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二人で一人の俺、彼女!  作者: そこなべ のぼり
三章「影は舞い、光散る」
11/14


 少年が倒れその変身が解除されたのを確認すると、男はそっと炎剣をもちなおし、少年のそばまで歩いて行く。


 「相手が悪かったな……」


 そう呟き、少年を改めて見下す男は、その華奢な体躯に目を細めた。


 「……こんな子供が……。まぁ、人思いに一瞬で終わらせよう」


 そして、男は、炎剣を逆手ににぎると、気絶した少年の胸元めがけてふりおろした。

 しかし、突然少年が目をさましその剣を受けとめる。


 「何!?」


 動揺した男は、少年を見る。が、よく見ると少年の姿は、いつの間にかポニーテールの美少女へとかわっていた。


 「輝羅さんは……殺させないっ!!」


 そう言って苦しげに歯をくいしばる少女。素手で受け止めているせいで、投信をつかむ手からは血があふれていた。

 少女の必死な様子に男は、不意に何か不思議な感情におそわれる。……これは、……なつかしさ?

 わけのわからない心境に男は、剣にこめる力をぬく。すぐさま剣をひっこめ後ずさる。


 すると、


――――――去れ。今すぐに――――――


 不意に男の内に自らと同じ声が響いた。

 男はゾッとして自らの体を見る。しかし、何かかわったような様子は無い。

 自分の正面では、へたりこんだ少女が強い視線でまっすぐにこちらを睨みつけているだけで、これといった異変は無い。


 どうなっている……。


 男は、とり乱すように額に手をあてると、フラフラと後ずさりし、しりもちをつく。


 その時、再び声がした。


――――――俺から出て行け。リリをきずつけることは許さん――――――


 「なっ……なんだ、どうなってやがる……」


 男は、声から逃れようと強く頭をふると、炎剣を自らの左ももにつき立て落ちつきをとりもどす。

 そのまま男は、ゆっくりと立ち上がるとその空間にとけるようにして消えていく。

 そして、自らを睨みつづける少女にこう言った。


 「俺は、アルテューン。……ガキに伝えろ。次は殺す」


 言いおわるなり視界がかすむ。歪になる世界の中で、フラリと少女がその場に倒れたのがわかる。

 亜空間に入ったアルテューンは、つまった息をはき出すと、脱力しその場にあお向けになった。


 「……あの女に、この声……どうなったやがる。……俺は、……誰なんだ」


 痛みでもこらえるような苦しげな声でそう呟いた男は、疲労した肉体をいやすべく、ゆっくりと目をとじる。

 


 「……とにかく、あのガキは殺す」



 そう決意する言葉にも力は無く、アルテューンはただ不機嫌そうに眉間にしわをよせるのだった。



     ☓☓☓



 ……マジか。驚いたね。俺、生きてるよ!


 目をあけた俺は、とりあえず生きてることにただただ驚いた。


 『ようやくお目覚めですか……。本当、心配したどころの話じゃなかたんですよ?』


 自室で起き上がった俺は、リリの言葉にため息をつく。


 「……負けたのか、……俺は」


 しぼり出すような声にしばしの沈黙があった。

 あまりにも完膚無きまでの敗負に頭の中が真っ白になり、何も感じない。もはや悔しさ云々を感じることすらできないほどに、俺は絶望していた。夢暴思現体(メアー・デッド)に唯一対向できる自分が負けたのだ。誰が奴と戦えばいい。このままやつをのばなしにすれば、俺がはじめて戦った時のように罪無き命が、人知れず消える。そしていつかそれは、世界全土に広がり、何億という人々がその脅威にさらされてしまう。どうすれば、奴に勝てる? どうしたら力をえられる? 今ある力でやつをたおせるか? そもそも俺はもっと強くなれるのか? 俺は――――――



 『デートしましょう! 輝羅さんっ!』



 自問自答のスパイラルにはまりかけていた俺に、不意にリリはそう切り出した。


 「デっ……デート? お前と?」


 何の脈略も無い不意をつく発言に俺は取り乱してしまう。

 しかし、リリはそれを気にする様子も無く、むしろ楽しそうに言った。


 『はいっ! デートです。私と輝羅さん。二人っきりでっ』

 「い……いやまて。今はそんなことしてる場合じゃ――――――」

 『今だからこそ。行くんですよっ!』


 言うなり、入れかわったリリは、クローゼットを開き出かける支度をはじめた。


 「ほらほらっ、目閉じてて下さいっ。着替えしますから」


 そう言って姿見の前でウインクしてみせるリリに、俺はでかかった言葉をのむ。あまりに無邪気な表情の裏にわずかな影が見え隠れするのは、気のせいだろうか。もし、だとしたら、リリにもそれなりの考えがあっての行動なのだろう。とりあえず、したがってみるのも悪くない。一応コイツも神だし……な。

 そう割りきった俺は、それ以上は何もいわず、そして、少し残念そうに目を閉じた(血涙)



 三十分後


 一通り支度を終えた俺達は、久しくマンションのエレベーターを使い一階に降りた。生本的に外出のほぼ八割は獣装して窓から飛び出すため、こうしてまともに出るのは滅ったにない。なんなら、登校も窓からという何とも横着な生活をおくってるまである。

 それにしても改めて思うが、立派なマンションである。いったい家賃いくらなんだろうか……。まぁ地価的にそこまで高くはないだろうが、新しさとか環境的に便利な所にあるのでそこそこはしそうである。俺らの住む階は、三十階中二十七階なわけだが、こうやって見上げると、相当な高さがある。あれ飛んで降りてるとか、さすが神の体……普通なら、一瞬で肉魂と化すわ。


 『で、どこに行くんだ?』


 すると、リリは入り口の自動ドアごしにウインクすると肩をすくめ悪戯っぽく笑う。


 「そりゃもちろん。デートですよ? 行くとこなんて決まってるじゃないですか」


 一瞬のかわいらしい素ぶりとあざとい声にドキリとするも、俺は少し不安になる。


 『おい、まて。マジでどこ行くんだ? ラブホとか言ったらぶっ殺すぞ?』


 奴なら言いかねんと思いストレートに言うと、リリの眉がわずかに動いた。


 「まっ……まさかぁ。デートですよ? デート。遊びに行くんですから。そんなとこ行きませんよぉ」


 そう言って、リリはそっぽを向く。かすかにチッと舌打ちが聞こえたのは気のせいだろうか。いや、たしかに聞こえた。


 『おまえな――――――』

 「いやいや、それにですよ? もし、エッチぃことするんでしたら、夢の中ですしぃ? 私達、二人で一人ですから、デートの幅も限りがあるじゃないですか。そんなデートでいきなりラブホとか不純なリア充の代表みたいなことしませんよぉ~」


 そうだな。二人で一人だからお前が冷や汗かいてるのが、すごくよくわかる。この変態め……つか、女子の汗って響きなんかエロいな。……あれ? 俺も変態か?


 「まっまぁ何にせよ、行きますよ? 大丈夫。まかせて下さい。けっして変なとこには連れていきませんからっ」


 不安しかねぇな、こいつ。ビミョーにキョドってるとことか、特に。

 とか、思いつつも、俺はとりあえずりりの任せてみることにした。まぁ、たぶんコイツもいろいろ考えているはずだからな……たぶん。



 それから俺達は結局、獣装とか獣装とか使い、千葉県に来た。獣装をといたのは、舞浜駅とか、よく知らない駅だったが、この時点でもうリリが考えていることはわかったが、あえて黙っておく。つか、獣装すっごーい。

 そして、出発から約一時間半。俺達は、千葉にあるのに東京とかつく、「夢のお国」に来た。


 『あのよ。今さら思うんだが、はたから見りゃオレたち一人ぼっちなわけじゃん?』


 不意にそうもらす俺にリリは首をかしげる。


 「そうですが、どうかしました?」

 『いや……な、俺いなか者だからよくわかんねーんだけどよ、こういう所って、一人で来るところじゃなくね? なんか一人だと恥ずかしくね?』


 するとリリは、フッと小バカにしたような笑いをうかべると、チッチッ、わかってないね~輝羅く~んっといって指をふる。……なんだろ、すごく獣装したい。


 「あのですねぇ、よく見て下さい。かならずしも、この「夢のお国」がキャッキャウフフな人々の楽園というわけではありません。親子づれもいれば一人客だっています。中には年間パスもって、シーズンごとに切り替わるグッズだけ買いに来るガチ勢だっているんですよ? で・す・か・ら、なんの問題もありません。田舎ボーイは、余計な心配しなくていいんですよっ!」


 そう一括したリリは、人ごみの中をするすると進み入場ゲート前の列に並ぶ。


 しかし、まぁ、すんごい人の量。田舎育ちの俺からすれば、吐きそうになるくらいの量だ。でもまぁ、なんつうの? こういうのもわるくない。さすが日本一レベルの遊園地だけあって入場する前から空気だけでワクワクさせて来る。曲とか、ゲートの装飾とか、その向こう側に見えるおもしろい形の屋根とか。あと、……リリと一緒にいるってのも悪くない。


 その後は、ひたすらリリの気の向くままに様々なアトラクションに乗り、シアターをまわり、俺達は楽しいひと時をすごした。


 あんまり遊園地たる所への耐性が無いためか、ジェットコースターの素晴らしさに気づかざれた半面、大量の人々にあてられて若干はき気がする。うう……人間こわい。


 俺達は、日が暮れてきてからは、「夢のお国」リゾートのおとなりの水っぽい「海のお国」へと足をはこんだ。なんかものすごい勢いで垂直降下したり上がったりするアトラクションがめちゃくちゃこわかった。でもリリは、キャッキャッと子どものようにはしゃいでいたのでめちゃくちゃかわいかった。つか、何。あのアトラクション設定こわすぎでしょ? こわくて寝れないわ。めっちゃおもしろかったけど……。もう一回乗りてぇ。


 そうこうしてる間にも日は完全にしずみ、園内に夜間用のきらびやかなイルミネーションが点灯しはじめる。花火をふくめた水上ショーをゆったりと眺めつつ、俺達はだんだんと人の減って来た園内を話しながら歩く。


「いやぁー。楽しかったですねぇ~」


 そう言ってリリはスキップ気味な歩調で色つきのタイルの上をケンケンとはねた。

 何気ないその一言に俺は、チクリと胸の内が痛むのを感じる。


『あぁ……まぁ、そうだな』


 ぎこちない返事をして黙りこんでしまう自分が情けない。しかし、リリは、気にする様子は無く、花火を見上げている。

 今日一日、たくさん遊んだ。久しぶりに楽しいって思えたし、いろんな気分をはらすこともできた。リリもかわいかったし、デートということもあってテンションも上がった。でも、だからこそ忘れてはいけないことがある。

 俺は、はき気にも似たようなどこか詰まったような思いをはき出すべく、リリに話しかけた。


『……リリ』


 そうだ。俺は切り出さなくてはいけないんだ。今日リリは俺をリラックスさせてくれた。つめっぱなしの俺に息抜きをくれた。ならば、せめてこれからどうすれば良いのかくらい自分で決めなくてはいけない。だからこそ、まずは自分できりだそう。

 俺は、そう自らにいいきかせると、口をひらく。


 その時だった。


「……っく……っく」


 不意にどこからか、子供の泣きじゃくるような嗚咽が聞こえる。

 見ると、アトラクション乗り場からすこしはなれた支柱のすみに幼稚園生ぐらいだろう男の子がいた。その子は、支柱にすがるようにしてベソをかいている。親と逸れたのだろうか。


「迷子……ですか」


 リリがふと、そう呟いた時、俺は無意識にも男の子へとかけよっていた。体もいつの間にか入れかわり、服装もいつものラフなものにかわっている。

一切の迷いなく飛び出した俺は、少年の前にしゃがみ込むと声をかけた。


「君、大丈夫?」



 三十分後、両親に連れられて、笑顔で去っていく少年に手を振り俺はフッと息をはいた。

 放送を流してくれたスタッフにお礼を言って、俺は入場口付近のベンチに腰かける。

 ナイトショーは終わったようで、人々はゆったりと帰路についている。誰もが笑顔で、皆幸せそうだった。


『やっぱり、ヒーローですねぇ……輝羅さんは』


 自然に呟かれた一言に俺は、苦笑する。この言葉をどう取っていいのか正直わからなかった。素直にとればいいのか、それとも裏に何かふくまれたものがあるのか。

 しかし、答えは前者だったようだ。

 リリは、コロコロと笑うと続けた。


『困っている人いると、勝手に体動くんですよね。輝羅さんって。……そういうのすごく大事だと思います。そういう直すぐな善意が大事なんですよきっと』


 そう言ったリリに俺は歯がみし、しぶい顔をする。

 たしかにリリの言う通りだ。俺の善意が人々を救っているのはわかる。でもそれだけじゃダメなんだ。奴、アルテューンを倒すには、それだけじゃ足りないんだ。善意以上に強い何ものをもうち破るだけの「力」が必要なんだ。力がいる。じゃないとまた誰かが――――――


『別に勝たなきゃーとか、自分がやらなきゃーって、考えなくていいんじゃないですか?』

「え?」


 ついもれた疑問の声に、リリはあくまで平然とした様子でこたえた。


『たしかに勝たないといけないし、輝羅さんがやらないといけません。でも、それを背負いこみすぎて、つぶれちゃうのはもっとダメです。つぶれるくらいなら、考えないことです。そして、余裕のある時、考える。それ以外は何も考えず、ぶちあたっていけばいいんですよ』


 リリはそういって、ほほえんだ。けっして見えたわけでは無い。でも、笑ったのだろうと伝わる温かさが感じられる。

 俺は、そのぬくもりの中で、考える。全くだ。自分はいちいち考えすぎだし、重く考えすぎていたのだろう。でも、残念ながら、そうすぐに切りかえられるわけだは無い。それに、「人を助ける」ために戦っていた俺が何も考えずに戦うことができるのだろうか……。それに何も考えず戦ったところで奴に勝てる気はしない。やはり「力」が必要なんだ。でもどうすれば力は手に入るのだろう。


『力なんて、ありませんよ。あるのは自分の心。「思い」だけです。……助けたいって思ったり、勝手に体が動くこと。それが「思い」であって「力」なんです。……輝羅さん。あなたは、何のために戦っているんですか?「人を助ける」それは、すごく大事なことなのですけど、すごく曖昧な言葉です。今のあなたには、そこに込められた「思い」が足りないんですよ』

「思い……」


 リリの言葉に俺は、うつむく。言われてみれば、たしかに曖昧だった。人を助けることはしても、それが何を救っているのか、何が得られているのか、考えたことがなかった。


『さっきの男の子助けた時どうでした? 相撲さんが立ちなおった時、どう思いましたか? そして、あの日、私を助けてくれた時、どう思いました?』


 その言葉に俺は、ハッとした。


 そうだ、簡単な話だったんだ。あの時も、これまでも、そして今も、全て――――――


「その笑顔が……嬉しかったんだ」


 いつも何を救う後には、笑顔があった。それが自分に向けられない笑顔だったとしても、それは俺にとっては眩しくて、とても輝いて見えた。俺は気づかない内に、それを求めて人を助けていたのかもしれない。いや、むしろ助けることで救われていたのは、自分なのかもしれない。

 そう気づいた時、俺は自らの内にわきおこる何しれぬ熱を感じた。


「……なるほどな。……ずっと近くにあったんだな」


 俺は自嘲ぎみな笑みをこぼすと、ゆっくりとたち上がった。

 いつしか、人の減った園内。俺は瞳にたまった雫をはらい、歩き出す。


「ありがとう、リリ」


 その言葉にリリは、そっとささやくようにこたえた。


『私は、輝羅さんを信じています。あの日みたいな「ミラクル」な力、期待してます』


 さきほどとはうってかわりいたずらっぽく言うリリに俺は、フッと笑う。

 そして、強く頷いた。



「あぁ、まかしとけ」


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