諦め (1)
「上手くなったな。」
あらぬ手ごたえはなかった。僕が振り下ろした剣を己のそれで受けとめたのだ。振り下ろした刃の間からレヴンの顔が見える。口調こそ物柔らかだったが、彼の目には今までにはなかった冷え冷えとした光が宿っていた。心を見透かすような視線に逃れるようにして僕はうつむき、剣を傍らに放り投げた。草に紛れた小石にあたって剣はカンと音立てて転げる。
「なぜ黙る。」
「そうだろうな。」
2つの声が交じり合った。僕は少し驚いて彼を見やった。でもレヴンはこちらを見ない。
「きっとそうだ…」
彼は自分に言い聞かせるように言った。心なしかその声には自嘲の響きが混じっている。きっと彼は別のことを考えているのだ。僕らは石の上に腰かけて、遠くをぼんやりと眺めた。町はずれの草原には、風を遮るものなどあるはずもなく、容赦なく髪を乱す。こうして隣に座っていると時おり彼の長い髪、赤みの混じった茶髪が僕に吹きかかるのだった。陽にあたると彼の髪の毛は赤く透ける。やはりいくらそめても元の色は誤魔化せないのだろう。そのためかいつもは髪を隠すような被り物をしている。僕といる時以外は。
目の前に広がる草原は果てしなく続くように見える。でもその向こうには紅の国があり、彼は確かにそこで生まれたのだ。そしてどういうことか今は緑の国の田舎に身を隠している。遠く故郷を眺める彼は何を想うのだろうか。
「ノーラ」
僕が考えていることを察したのか、彼は唐突に言った。
「私を殺しても構わないよ。私には「家族」もいない。恋人もない。失うものなんて何もないんだから。」
そういうレヴンの顔は言葉と裏腹には晴れやかだった。何にも未練がないような。
「そうしたら、君は称えられるさ。取り逃がした紅国の男を成敗した殊勝な者として。敵国の王族の子を誅殺した勇者として。」