00 プロローグ
薄暗い地下にある神殿。
魔法陣の中には、2人の人物が倒れていた。
「2人?」
「失敗か?」
「いや、条件は揃っていた。」
「どっちだ?」
ザワザワと不安にゆれる。
「…ロイヴァール様」
濃紺のローブを着た5人の男のうちの老齢な男が、一人の男に伺う。
ロイヴァールと呼ばれた男は、一際目立つ紫色のローブを見にまとい、腰まである神秘的な真珠色の髪がサラサラときらめく神々しさを持った美丈夫だった。彼は、宝石のような紫色の瞳で2人の少女を見つめていた。
「…そうですね」
「あの、ここはどこですか?」
少女のうちの一人のが、恐る恐る話しかける。
その少女は、艶のある黒い髪を腰まで伸ばしていた。ふわりとした長袖のワンピースが少女の肌を覆い隠していたが、浮かび上がる曲線に視線を奪う。まだ、幼い顔をしているが、唇もフルリと果実のように甘そう。瞳は濡れた夜のような瞳が、怯えを滲ませていようにみえた。
その姿は、まさしく、彼等が求めていた少女の姿だった。
「そのお姿は、アーリア様!?」
「絵姿よりも、お若いが」
「いや、間違いないだろう」
一人の少女の姿にローブを姿の男たちの視線が集まる。
その視線には期待と高揚感に溢れていた。
『何言ってるの? ねえ、あなたは、どうしてこの人達の言葉話せるの? ねぇ!!』
忘れられていた存在だったもう一人の少女が、先程の少女の腕にしがみつき、乱暴に揺さぶる。
その少女の髪は茶色くバサバサで、顔には大きくて不恰好な眼鏡をかけており、ダボダボな服を着て大きな鞄を背負っていた。
「!! え?!」
「アーリア様から離れろ!」
首元にいつの間にか剣先をおかれる。
騎士が後ろに立って 殺気を放つ。
『ッヒィ!!』
後退る少女の手首には、血で滲んだリストバンド。
「やめてください!」
少女を庇うように立ちふさがった。後ろの少女は震える身体を抱きしめて俯く。もう片方の手で傷付いた手首を抑え込んでいた。
「ロイヴァール様。この者、どういたしましょう」
騎士がロイヴァールに問う。
静観を保っていた ロイヴァールが、薄い唇を上げて微笑み、袖口から細いナイフを取り出し…
投げた。
シュッ
ナイフは一直線に……美しい少女の額を刺す。
そして、後ろで震えていた少女の目の前で、人形の様に膝から崩れ落ちた。
ガシャン!
『!』
「!!」
「アーリア様!!!」
「ロイヴァール様、どうなされたんですか!!」
ロイヴァールは、右手を上げ、周りの者は静まり返る。
「アーリア様、申し訳ございません。人形とはいえ、貴方様と同じ顔をしていたものですから、憎らしくなりまして」
そう言って、ロイヴァールはもう一人の少女の前に跪いた。
「……ロイのくせに」
「アーリア様が、こんな私にしたんですよ?」
蕩けそうな笑みを浮かべ、少女の手を両手で大事に包み込む。
そして、リストバンドを取り手首の傷を見て、顔を歪めるのだった。
「こんな乱暴な事をしなくとも……まぁ、今はいいでしょう」
そして、少女の茶色いパサパサな髪を、顔にかけてあった大きな眼鏡をとった。
「……!!!!」
「これは」
周囲のローブの男たちが息をのむ。
出てきたのは、先ほどの少女と同じ顔――美しい少女の姿がそこにあった。
ただ違うのは、オッドアイという事。
右は夜空に輝く星の様に金色で、左は…目の前の男と同じ紫色の瞳。
顔を歪める少女に、ロイヴァールは言うのだった。
「お帰りなさい。アーリア様」