プロローグ「ビビッたね。事件だよ!」
とてもかわいい子だ。
目にとまった瞬間、そう思った。
雪のように白くて綺麗な肌にほっそりとした体付き、ゆらゆらと揺れる長いポニーテール。ふわふわと一歩一歩楽しげに歩くさまは、まるで天を舞う妖精のようである。大きく澄んだ瞳は宝石を彷彿とさせ、遠く離れたここからでも、吸い込まれそうな錯覚を覚える。
俺こと、明日宮輝羅は、塾帰りのバス停で反対車線の歩道を歩くその少女に見とれていた。
時刻は午後九時、すっかり暗くなった田舎の国道は、車も減ってどこか寂しげであった。そして、そんな場所だからこそ少女は特別可憐にハッキリと俺の目に焼き付いた。
それにしても、こんな時間に出歩くとは……、塾帰りなのだろうか?
見たところ年齢は俺と大して差がないように見える。十六~十八歳ぐらいだろうか。
私服でリュックサックを背負っている。そのリュックサックには白い猫の絵がプリントされており、呆けたような猫の表情が彼女の美しさに柔らかさを持たせ絶妙なバランスを醸し出している。なんだか、彼女にすごくマッチしている。……かわいい。
と思っていた時、
不意に一台の銀のボックスカーが反対車線つまり彼女の近くに止まる。そしてボックスカーから三人の不良っぽい青年達が出て来たと思うと、彼らはいきなり少女の口をふさぎ抱き抱えると、車の中に押し込んだ。暴れる少女をよそに男達はニヤニヤと下卑た笑いをうかべ車に乗り込む。
車は急発進し、あっという間に遠のいて行く。
一瞬の出来事に、俺は放心状態になる。が、すぐに落ち着きを取り戻すと、耳にイヤホンをさして、スマホをいじろうとした。しかし、開いたスマホの画面にはバッテリー切れの表示。
ため息をついた俺は、スマホをしまい、フッと笑みを漏らすと夜空を見上げる。
いやぁー。それにしても驚いた。女の子が誘拐されるところなんてはじめて見たぜ。……まったくびっくりしたわー。
……?
そこで俺は、妙な違和感を覚える。そして、すぐさま今起こった出来事を脳内で高速リプレイしてみる。
そして――。
「って! ヤベェじゃねぇか‼」
言うが早いか、俺はバス停に乗り捨てられている放置自転車にまたがると、全力でボックスカーを追い掛けた。




