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春雪  作者: 桃川 ゆずり
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 達也君に雅輝くんが私を好きなはずだと聞いても、その言葉を断定できる事は何ひとつなくて……。


 雅輝くんが私のこと好きだったらすごく嬉しい。

 でも違ったら?

 達也君も彼からははっきりとした言葉では聞いていないようだし……。


 結局、ますます私の気持ちは揺れた。


 雅輝くんが二股しているとは思っていない。

 ただあの無口な雅輝くんが何でも話せる人がいるのなら、私よりその人が一緒にいる方がいいんじゃないだろうか?


「私、雅輝くんが二股するような人だとは思っていないけど、私を好きだとも思えないの……。ごめん」


 彼が私を好きだとは信じられない私に、少し斜め前に座っている達也君の表情が少し悲しげになる。


「七海は意外と慎重派だからなー。本人の明確な言葉がないと信じないよ。それに達也君は今日、2人の状況を聞きにきただけなんだよね?」

「あ……そうです」


 先輩に言われるとなぜか達也君が少しだけ慌てた。

 その様子でなんとなく先輩が達也君にプレッシャーをかけているように見える。

 裏で2人、何かやっているんだろうか?


「とりあえず電話の女の存在だね。プライベートな話しをするような女っていないわけ?」

「プライベートな話をする女ねぇー? そんな女いないと思いますけど……」


 達也君が考え込む。


 雅輝くんは容姿がいいこともあって、とにかくモテる。

 私が横にいてもお構いなしに雅輝君に声をかけるのだ。

 なのに一緒に遊ぶのは私達グループにいる女子だけだと聞いたことがある。


「女性を信用していないふしがありますからねー。俺達にだってなかなか内心を明かさないのに女性に話すとはとても思えませんよ」

「まあ事情はわかった。こればかりは俺達がどんなことを考えても本人に確認できないのであればどうしようもない。七海、お前は彼と別れたくないんだよな?」

「……うん」


 好きだから別れたくなんてない。

 私の事好きかどうかはわからないから今まで通りに考えると、雅輝くんは好きでもない私と付き合っていて何か意味があるのだろうか?

 私がいることで彼は出会うべき女性と出会えなかったり、邪魔になるんじゃないかと不安でもある。


 雅輝くんの本当の気持ちが知りたい……。


 私、今まで彼の本心を聞くのが怖くて逃げてた。

 彼のそばにいたくて、負担になってるのか知りたくなくて自分から聞くことはなかった。

 いつまでも逃げているから苦しい。

 本当の言葉を聴いていないから、私は迷い続けてるんじゃないかな?


「私……、雅輝くんとちゃんと話してみたい……」

「七海ちゃん……」

「雅輝くんの本心をちゃんと聞こうとしなかったからいつも不安だったんだと思う。もう逃げるのはやめて、ちゃんとぶつかってみる!」


 そう決心して言葉にすると、達也君はちょっとびっくりした表情で、先輩はなんだか嬉しそうな笑顔を浮かべた。


 今度はちゃんと言葉にして聞く。

 望みがないなら、彼の言葉で終わりにしたい。

 そうしたらちゃんと前に進める。


 私はそう決心した……。

 




 決心した次の日。

 仕事も終わって、通勤の乗り換え駅にあるお気に入りの喫茶店に入る。


 ちゃんと話そうと決心したものの、どうすればいいのか悩んでしまう。

 メールや電話で出来る内容ではないから会って話しをしたい。

 けれど彼はいつも忙しい人で、デートする時間もままならなかった……。


 メールで『話しがしたいので空いている日を教えてください』とシンプルに予定を聞いてから会う約束をした方がいいと思うのだけれど……。

 そう思っても携帯を押す指が動かない。


 雅輝くんへの気持ちは以前のまま。

 彼が好きだ。

 彼に会いたい。

 それに会って真実を知りたいと思う気持ちはある。

 でも、知らなければ良かったと……そう思うような結果になんてなりたくない。

 そんな気持ちが渦巻く。

 ちゃんと話しをしようと決心したはずなのに真実から逃げようとしている自分がどこかにいた。


、どれくらい携帯とにらめっこしていたのだろう。

 いきなり携帯を持っている腕を掴まれて強く引っ張られた。

 急に引っ張られたせいでお尻が少し浮き上がり椅子がガタンと大きな音を立てる。


 顔をあげると、そこにいたのは怒った顔をした雅輝くんが立っていた。

 すごく怒っている表情でも私の心は跳ね上がる。

 私はそれほど彼だけが好きなのだ。


「話しがある」

「え? あ……」


 雅輝君は腕を掴んでいない方の手で私のカバンと注文書を持ってレジへと引っ張た。


「ま、雅輝君?」

「だまれ。何も話すな」


 低い小さな声。

 これはかなり怒っている時の態度だ。

 こういう時は大人しく従った方がいいことを私は知っている。


 雅輝君は手早く会計を済ませ、そのまま電車に乗り込む。

 その間も私の腕は離されることなくしっかりと掴まれていた。




 私は連れて来られるまま雅輝くんの部屋へと来ていた。

 小さなガラステーブル。

 その前で正座して小さくちぢこまって座っている私の向かいには、怒っている表情の雅輝くんが座っている。

 ここに連れて来られてからかれこれ一時間は過ぎようとしていた。


「あの……」


 3度目の話しかけにも雅輝君の表情は揺るがない。


 まったく話し出そうとしない雅輝君にどうすればいいのか私もわからずに俯く。

 元々無口な方なのに怒るとまったく話さなくなる。

 雅輝君はそういう人なのだ。


 話し出すのを待つしかないと諦めて、私は気づかれないように小さくため息をこぼす。

 ただ正座しているだけだなんて親に叱られている子供のようだ。


 それからしばらくして雅輝くんは水をひと口飲むと、やっと口を開いてくれた。


「昨日の夜。達也から電話があって別れた話しを聞いてないと言われた」

「あ、うん……」

「俺は別れたつもりはなかったが?」

「え?」


 衝撃的な雅輝くんの言葉に顔をあげる。


 別れたつもりない?

 つまりそれってまだ付き合っているってこと?


 クレッションマークを大量に量産している私を雅輝くんが睨む。

 整った端正な容姿だから睨むと凄みが増す。


「俺は怒っただけだ。それなのに電話は通じない。挙句の果てに達也になぜ別れたのかと責められた」

「……」

「なぜそうなったのか説明してくれ」


 強い視線が私をまっすぐに見る。


 会って話しをすると決めたのだ。

 偶然雅輝くんと会えてこうして話しが出来る。


 私は息を吸い込み少しだけ姿勢を正して話し出した。




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