友達、牧野さん(4/9)
第4章 友達、牧野さん
翌日の昼休み。
今日も牧野さんは絶好調だった。
「ねぇねぇ、生田君。彼女とはどうやって知り合ったと?」
いつもの裏庭のベンチ。
オニギリを食べる僕は、牧野さんの質問攻めに辟易していた。
「それは、まぁ。色々あって」
当然そんな曖昧な答えで鞘を納める牧野さんではない。
「その色々が気になるけん聞いとうと!」
牧野さんは本当に人の事を色々と聞くのが好きだ。
目がキラキラしてるし。
「スカイプで知り合った」
はぐらかしても効果が無いので正直に言う。
「そういう出会い方もあるとね・・・。じゃぁ、どこを好きになったと?」
「いや、まぁそれは・・・」
まるで芸能リポーターだ。
「どうすれば彼氏ができるか、参考にしたいけん」
え?
そうだったの何か意外だ。
でも、僕らの場合はレアケースだから参考にならないな。
なので自分なりに感じていることを言ってみる。
「牧野さんは、人との距離感さえ気を付ければモテそうな気がするけど」
「う、うそ・・・。そんなん初めて言われたと・・・」
恐らく、もう少し空気が読めれば全然違うと思う。
「で、どうやったら人との距離感を上手くとれるようになると?」
牧野さんは僕に聴いてくるが、
「そんなの、こっちが聞きたいくらいだよ」
そうだ、僕だって誰も話しかけるなオーラバリバリの距離感なんだし。
二人ともコミュ障気味だもんな。
「結局、モテるためにどうしたらいいかわからないって結論やけん。意味なかとよ」
「そうだね」
「生田君、頼りにならんとよ!」
と、こんな調子で毎日牧野さんのペースで寛げない昼休みを過ごす僕だが。
時々は一人で静かな昼休みも過ごしたいなと思った。
教室に戻ると、僕はまた話しかけるなオーラを出したので誰も近寄っては来なかったけど、僕と牧野さんを見てコソコソ話してる奴らがいるのには気が付いた。要はゲスな勘繰りだ。こう言う下らない噂も僕を人付き合いから遠ざける要因の1つだ。まぁ、牧野さんはこういう事はあまり気にしないだろうし、勝手に言わせておけばいい。
翌日学校に来ると、また牧野さんが吉川さんと険悪なムードだった。大したことはないだろうと特に気にしないで、自分の席に座り机に突っ伏して寝たふりをした。その後、どうなったのか分からないけど授業が始まる頃には牧野さんも吉川さんもいつもと変わらない様に見えた。
しかし、昼休み牧野さんは様子が少し変だった。
何時もの勢いがなく、遠慮がちで余所余所しかった。
おかしい・・・何があった?
確かに、牧野さんが大人しければ静かに昼を過ごせるけど、
これはこれで気になる。
「牧野さん、何かあったの?」
そう言って、牧野さんの顔を覗き込んだ。
牧野さんは、ドギマギして頬を赤らめた。
「何もあらんとよ!」
そう言って黙り込む。
話したくないなら無理に聞き出すほど僕は人に興味はない。
僕は話を切り上げ、購買で買ったパンを食べ始めた。
しばらくすると、牧野さんは僕の顔を不思議そうに見はじめた。
あんまり見るのでさすがに気になった。
「今度は何?」
と聞くと。
「生田君は周りの目とか気にならんと?」
「は? どうしたの急に・・・」
牧野さんは躊躇しつつも話し出す。
「ウチと生田君の間で変な噂が立つのとか・・・嫌じゃなかと?」
今更だと思った。
そんな事は最初から気になっていた。
だけど牧野さんが全然気にしないで近い距離間で接してきてたから「別にいいか」と思ってた。
「気にはなるよ。どっちかって言ったらウザいし嫌だよ」
すると、牧野さんは驚いた様に言った。
「嫌だったのに、ウチに付き合ってたと?」
それは違う。
周りから色々言われるのは嫌だったけど、牧野さんに付き合ってるのは嫌々なわけじゃない。それに、僕は自分の生活やテリトリーに人が入り込んでくるのは嫌だけど、直接影響のない噂くらいなら大したことではない。
「牧野さんと居るのは嫌じゃないよ。ちょっと喋り過ぎだけど楽しいよ」
「はは・・・生田君いい人やね」
牧野さんは珍しくため息をついた。
「ウチって、ホントなんも見とらんし、何も考えんと行動してるっちゃね。ちょっと、反省したとよ」
牧野さんが落ち込んでるのを見て、深刻に考えすぎだと思った。
別にちょっと噂が立ったくらいで、実際には何も起きてないし何も変化していない。それにも関わらず、牧野さんは何か大きなミスでもしてしまったかのような深刻さだ。こんな事、ちょっとクシャミしちゃったレベルの事だと思うんだが・・・、少なくとも僕にとってはそうだ。ポエミとは全然違うベクトルだけど、牧野さんは人の思惑を深刻に受け止めすぎる癖があるのかもしれないと思った。
夜ポエミの部屋。
私は一寸前までマリオとスカイプをしていたパソコンをシャットダウンした。
もうすぐ日付が変わる時刻だ。
その時、また北側の窓がトントンと叩かれた。
今日は少し時間が遅い。
私は窓を開け小さめの声で言った。
「こんばんは、絵里ちゃん」
「フン」
「あはは、フンなんて挨拶は無いよ」
絵里ちゃんは、私に言われたのが気に入らないみたいで、
「ポエちゃんにはフンでよか」
と不貞腐れたように言った。
「で、どうしたの。絵里ちゃん」
こんな時間呼び出して悪態つきたかったわけじゃ無いよね。
何か話したいことがあるんでしょ。
私に言われ絵里ちゃんは、おずおずと話し出す。
「あの・・・・ポエちゃんは彼氏の事、どう思ってると?」
「え?」
絵里ちゃん、そんな事聞くために呼んだの?
「あー、いや・・・そう言うことやなかよ。ポエちゃんは家にいて、彼氏は普通に共学の学校に通っとうとやろ。やけん毎日、色んな女の子に会うとるわけやん。ポエちゃんは、それをどう感じとるのか聞きたかよ」
絵里ちゃんは言うけど・・・
私は、そんなこと考えたことなかった。
私にとってはマリオと私の二人の世界が全てで、マリオの外の世界なんて気にしたこと無い。
もし、マリオの周りにたくさん女の子がいて・・・。
「・・・・」
やめよ、考えない方が良さそう。
「考えない事にする」
「それでいいと?」
そりゃ、何かあれば嫌だけど。まだ何も起こってないのに考えても、ネガティブな方に行きそうだから考えない。
「いいの、私は」
「じゃぁ、もし彼氏が誰かと噂になっとたら?」
「噂?」
「そう、別の人と付き合おうとるんじゃないかて言う噂」
噂って、本当に付き合ってる訳じゃないんだよね
質問の意図が分からない。
「どうしてそんな事聞くの?」
すると、絵里ちゃんは戸惑った様子で少し考えてから言った。
「実は、ウチ・・・。他の学校に彼女がいる男子と噂になっとるとよ」
へぇ、そんな事があるんだね全日高校行ってると。
そんな事が日常で起こるんだね、中学とは違うなぁ。
もっとも私は中学もまともに行ってないけどね。
「それでウチ、どうしたらいいか悩んどるとよ」
悩んでるって事は噂になるのが迷惑って事だよね。
好きでもない子と噂になって嫌だって事かな・・・。
「絵里ちゃんは・・・その子のことは好きじゃないんだよね?」
「ウ、ウチ!?」
何故か絵里ちゃんは慌てた感じで言った。
「ウ、ウチは全然好きじゃなかとよ!」
そうなんだ、じゃぁ簡単だ。
「だったら、その子と距離置いて避けたらいいんじゃない」
「へ?」
「だって、好きじゃないんでしょ。噂に迷惑してるんでしょ。全然会わないようにしてれば噂なんて直ぐ無くなると思うけど」
「そ、そうとよね・・・あは、あははは・・・」
絵里ちゃんは顔を引きつらせながら乾いた笑いをしていた。
何だかよく分からないけど、私も笑っとく。
「ウフフフ」
「あははは・・・ホナ、おやすみ」
絵里ちゃんは去っていった。
一体、何だったんだろう。
その日は、朝から牧野さんが僕を避けていた。
いや、普段から教室にいる時には積極的に話してるわけじゃないんだけど。挨拶しても返ってこなかったり、視線が合いそうになるとわざとらしく顔を背けたりと、あからさまに避けていた。それに、お昼休みも例の場所に来なかった。
まぁ僕としては特に問題は無いのだけど、あまりにも急なので戸惑ってはいる。
まったく、牧野さんのマイペースには驚かされる。
その状況は翌日も、今日も続いていた。
牧野さんの中で何か変化が合ったんだろうか。
おかげで静かに過ごせたと言う意味では良かったのだけど・・・
なんか消化不良な感じで後味が悪かった。
今日の放課後はポエミの家にいく約束をしている。
明日は土曜日だし、次の外デートの打ち合わせでもしようかな。
ポエミの家へ向かうため、いつものバス停を通過し路面電車の駅へ行くと、牧野さんを発見した。
そう言えば牧野さんは路面電車で通学してたっけ。
僕は牧野さんに近づき声をかけた。
牧野さんは大袈裟なくらい驚いていた。
「い、生田君。どどどないしたと?」
「ちょっと、今日は彼女のところにね」
「そ、それはマズカとよ!」
「は?」
一体、何がまずいというんだ?
牧野さんの言うことは時々分からない。
「ウチと居るところ、彼女に見られたらどうすると」
そんな事か・・・
別に牧野さんと何かあるわけじゃないし、ポエミなら家の前まで一緒に行かない限り見られる事はない。
「それなら、心配ないよ」
と僕が軽く答えたら
「ダメやけん!」
と牧野さんは過剰な反応をした。
「とにかく、ウチは一本後の電車で行くけん。生田君は先に行くとこと!」
「は、はぁ・・・?」
何かよく分からないまま、迫力に圧されて牧野さんを残し一人電車に乗った。
牧野さんは本当に謎だ。
そして、ポエミの家。
「マリオ、今週は外デートお休み」
部屋に行くと、そう言って嬉しそうにゲームソフトを見せてきた。
「それで、二人でこれをやるのか・・・」
「そう、お母さんが全クリしたから、週末にマリオと一緒にやるの楽しみにしてた」
嬉しそうに笑顔を向けるポエミが可愛いが、何かが違うような。
「これって、ギャルゲーだよね」
「うん、お母さんがすごく面白かったって」
いや面白いんだろうけど、彼女の前で女の子を攻略するとかちょっと嫌だなぁ。
「あ、心配ないよ。全年齢版だから」
「・・・そういう問題じゃぁ、いやそれも大問題だけど・・・」
「それにマリオが学校で、どんな女の子を気にしてるのかもチェックできるし」
え!?
意外だな、そんな事を気にしてたのか?
でもギャルゲーやったからって、そんな事分からないから。
「と言うことで、主人公の名前はマリオと。誕生日が4月の・・・」
完全に僕のプロフィールでやるのね。
何か、彼女の前で浮気する感じがして怖い。
なんか気乗りしないなぁ・・・と思っていたのだが。
結局ゲーム三昧の週末を過し、土日で隠しヒロインを含む7人を全攻略してしまった。めちゃくちゃ疲れた。
メインヒロインが自分のルートのとき以外はヤンデレ化してホラーな終盤の連続。お母さん、どう言う趣味してるんだ。
「凄いね、全日高校ってホラーな場所なんだね」
「いや絶対違うから、信じちゃダメ」
こんな高校生がいたら、恐ろしい。
メインヒロイン以外だって強烈なキャラばかりだ。
「ところでマリオはどのヒロインが好きだった?」
「えっ・・・・と」
いきなりポエミから答えづらい質問が来た。
ポエミの事だから、別に何を言おうが笑い飛ばして聞いてくれるだろうけど、
僕が恥ずかしい。
「アカリちゃんかな、マナカちゃんかな、カリンちゃんかな、まさかカノンちゃんじゃないよね?」
「いや・・・その・・・」
それぞれのヒロインを思い出してみる。
アカリちゃんは・・・無いなぁ、天然で可愛いところもあるけど暴力的なのは嫌だ。マナカちゃんはあざといしなぁ。カリンちゃんは幸薄感が苦手だ。かと言ってメインヒロインのカノンちゃんは病んでるし。だとすると方言少女の・・・
「ハルナちゃんかな・・・」
「えー、マリオ方言萌えだったのぉ」
「いや、そう言うわけじゃぁ・・・」
別に方言萌とかじゃなくて、最初引き込もりだったハルナちゃんがポエミと被っただけなんだ。
「ほな、ウチも方言にした方がええやろか」
ポエミが急に関西弁を喋りだした。
そう言えば牧野さんは、なんちゃって方言女子だったな。元引き込もりだし。
実は牧野さんこそハルナちゃんと被るのかもしれない。
「そうそう、私の知ってる娘でも方言女子いるよ。マリオに近づけないように気を付けないとね」
「本当に、方言萌とかじゃないから」
てな感じで楽しかったけど、しんどい週末だった。
今週もまた、牧野さんは僕を避けていた。
先週、駅で少し話たから今週は元に戻るかなと思ったんだけど。
どうしたんだろう一体。
そして、それは水曜日の午後に起こった。
その日は生徒会委員の選出のホームルームがあった。
生徒会は選挙で選ばれる生徒会長、会計や書記と言った役員で構成されるが、その下部組織として生徒会の委員が存在する。各クラス1~2名の委員からなる組織で、要は生徒会役員の使い走りである。ほぼ毎年15名前後で運営されており、文化祭前の10月に選出される。
そして、この生徒会委員決めは毎年難航する。付属の大学への進学率が99%のウチの高校は内申点なんてものは関係ない。それに、やる気のある人間は役員の方を目指す。もちろん委員には役員の様な権限もなく、ただ忙しいだけの便利屋的な存在だ。さらに、ただでさえ面倒な生徒会委員の仕事なのだが、最初の一ヶ月に限っては土日すべてがつぶれるほど忙しい。文化祭のメインスタッフとして駆り出されるのだ。イベントステージ、飾り門の製作、パンフレットの準備など仕事は幾らでもある。
そんな委員だから誰もやりたがらない。
案の定、ホームルームで希望者を募るが誰も名乗りをあげなかった。
とにかく各クラスから最低1名は選出しなければならない。希望者がいなければ、じゃん拳やくじ引きで公平に決めると言うのが通常の流れだ。
ウチのクラスもご多分に漏れずそうなると思われたが・・・。
ある女子のグループが声を上げた
「牧野さんがやったらいいんじゃない」
吉川さん達だった。
すると、クラスヒエラルキーの高い吉川さんに追従するもの、或いはやっかい事を逃れたい連中は
「やってくれるの」「たすかるぅ」と吉川さんの言葉に追い打ちをかける。
先生もじゃん拳やくじ引きよりは推薦の方が良いと思ってるらしく
「牧野、やってくれるのか」
と、さらに追い込んできた。
牧野さんは事態の流れについて行けず戸惑っていた。
「助けに入るか」と思ったが、迷っている間にアレヨアレヨと言う間に牧野さんに決定してしまった。
そして、やっかい事から逃れたいマジョリティによりウチのクラスからは牧野さん一人で、と言うことでホームルームは終了した。
牧野さんは目に見えて落ち込んでいた。程なく皆、散り散りに帰宅し始めた。
でも牧野さんは俯いたまま席から動こうとしなかった。
この後に委員会の顔合わせがあるから残ってるだけだと言えばそれまでだが。牧野さんが呆然と座る姿は、それだけでは無いことを物語っていた。
しばらく牧野さんとまともに話をして無かったし、今日の昼休みもチャンスを逃した。声をかけるには最悪のタイミングな感じもしたけど、声をかけずにはいられなかった。
「牧野さん・・・」
僕が声をかけると
牧野さんは、ゆっくりと振り向いた。
声をかけたのが僕だと判ると苦笑いしながら言った。
「生田君・・・久し振り・・・」
「なんと言うか・・・大変だね」
牧野さんがは首をふる。
「別に。生徒会委員くらい・・・、大変だけど大したことなかとよ」
その返事に少し安心する。
「そうか・・・」
「うん。やってみたい気持ちもあったけん」
だが、笑顔には力がなかった。
「そう、なんか落ち込んでるように見えたから」
牧野さんは深いため息をついた。
「委員ぐらい幾らでも引き受けるとよ、普通に選ばれたんやったら。
でも・・みんなが・・・ウチに押し付けて・・・ショックやった。ウチって嫌われとるんかな・・・やっぱり」
いつもは明るくて元気な牧野さんの言葉が胸を刺す。
「最初に私の名前を言い出したのが馴染めなかったグループの中心の娘」
吉川さんの事か。
どう見たって吉川さんと牧野さんが合うとは思えない。
「はじめは友達になれると思うとった。でも、すぐに嫌がらせするようになってきて。あの娘はクラスの中心だから、だんだんウチ孤立してきて。あの場所に逃げるようになって」
一人が好きでは無い牧野さんが、あんな場所でお昼を食べているんだ。よっぽど居たたまれなかったに違いない。
「2学期になってまた頑張ってみたけど、ダメであの場所行ったら生田君がおって・・・」
そこまで言うと、牧野さんは僕に謝ってきた。
「生田君、ゴメンね。最近避けてたの気づいとるよね」
「うん」
「何か、ウチと生田君の変な噂が流れ出したから。ウチの空気読まん行動で生田君に迷惑かけとる気がして・・・」
そんな事を考えてたのか、牧野さんは外の事を気にしすぎる。
サクラさんがいつも言ってる、外でちょっと何か起こったくらいで自分をブレさせちゃダメなんだって。
僕は牧野さんを励まそうと言葉を探してた。
でも、先に口を開いたのは牧野さんだった。
「帰んなよ。ウチはこれから委員会の顔合わせがあるけん」
牧野さんはそう言ってバイバイと手をふった。
帰り道、僕は何かスッキリしない気持ちでいた。
牧野さんの力のない笑顔が瞼から離れなかった。
僕は自分の大切な人以外の事は極力関わりたくない人間だ。
今はポエミとチサ姉の事だけを気にかけていたい。
余計な人間関係は増やさないんだ。
牧野さんは友達じゃない。
まだ心を開いてない相手だ。
必死に自分にそう言い聞かせようとしたけど、どうしてもこのままで良いとは思えなかった。
それに・・・本当に牧野さんは友達じゃないって言えるのか?
牧野さんと知り合ってから学校で誰とも会話をしなかった頃より、
充実して楽しかったんじゃないのか?
いや、ダメだ。
関わることでチサ姉やポエミの期待に十分に応えられなくなるかもしれないじゃないか。
そうだ、優先順位があるんだ・・・
最優先事項はポエミとチサ姉だ。
牧野さんにまで構ってられないんだ。
でも
でも・・・
でも、やっぱり・・・このまま帰る気になれない
僕は踵を返し学校へ向かった。
ここは正門から南側にある新校舎の四階。生徒会役員の集会が開かれている会議室。中を覗くと長机が長方形に並べられ、男女15、6名の生徒が座っていた。その長方形の奥にホワイトボードと教壇があって生徒会長らしき人がいた。生徒は友達同士で固まって座ってるようで、牧野さんの隣だけ妙に大きく隙間が空いている。
牧野さんは、僕みたいに一人を好むタイプとは違う。牧野さんの姿はさっき教室で話したとき以上に寂しそうに見えた。
僕が行って何になるって言うんだろう。
別に喜ばれないかもしれない。
独りよがりのお節介かもしれない。
でも、牧野さんは一人で座ってるより友達と楽しく話してる方が似合ってる。
僕はそんな牧野さんを見たいんだ。
僕がそうしたいんだ。
「柄じゃないけど・・・」
僕は教室のドアを開けた。
「なんですか? 生徒会の会議中です」
教壇に座って仕切っている生徒会長が言った。
「すみません。僕も委員です。1年A組です」
会長はチラっと机の書類に目をやる。
「1年A組は牧野絵理さん一人となっていますが?」
「いえ、生田マリオもそうです」
今度は机の書類を手に取り確認していたが、
すぐに書類に何かか書き込んだ。
そして、僕の方を向いて早く席に着くように促した。
僕は教室を横切り牧野さんの隣まで行って座った。
牧野さんは僕を驚いたように見ていた。
僕は牧野さんの視線に耐えられず、顔をそらして言った。
「ゴメン。僕も本当は委員になりたかった」
牧野さんはしばらく僕を見つめていたが
堪えきれずに、プッと吹き出した。
そんな牧野さんが可笑しくて僕も笑わずにいられなかった。
そして、二人でケタケタと笑いだした。
「そこ、うるさいぞ!!」
生徒会長がイライラした表情で注意してきたけど、その後も笑いが止まらず何度も睨まれてしまった。
僕と牧野さんは久しぶりに一緒に帰った。
あれから終始ご機嫌だった牧野さんは、ちょっと心配そうな顔をして聞いてきた。
「生田君、ほんとに委員になりたかったと?」
そりゃ、そう思うだろうな。
だってあんなの嘘に決まってる。
でも無理してやってるかと言えば、それは違うと断言できた。
「委員になりたかったのは嘘だけど、牧野さんと一緒に委員やったら楽しいかなとは思った」
僕の答えを聞くと、牧野さんは急にモジモジしだした。
「彼女おるのに、そういう発言はいかんとよ!」
そんな変な発言したかな?
牧野さんが委員じゃなかったら絶対やらなかったのは事実だし。
「彼女がいたらまずい様な発言したかな?」
するとチョット怒った様に
「しとるとよ! ウチだから良かったものの、勘違いしたらどうすると!」
いや、それはナイナイ。
どこのラノベだ。
「それより、もう僕のことは避けないんだよね」
「そりゃ、生田君が気にしないならウチは別に構わんけん。それに、避けてたら委員の仕事も出来んけんね」
相変わらず怒ったような言い方だけど、表情は笑っていた。
そして今度は僕にやり返してきた。
「もう、心は開いてくれたと思って良いとよね」
それは、今更だ。
もう、とっくに開いてたんだと思う。
僕が認めてなかっただけだ。
「そうだね。開いてるよ」
それを聞いて満足気にうんうんとうなずく。
そして、どの事についてなのか分からなかったけど
「生田君ありがとう」
と言った。