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二人で一人の俺、彼女!  作者: そこなべ のぼり
三章「影は舞い、光散る」
10/14


 あれから一ヶ月。俺は、怒涛の勢いで夢暴思現体(メアー・デッド)を次々と倒していった。数多の戦いを経験し、さまざまな戦い方をおぼえた。しかし、どうしても処理しきれない奴がいた。


 それは――――――――――――――――――――――――――――――。


「ほら見て下さい輝羅さんっ! これ向こうの世界のドレスなんですよ? かわいいでしょ?」


 リリである。


 リリは、まるでどこぞのファンタジーアニメでエルフさんが着ていそうなフワリとした白いドレスを着て、くるりと回ってみせる。

 阿修羅の一件の後から、これまで以上にリリのアプローチが酷くなってきている気がするのは気のせいだろうか? それに女の姿でいる時間が日に日に増えている気もする。

 俺は、調子に乗ると厄介そうなので適当に『はいはい。かわいいかわいい』と返して昼寝を始める。たしかにリリはめちゃくちゃかわいい。かわいいんだが、露骨なまでのアプローチがウザい。それも時々ならいいのだが、隙あらばアプローチしてくる。なんかもう最近は、ウザい通り越してダるいわ。

 すると、リリは若干不満気な顔で頬を膨らませると、「むぅ」と声を漏らす。あぁうん。こういうのはかわいいよ? なんていうか自然にこうやるところとかな。

 とか、考えているとリリが僅かに「へへっ」と呟き、頬を緩める。……聞かれてたか。本当に不便だな二人で一人ってのはよ。というか、俺のは聞こえて、アイツの聞こえないってなんかズルくない? ねぇ、ずるいよねぇ。俺めっちゃアイツの聞いてみたい。

 とまぁ、そんな感じで土曜日の昼間をゆったりすごす俺は、ようやくウトウトとし始める。最近、ぶっ続けで戦っていたから疲れが溜まっているのだろう。こういう日ぐらいゆっくり休まなくては体がもたな――――――――――


「もちますよ、一応。この体、神の体ですし」


 ……マジか。


「……ですが、限界はあります。人間の時間にすると、百年は飲食や睡眠を取らなくても全く問題ありません。実際それ以上取らなくても問題ないのですが、精神的な欲求が限界になります」


 こいつ、いつも思うのだが、とんでもなくぶっ飛んでることを淡々と、さも当たり前のように言うのやめてほしい。なんか人としての感覚狂うわ。……あれ? もう俺って、人じゃないんだっけ?


『でもよリリ。そんならわざわざ毎日食事を取らなくてもよかね? 食費も浮くだろ?』


 すると、リリは分かってないなぁといった様子で首をふる。……死ねばいいのに。


「いえいえ。とらないと輝羅さんの精神が狂います。一応神の体になったとは言え、まだ人の時の感覚が精神からは離れていませんのでじっくり慣らさないといけません。……つまり、人の体なら、無理なことがこの体で急に可能になると、これまでとのギャップに精神が追いつかないんですよ……というか、死ねばいいのにとか、ひどくないですか⁉」


 ムキーと地団駄を踏むリリの姿を、かわいいなぁとか思いつつ、俺はなるほどと納得する。まぁ確かに気分的には疲れた気がするものの、肉体的な疲労感を感じることが無い。

 リリの言うところの「慣らす」ことを続けるとゆくゆくはこの「疲れた気分」すらも感じなくなるのだろう。……なんだかだんだん人じゃなくなるって怖いな。何、アレか? よくアニメである「この力を次使えば、あなたはもう人ではいられなくなりますっ」みたいなやつ? ごめん、俺一度死んだも同然だから、今さら関係ないわ。なんなら、アイコンなんか探さないまである。


「そういえばですね~。神といっても私は、中級神ですのでぇ――――――」

『うるせぇよっ。いつまでもしゃべり続けやがって! つい乗せられてたけど、俺は休みたいんだっ! 寝させろよっ』


 まだ、しゃべり続けようとするリリを制し、俺は早口でまくしたてる。すると、リリは「ぐぬぬ……」と声を漏らすが、不意にニヤリと笑うと自室に駆けこみフカフカのベッドにダイブする。


『……どっ……どうしたんだ急に』

「いやぁ、どうせでしたら、一緒に寝ようと思って☆ こんな美少女と一緒にお昼寝だなんてっ! もうっ幸せものっ♡」

『……死ねばいいのに』


 脳内で某ボカロの曲が流れ出す中、俺は「なんでーっ⁉」と声を上げるリリを無視して昼寝を続けることにした。



 何分たっただろうか。



 気がつけば俺は、どこぞのホテルらしき一室のベッドの上に横になっていた。……ほぅ、めずらしく夢を見ているのか。


 『で……何でお前がいる』


 そう言って俺が首をまわすと、すぐとなりにリリがいた。


 「いやぁ、すごいですねぇ。夢のなかなら、二人で一人が二人で二人になるわけですっ。これで私のすべてを好きほうだいですよっ!」


 そう言って体をくねらせて迫ってくるリリを俺は赤面した顔でおしかえす。


 『やめろ。このラノベはエロ展開に発展させる予定はないんだからっ』

 「何を今さら作者よがりな発言してるんですかっ! ホレホレ、ここがっ!ここがいいんじゃろ?」


 そう言ってリリは、何やら息を荒くして俺の体にふれ、横わきをくすぐってくる。


 『やっやめっ……ひっひひっ……ふふっ……くすぐったっ……やっめっ……はははははははっ! たったすけっ……て!』


 身をよじってんなんとか、リリの手からのがれようとするも、リリは逃がさんとばかりにその手に力をこめる。はたから見ればベッドの上でじゃれあうリア充そのものだが、……マジでくるしい。助けて。


 「ふふふ、どうですか? ベッドの上で美女とじゃれ合う。他人がきいたら、絶対うらやましがりますよ!? これぞ、まさに「夢の国」って奴ですね!」

『うまいことを言ったつもりになってんじゃねーっ!』


 俺は叫ぶと、わずかにひるんだリリの手をおしのけてそのままりりを後ろに押し倒した。


 「きゃっ」


 リリがかよわい声を出し、俺はついやっちまったと手の力をゆるめた。が、時すでに遅し。

 俺は、どこの薄い本よろしく、リリをベッドの上におしたおし、その上に馬乗りになってしまっていた。


 『いやっ……こっこれは、その……すまんっわりぃ、ごめん!』


 急に心臓がバクバクとはげしく脈うち、体中があつくなるのを感じる。やばい! これは年頃の童貞には刺激が強い! 強すぎる!!

 リリはというと、ポーッとした表情でほほを朱にそめて、うっとりと俺の目をみつめていた。


 「輝羅……さんっ……」


 いつにもましてあまえたような声を出すリリに、俺は吹き飛びそうな理性を必死に抑え込もうとする。しかし、リリは、俺の手をそっとにぎると、自分のほほによせて、しあわせそうにほほずりをはじめる。俺の理性メーターがひめいを上げた。


『マッ! マジまて! これはヤバいって!』


 たまらず声を上げた時だった。



 !



 不意な違和感に俺とリリの体がピタリと止まる。


 ――――――夢暴思現体(メアー・デッド)――――――


 そう思うや否や、周囲が切り払われる様にひらけ、光につつまれた。



   ☓☓☓



 「うおおおおっらああああ!!」


 俺は怒声を上げ、大蛇型の夢暴思現体メアー・デッドを地に叩きつけた。

 途端に衝撃波が広がり、地に小さなクレーターができる。大蛇は、「グェエエ」と苦しげにもらすと、地にバウンドしはね上げられる。俺はすかさず紋章に力を込める。


 「大牙猫撃閃(たいがびょうげきせん)!」


 ふりおろした大爪がはね上がった大蛇をとらえコアをくだく。大蛇の体を一本のまばゆい閃光が貫き、その巨体が爆散する。

 天にのぼっていく虹色の光を背に着地した俺は、フゥと息を吐いた。


 『今日は、いつにもまして気合入ってましたね? リリちゃんのサービスが効きましたか? ねぇ、またやりましょうか? いえ、またやりましょう! ねぇ輝羅さんっ』


 茶化すリリに「ぬかせ、アホ」とだけかえし、俺はあくびをもらす。なんか最近慣れてきたせいか、一体にかける時間が短くなってきた。これは、たぶんいいことなんだよな? なんか、うまくいきすぎて逆に不安だが。

 先程、すぐに飛びおきた俺は、『あとすこしだったのに……』とぐちるリリを無視して、家を飛び出し、山間部近い開けた草原近くで徘徊していた大蛇を発見した。

 十メートルはあっただろう規格外なサイズの大蛇に速攻をしかけた俺。そして、今にいたる。正直思ったよりイージーバトルだった。

 大蛇の爆散によって周囲にふりそそぐ光粒子をぼんやりとながめ、二度目のあくびを漏らす。


 その時だった。


 「ちょっと、邪魔だなぁ……あんた」


 突如響いた第三の声に俺は身をこわばらせ、周囲を見回した。

 しかし、声の主は見あたらない。


 「……誰だ。……どこにいる? 俺が見えるのか?」


 俺が問うと、虚空から声が返って来る。


 「そりゃぁ見えるよ。だって俺、夢暴思現体(メアー・デッド)だし」

 「夢暴思現体(メアー・デッド)だぁ?」


 意外な回答に問いかえすと、相手はクスクスとおもしろがるかのよう笑う。おそらく一人なのだろうが、声が周囲に反響し、かさなって複数人の笑い声に聞こえる。不気味な笑い声が続く中、俺は相手の気配を探るが、全くつかめない。

 だが、妙な話である。奴が本当に夢暴思現付(メアー・デッド)であった場合、こうして会話できないはずである。この間のリリの話では、奴らはあくまで「夢」であって意志や思考は無いという。……ならば、変異種か?


 「俺はねぇ、奇跡なんだよ。この世界に自力であふれた「夢」なんだから」

 「自力であふれる? 他の奴らは、誰かの力に手助けされてんのか?」


 するどい質問に相手がしばし黙る。が、すぐにクスクスと笑い出す。


 「そうだよ。手助けしてるのは、俺。……聞かれる前にこたえるけど、理由は簡単、目的は一つ。この世界を太古のようにあるべき姿にもどしたいからさっ」


 次の瞬間、突然俺の頭上から火球が襲いかかってきた。あわてて飛びのくと、火球が着地し、炸裂。猛烈な爆風に俺は顔をしかめる。

 太古のように……とは、どういう意味だろう。すぐにでも聞き返したいが、おそらくもうまともに返してはくれないだろう。

 次々と四方から襲い来る火球をよけ、俺は敵を位置を探る。


 「どうするリリ」

 『……とりあえず、この方が元凶なら、今ここでたたきましょう!』

 「だよなっ!」


 リリの若干の溜めが気になったが、今は奴に集中しよう。

 俺は、神経をとぎすませ、スゥーと息をはく。正直、こんなことをしても、マンガみたく相手を感じることはできない。でも、一点をねらうための集中を高めることはできる。


 「もう、あてはついてんだよっ!」


 俺は、怒声をあげると、炎球が発射された瞬間にその少し離れた空間を渾身の力で頭ついた。


 「うおっ!」


 たしかな感触と、相手の声。着地した俺が顔を見上げると、少し先で土煙が上がる。何かが落下したのだ。


 「へぇ、うちだした瞬間につっこんでくるとは思わなかったよ……」


 そう言って、またクスクスと笑い出す相手。土煙にシルエットがうかび、奴はゆっくりと姿を現した。

 背たけは、二メートルほど、あさ黒い肌に神話に出てくる海神のようなかっこうをしている。左手には三ツ又の槍、右手には炎を帯びる蛮刀をもっている。あまたの装飾は、どこか和風じみていて、赤を貴重としたものが多く、一部青があるといった感じだ。顔は人間そのもので、青年のように見えるが、どこか少年のようなあどけなさを感じる。

 相手は、やれやれといった様子で、蛮刀の切っ先をこちらに向けると、低い声で言った。


 「殺らないか?」

 「字が違う!」


 反射的にそう叫び、俺と奴はほぼ同時に飛び出した。

 火炎の剣と俺の大爪がぶつかりあう。衝撃波が周囲を襲い、大地が隆起した。はね上がった土をよけ、距離をとった俺は、飛来してくる火球を左右にぶれることでかわし、すべるように間合いをつめる。

 相手の口もとがわずかにゆがみ、すぐさま三ツ又の槍がつき出された。それを軸をずらし体をひねることでかわすと、大爪をアッパーカットでふり上げるが、それは相手の剣ではじかれ、俺はわずかにのけぞった。


 「まだぁっ!」


 俺はそった勢いを利用して炎の剣をつり上げる。

 激しい閃光と金属音が響き、敵の剣がその手からはなれ、大地につきささった。

 蹴り上げた勢いで回転した俺は、着地と同時に飛びのく。


 その時、


 「わざわざ間合いをとるのが、経験不足の証だ」


 と、突然相手が一瞬にして距離をつめ、三ツ又の槍で俺を突いた。


 「んなっ!」


 声を上げひるむ俺に、奴は次々に突きをいれる。突きを叩き込まれるたびに水しぶきがとび青いエフェクトが俺に追加ダメージを与えていく。

 たえきれず弾き飛んだ俺に、奴は間発入れず接近すると空宙で横斬り、中段突き、斬り上げ、斬り上げと目にもとまらぬ勢いで攻撃を加えていく。


 「があっああああああああああああああああああああああああああああ!」


 『輝羅さんっ!』


 獣装でも防ぎきれない強力なダメージに俺は絶叫した。

 相手は、それでも攻撃をとめず、なおも斬撃と突きを入れ俺を苦しめる。

そして、最後に火炎をまとう拳で俺の横顔をなぐり飛ばした。

 地に叩きつけられた俺は、息がつまりそうになり、うめき声をもらす。


 「相手が弱ってもない無いのに間合いなどあけない。やるなら、徹底してやる。戦いの鉄則だろう? そもそも、これはスポーツじゃない。殺し合いだろうが。なめてんのか? あんた」


 そう言って相手はクスクスと笑うと、炎剣を拾う。


 「……るっせぇよっ」


 ほほの血をぬぐい、ゆっくりと立ち上がった俺は、物凄い剣幕で奴をにらみつける。

 すると相手はクスクスと笑ったまま三ツ又の槍を水にかえ、回散させた。そして、炎剣をクルリともてあそぶように回転させ、持ちなおすと口もとつりあげ静かに言った。


 「トライデントを使うまでもねぇな。炎剣(こいつ)だけで黙らしてやるよ」


 そんな相手に俺は怒りを露わにする。


 「なめてんじゃねーぞ!」


 ほえると同時に肉体から高濃度の魔法があふれ出す。大気をゆるがす魔力の流れに相手は「へぇ」とおもしろがるように笑みを浮かべた。

 俺は、あらんかぎりの全力で飛び出すと、余裕顔の相手めがけて、膝蹴りをおみまいする。しかし、動きが読まれた奴はあっさりとその一撃を刀身でうけとめた。


 「単純すぎる」


 半ばあきれに近い奴の一言が、尚のこと俺の神経を逆なでする。


 「あああっ!」


 俺はうなり、空宙で体をひぬると、膝蹴りの体勢から回し蹴りを放つ。

 さすがに予想外だったのか、これは命中。しかし、こちらも無理矢理放っただけに勢力が低く、たいしたダメージになっていないようだ。

 敵は、のけぞりつつもしっかりと俺を目視し、そのままの体勢から炎剣をふった。爆炎の一閃が俺の腹部をかすめるが、俺は引かなかった。

 感情が先行しているため、若干判断力に欠ける気もするが、この波にのらねば勝てない気がした。

 俺は、迷わず拳を突き出すと敵の横顔を殴る。


 「ほおっ!」


 奴は、喜ぶような声を上げ、己が顔に一発いれた俺の拳を掴む。慌てて手を引っ込めようとする俺を奴はグイと引きよせて腹部に炎拳を一発。


 「があっ!」


 吐血し、痛みのあまり声を上げる俺だが、奴の手が放れると同時に膝を突き上げその顎をうち上げた。


 「ぐぅ!」


 敵も声をもらすが、俺に比べて大したダメージを受けていないように見える。

 膝蹴りによってはね上がった相手に追撃するべく、着地した足でそのまま飛び上がると、魔力をためた左手の平をつきあげ腹部をとらえる。

 たしかな感触がある。これは、相当のダメージに―――――――


 「いい一撃だ。でも、まだ浅いねっ!」


 次の瞬間、目の前に炎剣の切先が見える。と同時に、爆炎が俺を襲い俺吹き飛ばされた。

 炎にもまれつつ、すばやく紋章をきりかえた俺は、空宙で爆炎を払い叫ぶ。


 「来い! エクウス!」


 巻き起こる吹雪が追撃の火球を迎撃し、俺は難なく獣装を切り替えた。

 すぐさま六つの氷槍を飛ばすが、奴はそれをあっさり炎剣で対処する。

 着地した俺は、乱れた呼吸を整えつついつでも反応できるように身がまえた。


 すると、


 「今、いつでも反応できるようにって思ったろ?」

 「なっ?」


 こいつは、思考が読めるのか。そんな疑問をよそに奴は再びクスクスと笑い出す。


 「だめだなぁ。そんな受け身の考えだから勝てねぇんだよ。さっきも言ったが、スポーツじゃねぇんだよ。守ってるだけじゃ勝てねぇの。さっきから隙つくる攻撃ばっかしやがってよぉ。殺す攻撃打ってこいっていってんだぁ!!」


 怒鳴る相手はギロリと俺を一瞥すると、炎剣を両手で持ち天にかかげ炎を圧縮しはじめる。圧縮されていく炎に比例するように奴をとりまく魔力がどんどん増幅していくのがわかる。


 『輝羅さんっ! やばいです、あれは、やばいヤツですよ!』

 「わかってる! わかってるから、見ればわかるからっ!」


 慌てふためくリリにそう返した俺は、すぐさま自らの紋章に力を込めると、圧縮した魔力を脚部に移す。


 「のぞみどおりその面に一撃ぶちこんでやる!」


 そう叫ぶと、俺は飛び上がり、氷のドリルをまとう足を奴めがけてつき出した。


 「蓮脚螺旋撃(れんきゃくらせんげき)!」


 荒れ狂う吹雪を纏い、一直線に敵へとつっこむ俺。


 「うおおおおおおあああああああああああああああああああああああああ!」


 咆哮を上げ、せまる俺に奴は「ハッ」と笑いをもらす。


 そして、



 「滅焼蓮華(めっしょうれんげ)紅蓮乃焔(ぐれんのほむら)



 男が静かにそう告げた直後、世界が炎に包まれ、天に一直線にのびた巨大な炎の剣が俺めがけて振り下ろされた。

 あと少しで奴にとどく、そう思った瞬間、奴の炎の斬撃が俺をとらえ、その思考、意識を全て焼きつくす。

 声すら上げられず、痛みすら感じない。ただ敗負という傷が、ひたすらに心をえぐり、くやしさだけがにじむ。



 そのまま俺の意識は、暗い闇の深淵に吸い込まれるようにして落ちていった。




 

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