02 最終回が読めないワケ。
「変態・下品・下ネタ」タグを追加しました。
デフォルトなのに、忘れていて申し訳ございません。
「…………!!」
会議の中、いつもは冷静沈着な男が、天を見上げ目を見開いていた。
「ロイヴァール様、いかがなされましたか?」
ただ事ではない様子に、宰相が恐る恐るロイヴァールに伺う。
「……やっと」
真珠色の髪で隠されていたが、その口許は笑っていた。
ロイヴァールは、すぐさま席を立ち、命令する。
「アーリア様がご帰還なされます。直ちに用意を」
「!!」
ザワザワザワ
「召喚士を集めろ」
「伝令を流せ」
「お迎えの準備を」
次々と席を立ち部屋を出ていく中、一人部屋に残ったロイヴァールは、再度椅子に腰かけ息を吐いた。
「8年経ちましたか……ふふ。逃がしませんよ?」
アーリア様?
――時同じくして
緑も水も何もない砂漠。
「解けたな」
金色に輝く瞳が、鋭く空を見上げていた。
△▼△
「うぉぉぉぉぉ!! なんか、ゾワゾワする!」
施設にある自分の部屋に戻り、大きなリュックサックに荷物を詰めていた莉愛は、先ほどから感じる悪寒に身を竦ませていた。
「気付いたんじゃない?」
必死に用意をしている莉愛の横で、漫画雑誌を読みながらもニヤニヤ顔の兄。
「あれもこれも、みーーんな、あんたが助けてくれなかったからでしょ!!」
「助けたし」
「封印を解かれてから助けるって! ……あんたまさか…わざと?」
「……どうかなぁー。え? 莉愛ちゃん、これ来週最終回だって! 打ち切りかな?」
漫画雑誌の最後の方のページを大げさに指差し「これ、好きだったのに」と眉間にしわを寄せる。
「…うるさい」
「……莉愛ちゃんも読めばファンになるはずなのに。それにしてもさぁ、その恰好…悪あがきだと思うけど?」
「うるさい! うるさい!」
莉愛は、腰まである長い髪をまとめて、その上に茶色のかつらをかぶっていた。体系が分からないようにダブダブの服を身にまとい、瞳の色を誤魔化すために大きな眼鏡をかける。
「それより、打ち合わせ通りにしてよ!」
「はぁーーーい。お兄ちゃん、頑張るー」
片手を上げて、目線は漫画雑誌のまま。
時折ニヤニヤ笑う姿に、莉愛は苛立ちを隠せない。
(誰が、お兄ちゃんよ! 16年間も騙されていた!)
5つ上の同じ施設のお兄ちゃん。
変態で漫画好きで仕事をしているのかしていないのか、いつもフラフラしていた。
その兄が…実は!! ………だったなんて!!
(信じられない!)
バシッ
漫画雑誌を閉じ、床を見る。
女の子らしいピンク色のカーペットの上に、小さな黒い点が生まれていた。
「あ、そろそろくるよ」
「え?! もう?! まだ、化粧をしてないのに!」
「それくらい、あちらさんも必死なんでしょ」
「きっと、ロイね! あの神殿なら薄暗いし誤魔化せるよね。だって、あのロイだし」
「……だといいけど」
黒い点が渦を巻き、どんどん大きくなる。
「スー、早く!」
「わぉ。その呼び方、16年振りー。お兄ちゃんでいいのにぃ」
「軟体生物を兄にもった覚えはない!」
「ちぇ、この身体……気に入っていたのにな。畏まりました。姫様」
肩を竦めて、兄だった男は目を閉じる。
すると、身体から蛍光の黄緑色をしたゼリーが出てきた。
「うわ、なんか…昔ながらの入浴剤の色」
『姫様、ひどーーい』
そのまま、莉愛の顔をした等身大の人形の中に入る。
ギギギギギ
「お、凄いね。関節も動くんだ」
『うん。流石に、声帯がないから話せないみたい』
テレパシーで莉愛に話しかけながらも、新しい身体の動きを試す。
「吹き替えなら、私がやるから…って!! どこを揉んでる!!!」
『いやぁ、シリコンの柔らかさが癖になるっているか。何CC入ってるんだろう。パフンパフンしてるし! すごい! この人形、別の事に使えるよ!』
自分と同じ顔が無心に胸を揉んでいる姿に、莉愛は殴りたかったが、人形が壊れては困るので後で変態を始末しようと心に決める。
そうこうしているうちに、渦がマンホールほどの大きさになり、中から黒い手が無数に伸びてきた。
「ぎゃあ! 何、この執念深そうなのは!」
足首を危うく掴まれそうになり、慌てて小さくジャンプする。
すると、音のする方向へ手が一斉に向かってきた。
「……スー」
『あいあいさー』
スーは、残された元の身体と漫画雑誌を名残惜しそうに見た。
(最終回が読めなくて残念)
――そして
莉愛とスーは、黒い手に捕まれて渦の中に吸い込まれたのだった。
*時間の流れが約2倍違います。
莉愛の世界では16年ですが、ロイの世界では8年しか経っていません。