺の手の上に自分の手の平を重ねた。
「行ってきな、大和くん」
「わかるんですか?」
意外な一言にそう返すと、相模はかぶりをふった。
「わからないよ。でもな、君の異変はわかった。……アイツらなんだろ? メアー・デットだっけ?」
真っ直ぐな瞳で見つめられた俺は正直に頷いた。そんな俺に相模はすこしさびしそうな顔で微笑むと手を離す。
「君は私を救ってくれたヒーローだ。……でも、それ以前に君はみんなのヒーローなんだ。だから救ってきな、大和くん。私を助けたようにまた誰かを救ってきてくれ」
その言葉にしばしの間、無言だった俺は、真っ直ぐに彼女を見つめ笑顔で答えた。
「……はい。行ってきます!」
相模の言葉でふんぎりのついた俺は机にお金を置いて駈け出した。
☓☓☓
ショッピングモールを出た俺は、日の沈む街の上空にドラゴン型の夢暴思現体が飛翔しているのを確認する。
『むむむ……。なんだかメインヒロインの座が危うくなっている気が……』
緊急事態にもかかわらずリリは呑気なことを言っている。相変わらず阿呆だコイツ。
「あのなぁリリ、ヒロインとかどうでもいいんだよ。俺たちは二人で一人の相棒同士だろ?それ以上に何がいるってんだ」
するとリリはぐぬぬぬと唸るが、やがて「はぁ」とため息をつき、諦めた様子でフフッと笑いを漏らした。
「どうしたよ、気持ちワリィな」
『いいえ、なんでもないですよっ。……そうですね相棒ですかっ。それも悪くないです』
どこかふっきれた様子のリリに俺はやれやれと首をかく。が、すぐさま表情を引き締めると天を舞う龍を見た。
「んじゃ、さっさと決めるかっ!リリ!」
『はい!さっさと終わらせましょう!輝羅さんっ』
リリの返事に合わせて拳を構えた俺は目を閉じる。
全く、色々と変化がありすぎた。己も環境も仲間も。……でも後悔はないし、むしろこれが俺らしく生きられる道とすら思える。そして何よりも救うことでその先の光を見ることができる。
俺たちは二人で一人の救世主。これまで救ってきたように、これからも多くのものを救っていく。それは人のためであり、自らのためでもある。
これからの道で、時には立ち止まることもあるだろう。
でも二人だから大丈夫。俺にはリリがいてリリには俺がいる。だから俺達は負けはしない。
目を開けた俺は輝く紋章を掲げ、天高く吼えた。
「獣装!!」
輝く光に包まれて、俺達は戦う。この先もずっと。この命尽きるまで、その先にある光に手を伸ばし続けていくんだ。
END.
とりあえず、完結させます。
一応、続編の構想はあります。コメントなどでリクエストいただくかポイントが増えたら続き書いていきたいと思います。
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