ルネとイヴとポールの三人が食事の相談を始めたとき
イヴが水色の出窓に寄りかかり、外を見ている。街は賑やかで、美しく着飾った者たちが石畳の道を歩いている。イヴの長毛は白く、よくブラシをかけられているらしくつやつやと輝いている。そこに通りかかった兄のルネが呆れ返ったように彼女の背中を見やる。彼の毛もまた長く白く、容姿は彼女によく似ている。違うのは目の色だけだ。青い目のイヴ。緑色の目をしたルネ。長椅子に横たわる末弟のポールはすやすやと眠る。彼もまた同じ色と長さの毛をしているが、手入れをしないらしく艶はない。彼の目の色は、今は見えないが黄色だ。
ルネは円いテーブルの上のポットからお揃いのカップに紅茶を注いだ。白磁に朱を基調とした小鳥の絵が描かれた名品と常々彼が来客に自慢している品である。カップは三つ。自分とイヴとポールの分だ。
「そんなに待ってもすし詰め電車は来ないさ」
彼が言うとイヴがぱっと振り返った。青い目を真ん丸にして、驚いたような顔をしている。
「あら、そうかしら」
「そうさ。すし詰め電車っていうのは鼠どもが思い思いに入っていって、溜まったらやってくるものだ」
「そうね。でも鼠ってお馬鹿さんね」
イヴが言うとルネは片目だけ開いて彼女を見た。イヴは艶やかに微笑む。
「だって自ら食べられに来るんでしょう?」
「鼠だって食べられることは望んじゃいないさ」
「あら」
イヴが意外そうな顔をする。
「鼠にだって夢があるのさ。そして夢一杯の鼠たちが一杯に詰まった電車をぼくたちは注文し、食べる」
ルネは気だるげにそうつぶやくと、目の前の紅茶を砂糖も入れずに飲んだ。彼は太るのを異様に気にしているのだ。
「そう」
イヴが何でもなさそうな顔でやって来て椅子に座り、紅茶を飲んだ。当然のように角砂糖を三つにミルクをたっぷり入れてかき混ぜる。ルネが顔をしかめると、イヴは見せびらかすようにそれを飲んだ。ルネは目を逸らした。
「ポールも飲めよ。君の分のお茶がある」
長椅子の上のポールはまぶたを開き、黄色い目を細く見せた。小さくつぶやく。
「今行く。ミルクを入れてよ」
「甘えるな」
「わかった」
渋々と言った様子で長椅子から降りたポールは、椅子に座るとミルクだけたっぷり入れて紅茶を飲んだ。
「冷めてる」
「君が起きないからだ」
ルネはどこか遠くを見ている。イヴは美しい目をポールに向け、
「ねえ、鼠は丸焼きがいいわよね」
と笑った。ポールは何となく乗り気ではなさそうな顔で、
「鼠ねえ」
とつぶやく。イヴが目を丸くする。
「あら、鼠を食べたくないの?」
「何となく可哀想なんだ」
「どこが?」
「だって鼠にも感情があって夢があって……」
ルネがため息をつく。ポールとイヴが彼を見る。
「今更可哀想と言っても遅いよ。注文してしまったんだから。それに可哀想だと言ってたら何も食べられない。ぼくら猫は肉食なんだから」
ポールが黙る。イヴが微笑む。
「そうよ、ポール。可哀想だなんて馬鹿馬鹿しいわ。鼠に感情があろうと夢があろうと、わたしたちには関係のないことだわ」
「うーん、そうだね」
「そうよ」
「それに鼠を料理するのはぼくなんだ。食べたい食べたくないと言われても困るんだよ」
ルネが不機嫌に二人をにらむ。ポールとイヴは苦笑いをして紅茶を飲んだ。ルネはまたため息をつく。
「鼠は冷凍で届くそうだな。毎年こっちに届く前に鼠が逃げ出すもんだから、途中で電車ごと凍らせるそうだよ」
ポールが不満げな顔をする。イヴは困惑げに眉をひそめる。
「冷凍の鼠なんておいしくないわ」
「冷凍のほうが楽さ。生きてる鼠を捌く瞬間ほど不気味なものはない」
ルネはそう言って、憂鬱そうに紅茶をすすった。