ルネとイヴとポールが庭で日光浴をしながら会話を始めたとき
ルネたちきょうだいが住む家は石畳の通りに面しているが、その反対側には心地いいせせらぎの聞こえる舗装されていない川があり、ふかふかと芝生が生えた庭があった。きょうだいたちはよく庭で日光浴をする。川の向こうは木で囲まれた公園で、様々な猫たちが思い思いに過ごしている。季節は春。心地よい気候だ。薄い水色の空で太陽が白く輝く。
イヴはポールを連れて庭に飛び出した。青い目をきょろきょろと動かし、隠れる場所を探す。ポールは黄色い目を細めて眠そうにしている。彼はいつもこうなのだ。庭には白いペンキ塗りのあずまやがあり、彼らを誘っている。イヴはポールの手を取り、しいっと短い指を立ててあずまやに向かった。ポールは言いなりになってついていく。
レンガ造りの家からルネが出てきた。むっつりと不機嫌そうだ。太陽のほうを見て緑色の目をエメラルドのように透き通らせ、手で日差しを遮った。白い毛がきらきらと光を反射している。イヴとポールがいないことを大して気にしている様子ではなかったが、あずまやをちらりと見ると、中に誰もいないのにも関わらず真っ直ぐに歩き始めた。空のあずまやの前に着くと、
「イヴ、ポール。もう子供じゃないんだから」
と兄らしい力強い声でため息混じりに言った。くすくすと笑い声が聞こえた。と思うとあずまやの後ろからイヴが。引っ張られるようにポールが出てきた。
「ぼくら生まれて一年だ」
ルネが言うと、イヴとポールは笑いながら顔を見合わせた。まだ遊びの気分が抜けないらしい。
「働いてるのはぼくだけだ。駆け出しの画商だけどね。君たちは父さんの遺産を食い潰すだけじゃないか。毎日食べたいだけ食べて、寝たいだけ寝て、遊びたいだけ遊んで……。料理だってぼくがやっている。君たちは鼠を捌くことすらできない。実際に鼠を捌いてみろ。きっとぼくみたいに憂鬱になる。鼠にだって感情や夢がある。君たちはそのことを気にしてないか表面で気にしてるだけなんだ。だから平気ですし詰め電車の鼠なんて勝手に注文したりするんだ。君たちが鼠を捌くんならぼくもこんなに憂鬱な気持ちですし詰め電車を待たなくて済む。なのに君らは……」
イヴは口をへの字にしてルネをにらんでいた。にらまれたルネは心外そうに彼女を見返した。ポールは芝生の上にしゃがみこんで、
「そんなことより今日の夕飯は何?」
と甘えた声を出した。イヴは身を翻し、
「嫌なルネ!」
と家の中に消えた。ポールもそれについていく。
ルネは一人であずまやに入り、中にある白いテーブルセットの椅子に落ちるように座った。それから手と頭を前に垂らし、長い長いため息をついた。